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神社の境内の中にも、人はたくさんいた。
明日香は梓に手を引かれながら、長い神社の階段を上った。男の人に手を握ってもらってどこかの道の上を歩くことは、梢明日香の十六年の人生において、このときが生まれて初めての経験だった。
空想はたくさんした。でも、その相手はいつも片思いの朝陽先輩だった。
現実にはこうして日野梓がそのお相手となったわけだけど、悔しいことに、それほど悪い気はしなかった。
「匠は、西山さんのことが好きなんだよ」と梓は言った。
「え? そうなの?」と明日香は目を見張った。
「うん。ちょっと前にそう言っていた。こっちを二人にしてやるから、僕たちのことも応援しろって言っていた」
梓はそう言ってから後ろを振り向いて、明日香に向かってにっこりと笑って見せた。その笑顔に、明日香は少しときめいた。
「だから大丈夫だよ。確かに少し急な展開だったけど、大丈夫。匠はいいやつだよ。会ったばかりだけどそれはわかる。だから西山さんのことは匠に任せておけばいい。ね?」
「……うん」と明日香は言った。
それから二人は神社でお参りをした。
明日香は、茜が大丈夫なように、とお願いをした。隣でお願いごとをした梓が、このときなにを願ったのか、それはもちろん、明日香には全然わからなかった。