俺はこうしたい(2)
さて、自己紹介はひと通り済んだ。
「それでは、今回の議題について話す。」
須野は静かに立ち上がり、チョークを手に取ると黒板へと向かった。
無駄のない所作。その背中には、この空間そのものを支配しているかのような威圧感が宿っている。
“文化祭出し物案”
すらすらと、流れるような筆致でその文字を書き上げた。
「とはいえ、これはあくまで第一回だ。まずは案を出し合う段階。奇をてらう必要はないが、例年通りの退屈な案に終始するのも避けたい。——以上、会長の個人的見解だ。」
場は静まり返る。
須野は満足そうに一度うなずくと、教室をぐるりと見渡した。
「では、四人でグループを作り案を出してくれ。期限は……次回の委員会だ。」
その言葉を合図に、張り詰めていた空気が一気に解かれ、教室はざわつき始めた。
そのとき、後ろから声をかけられた。
「よぉ、琴音。」
ざわめく教室の中でも、不思議と通る櫻井の声。
琴音はびくりと肩を揺らし、数秒の硬直のあと、恐る恐る振り返る。
「……櫻井くん?」
かすかに震えた声。それでも、どこか安心したような、照れくさそうな響きが混じっている。
琴音は視線をそらしながら、髪を耳にかけ、ほんのりと微笑んだ。
「うん……その、どうかしたの?」
まるで誰かに聞かれるのが恥ずかしいとでもいうように、琴音はそっと立ち上がった。
ざわつく教室の中、ふたりだけの小さな空間が生まれる。
「いや、琴音見かけてさ。チーム組もうかなって。ほら、知ってる奴いたほうが安心だし。」
櫻井は照れくさそうに頭をかきながら笑う。
琴音は顔を少し赤らめ、ほっとしたように応じた。
「私たちも、メンバー探してたの。」
(やっぱり、いつもと違うな。普段からは想像できないような表情だ。)
そんな琴音の様子を、創二は静かに見つめた。
「ごめんなさい。急に組むことになってしまって……」
隣で成野が、申し訳なさそうに小声で謝る。
創二は軽く笑って、首を横に振った。
「気にしないでよ。早く班を決めて案を出した方が、後が楽になるし。」
(ここまでは、原作と同じ流れか。)
須野が再び口を開く。
「班が決まったら、解散して構わない。」
その一言を皮切りに、数人が早々に教室を後にし始める。
「俺たちは決まったし、案を出す前にファミレス行こうぜ!」
調子よく話を進める櫻井に、成野が慌ててブレーキをかけた。
「こら、まだいけるって誰も言ってないでしょ!」
「ごめんごめん。……二人はどう?」
櫻井は、少しテンションを落ち着かせてこちらに問いかける。
「俺はいけるけど、琴音はどうすr——」
「行く。行けるよ、私は!」
食い気味に、琴音が言葉を重ねる。
その顔は、普段の彼女からは考えられないほど生き生きとしていた。
——こうして、俺たちはファミレスに向かうことになった。