自己紹介の勝者
創二には意味がわからなかった。
まるでステーキを食べに来たのに、ステーキが乗っていない鉄板を渡されたような気分だった。
創二は席に座りながら考えていた。
(この世界ではなぜ主人公が存在しない。いや存在するのか、もしかしたら存在はしている。存在しているのなら、なぜ主人公はここにいないのだろう。確かに俺がこの世界にいることによって、綾華と関係があることや自分の戸籍がある時点でおかしいのだが、それ以外に特に変化はない。なぜなのだろうか。)
教室の扉が、ガラガラと音を立てて開く。
そこに現れたのはウルフカットでクラス名簿を持っている。キリっとしている表情。大人の顔と言ったらこんな感じの人のだろう。
「みんな席に座って、今日からここのクラスの担任になる。武野 明です。」
明は名簿をめくり、一人一人の生徒の名前を読み上げる。
「菊池 創二君、菊池君。きーくちくーん。」
明は創二の耳元で名前を呼ぶ。
「はっい。はいはい」
「実に面白い反応してくれたから、今日は罰はなしにしよう。でも次同じようなことをすればどうなるんだろうね。」
「今回は早速だが委員会を決めてもらう。この学校では委員会は学級委員、図書委員、保健委員、風紀委員、選挙管理委員会、体育委員、ボランティア委員。この中から選んでもらう。もちろん全員入ってもらう。」
「早いと思うけど、この年から早めに決めることになった。」
「そうだ学級委員やりたい人。」
そこで手を挙げたのが、真琴と創二であった。
これは創二は狙っていなかった。確かに原作でも真琴は主人公と学級委員になっていたが、創二は学級委員というのを一度やってみたいと思い立候補した。
「珍しいね。早速埋まるなんて、それじゃあ学級委員は柊と菊池だな。」
「あなた私に合わせてあげたでしょ。」
「いや別に、ただ興味があるだけだよ。」
「白々しい。」
(本当にやりたかっただけなのに。)
その後はサクサクと委員会が決まっていった。
「それじゃあ次は、あっちゃー自己紹介を忘れていた。それなら自己紹介してもらおうか。」
次々へと紹介していく、皆んないろんな自己紹介があり、人の反応は様々だ。
どのような自己紹介にしようか創二迷っていた。
そう迷っているとついにその時が来た。
「次は菊池くんだね。自己紹介お願い。」
「えーっと、菊池 創二です。」
「何か趣味とじゃ特技とかない?」
「あー特技は特にないですが、趣味は小説とか読むことです。」
創二は自分にとっての100点の自己紹介だと思っていた。
だが、周囲の反応は思ったより薄かった。ただ、形式的な拍手だけが教室に鳴り響く。
(……なんか思ってたのと違うな。)
そんなことを考えていると、真琴の番となった。
「柊 真琴です。私はこの学校の生徒会長になりたいです。」
その一言で、クラスの雰囲気が変わった。ざわめきが広がり、何人かが感心したように頷く。
(すげぇ、こんなシンプルな一言で空気を掴めるのか……。)
創二は羨ましさを感じながら、彼女の存在感の強さを改めて思い知らされた。