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あのとき、人生で一番明日香が弱っていたときに、梓の誘いを受けて、梓とデートをして、梓の告白を受けて、……その場で付き合うつもりなんてないのに、梓に甘えて、その答えを保留してしまったこと……。
朝陽先輩を失って、真っ暗闇の中で迷子になって、どっちに行っていいのかわからなくて、空からは雨が降ってきて、傘もなくてずぶ濡れになって、その場で立ち止まって、座り込んでわんわんと泣いてしまったこと。
そして今も泣いていること。ずっと、その場に座り続けていること。前に進めていないこと。
それが明日香の不調の原因だった。
お祭りの日、はっきりと梓に言おう。
お付き合いはできないって、梓に言おう。そしていつもの自分に、……ううん。これからの私が理想とする梢明日香になろう。それが私の今やるべきことなんだ。
明かりを決して、ベットの中で横になりながら明日香はそう決心した。そう決心すると不思議なくらいによく眠れた。危なく明日香は次の日、北高に遅刻しそうになったくらいだ。
その日の午後、バイト先に行くと木野さんがいた。
バイト終わりに休憩室で木野さんに明日香の考えを伝えると「いいんじゃない」とにっこりと笑って木野さんは明日香に言った。
木野さんはなんだかとても嬉しそうだった。だからそんな木野さんを見ていて、なんだか明日香も元気になった。