夢でよかった
創二がベッドから起きると、とある場所にいた。
そこはとても殺風景で、何もない部屋。
唯一あるのは、たくさん並んだ本棚だけ。創二がその本棚を覗くと、そこには『5人のヒロインに好かれて困っています。』という本のタイトルが書かれた本があった。
創二はあたりをよく見渡した。
「そうだ。忘れてた。ここは俺の部屋だ。じゃあ、あれは夢だったのか。」
そう独り言を呟いた直後、真っ白な扉から白いスーツを着た男たちが入ってきた。
「菊池 創二。貴方は、不良品とみなし、廃棄処分とします。」
スーツを着た男は淡々と告げる。
「いやいや、俺はこの施設で7位の成績を残してきてるんだぞ? 何かの間違いだろ!」
必死に創二は訴えた。それもそのはず、自分の命がかかっているのだから。
「貴方は何か勘違いされているようですね。どれだけ優秀であろうと、ネオデウス計画の邪魔になるなら始末する。」
そう言いながら、男は鉄製の銃のようなものを取り出し、創二に向けた。
「ふざけるなぁぁぁぁ!」
創二が飛びかかろうとした瞬間、視界が大きく揺れた——。
目を開けると、そこは『5人のヒロインに好かれて困っています。』の世界での創二の部屋だった。
「……なんだ。夢かよ。」
創二は倒れた自分の体を起こし、大きく息をついた。
この世界にやってきて、すでに四日が経っていた。
ここでわかったことは、まず、自分には母・菊池 久美子(36歳)、父・菊池 大翔(38歳)、そして妹・菊池 風華(13歳)がいるということ。母は専業主婦、父は公務員で、妹は中学1年生。家族構成だけを見れば、ごく普通の家庭のように思えた。
しかし、創二はこの家族にまったく心当たりがなかった。それもそのはず——この家族は『5人のヒロインに好かれて困っています。』の作中には登場しない人物たちなのだ。
それどころか、この世界のどこを探しても「菊池 創二」という名前の人物は存在していなかった。
さらに不可解なことがあった。
創二と幼馴染だという少女、綾華とは、幼稚園時代から家族ぐるみの付き合いがあるらしい。両家は昔、キャンプに行ったこともあるそうだ。
——だが、そんな記憶は一切ない。
そして、最大の違和感は、海道 颯太の存在だった。
創二は彼を探しにクラスや家に訪れた。しかし、そこに颯太はいなかった。両親はいたが、息子の話をすると戸惑った様子を見せた。
さらに調べたところ、海道夫婦は子供を授かることができず、不妊治療を行なったものの、結果は変わらなかったという話を耳にした。
創二は自分が調べ上げれるものは調べたつもりだった。もうこれ以上調べるにも、あてがないため、無理である。
創二は今日も綾華と一緒に登校するのであった。
教室のドアを開けると、ある男子が創二達の元へやってきて、こう聞いてきた。
「なぁ創二と綾華ちゃん、今日の放課後カラオケ行ける?」