ひまわりの回想
夕暮れ時、街の灯りがにじみ始める頃。 影山総悟は汗をにじませながら、ハンバーガーショップのドアを勢いよく開けた。
「お父さん、遅い!」
店内に響く元気な声。テーブル席から立ち上がった美絵子が、ぷんと頬を膨らませる。
「ごめんごめん、仕事が押しちゃってさ」
総悟は苦笑いで息を整えながら謝るが、美絵子はトレーを片づけながらそっぽを向く。
「もう!ライブに遅れたらどうするのよ」
「せめて…飲み物くらい、一緒に」
その一言に、美絵子は立ち止まり、少しだけ表情をゆるめた。
「……1杯だけだからね!」
「ありがとう、美絵子」
総悟は嬉しそうに笑い、レジの列へ向かう。
「お父さん!」
背中から呼ばれて振り向くと、彼女が柔らかく微笑んでいた。
「私、メロンソーダと、お父さんの好きなバーガーのセットね。食べられなかったら、お父さん食べて」
「そんなに頼んだら太るぞ~?」
「も~!お父さん!」
窓の外から見れば、まるで恋人のように仲睦まじい父娘の姿。 道行く人々の表情も、どこか優しく和らいでいた。
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ライブハウスは熱気と光に包まれていた。
「お父さん、あれがリナだよ!すごいでしょ?私の憧れなの!」
総悟の腕を引っ張る美絵子は、瞳をキラキラと輝かせていた。
人混みに気圧されながらも、総悟はリナの歌声に心を奪われていく。
鋭くも温かい歌声。躍動するステージ。情熱に火を灯された観客たち。
「この子…すごいな」
隣でリズムに乗る娘を見つめながら、静かに呟いた。
娘が夢中になる理由が、少しだけ分かった気がした。
ライブの終盤、割れんばかりの拍手の中、 総悟の胸に、美絵子の輝く笑顔が焼き付けられていった。
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ライブ終了後。 美絵子は関係者通路から舞台裏へと忍び込んでいた。
「あっ、ミィちゃん!今日も来てくれたんだ、ありがとう!」
ステージ衣装のまま、リナが笑顔で駆け寄る。
「うん……リナさん、お誕生日おめでとう」
美絵子は、照れくさそうに差し出した。
それは、ひまわりとリナのイラストが描かれた、手作りのフォトブック。
「わぁ…!ありがとう!私、ひまわり大好きなの!これ、一生の宝物だよ」
リナがぎゅっと抱きしめる。
「じゃあ……見つかったらダメだから、もう行くね」
「うん、また会おうね!」
別れ際、振り返らずに歩き出す美絵子。
リナはその背中を見送りながら、フォトブックを胸に抱きしめる。
ふたりは知らなかった。 それが、リナと美絵子にとって、最後の交流になることを――。
総悟の心には、娘の無邪気な笑顔と、リナの魂を震わせる歌声が 静かに、深く、永遠に響いていた。
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