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主人公がいないのですが。

三話目も読んでくださりありがとうございます。

柊 真琴の代表挨拶が始まる。


彼女を花に例えるなら、藤の花だ。

気高く、凛とした佇まいと静かな気品。その美しさは、周囲の生徒たちを熱狂させるほどだった。さっきまでざわついていた体育館は、一瞬にして静寂に包まれる。


真琴が一言発するたびに、空気が震えるようだった。


演説が終わると、拍手喝采。誰もが彼女に魅了され、称賛を惜しまない。創二はそれをぼんやりと眺めながら、(これで終わりか)と考えた。


指示に従い生徒たちは次々に立ち上がる。


創二も自然と校門へ向かった。その瞬間。


「そこの君、待ちなさい。」


低く響く声に振り向くと、黒いジャージを着た体育会系の先生が立っていた。


「どうした? 体調でも悪いのか?」


唐突な問いかけに、創二は眉をひそめた。なぜ、体調を心配される?


「いや、別にどこも悪くないですが。」


「なら、なぜ帰ろうとした?」


意味が分からず、辺りを見回す。……誰も校門へは向かっていない。生徒たちは校舎の中へと入っていく。


(……なんで?)


瞬間、全てを理解した。入学式はまだ終わっていないのだ。


「すみません、もう終わったかと……。」


苦笑いで誤魔化すと、先生は呆れたように腕を組む。


「メールに送ってあるから、確認しろ。」


(いや、どのメール? どこ宛て?)


創二が戸惑っていると、綾華が現れた。


「あんた、私と同じクラスでしょ。」


「あ、そうだった。ごめんごめん。」


「本当に世話が焼けるわ。」


ため息をつく綾華。だがその表情は、どこか呆れつつも面倒見の良さを感じさせた。


「ほら、行くよ。」


手を引かれ、連れて行かれたのは1-Cの教室。


黒板には出席番号順に名前が書かれ、創二の席は真ん中の後ろから2番目の左側だった。


隣の席には──


柊 真琴。


(まじか……!)


驚きと嬉しさで、思わず跳ねそうになる。しかし、興奮を抑えつつ、創二は自然に話しかけた。


「よろしく。俺、菊池 創二。柊さんだよね?」


「あの演説、よかったよ。俺、あんな──」


「ごめんだけど、馴れ合いなんてしたくないの。」


真琴の冷たい視線。その棘のある言葉に、創二は一瞬動きを止めた。


しかし──なぜか、心が踊った。


(はは……なるほど、そういう感じか。)


創二は視線をそらし、ふと教室を見渡す。


──違和感。


(……あれ?)


この世界の「主人公」。海道 颯太。


いない。


本来なら、颯太もこの1-Cの教室にいるはずだった。


(おかしい。)


席を見ても、彼の名札はない。周囲を探しても、彼の姿はどこにもない。


その時、目に留まったのは神道 隼人。


颯太の親友であり、イケメンモテ男。小中高とずっと一緒で、物語の主要キャラの一人。


創二は席を立ち、隼人に近づく。


「俺、菊池 創二。よろしく。」


「ああ、よろしく。」


軽いノリ。だが、創二は探るように聞いた。


「君の名前、聞かせてもらってもいい?」


「神道 隼人。」


「隼人……あれ? 颯太の友達?」


「え? 颯太?」


隼人の表情が曇る。


「誰、それ?」


「え……? ほら、お前の親友だろ? 海道 颯太。」


「いや、そんな奴知らないけど。」


一瞬、創二は固まった。


(……何言ってんだ?)


隼人が知らない? いや、そんなはずはない。隼人と颯太はセットのような存在だった。


「ごめん、人違いかも。隼人って名前、よくあるしな。」


とりあえず笑って誤魔化す。しかし、頭の中は混乱していた。


(ありえない。絶対におかしい。)


「もうそろそろ先生が来るぞ。席戻れよ。」


隼人は気にする様子もなく、軽く手を振る。


創二は席に戻りながら、考えを巡らせる。


(この世界には、海道 颯太がいない……?)


胸の奥に、得体の知れない不安が広がっていく。


(……これは、どういうことだ?)



投稿頻度なのですが、月に一回は最低でも出そうかと思っています。

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