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新しい声
半年後の夜、小さな部屋にスマートフォンがセットされた。画面には、「ミィコ」と名乗る少女のプロフィール。
シンプルな服、控えめな笑顔。彼女は深呼吸し、配信の「開始」ボタンを押した。
「やっほー、みんな!ミィコだよ。初めての配信、ドキドキしてるけど…歌ってみるね!」
声は少し震えていた。視聴者はまだ数人。コメント欄は静か。ミィコはギターを手に、目を閉じた。
過去の傷、届かなかった夢。それでも、歌いたいという衝動が、彼女を突き動かした。選んだのは、誰もが知るカバー曲。
弦を爪弾き、温かい声が部屋に響く。画面にコメントがちらほら現れた。
「いい声!」
「ミィコ、応援するよ!」
その言葉に、ミィコの唇が緩んだ。彼女は小さく笑い、言った。
「ありがとう…。私、歌うのが大好きだから。みんなと、もっと一緒にいたいな」
配信が終わり、ミィコは画面を閉じた。窓の外には、星が瞬く海。彼女はギターを抱き、静かに呟いた。
「ここから、始めよう」