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第四章 月下美人の少女

 

 渉とレオルがのんびりとした旅を続けている中、彼らは次第に山岳地帯へと足を踏み入れていた。山肌には青々とした木々が生い茂り、空気がひんやりとして心地よい。渉はカメラを手に、またしてもその風景を撮影していた。


「山の風景もいいな……でも、レオルの故郷はもっとすごいんだろう?」

「もちろんだ。ここよりもはるかに壮大だぞ。けど、その前に少し寄り道だな」


 レオルが指さす方向には、小さな川が流れていた。その川のほとりで、一人の少女が佇んでいた。長い銀髪が風になびき、深い青の瞳が印象的な少女。彼女は何かを静かに見つめながら、手のひらで水をすくい上げていた。


「エルフか? こんな場所で一人とは珍しいな」


 レオルが眉をひそめながら呟いた。エルフは魔力に長け、孤立して生きる種族だという知識が彼にはあったが、それでも一人でいることは珍しい。


 渉はカメラを取り出し、少女の姿をレンズ越しに覗き込んだ。その静かな美しさと儚げな雰囲気が、まるで風景の一部のように彼を惹きつけた。


「まるで月下美人みたいだな」

「月下美人?」

「俺の世界の白い綺麗な花なんだ」



 渉たちが話している声に驚いたのか少女は振り返った。目が合うと、彼女は一瞬怯えた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。彼女の深い青の瞳が、何か悲しみを抱えているように見えた。


「驚かせてごめんね、俺は小鳥遊 渉。こっちの獣人族の戦士がレオル。俺たちは旅の途中で、この辺りを通りかかったんだ。君は?」

「私は……アクア」


 その声はどこか弱々しく、心身ともに疲れ果てた様子が伝わってくる。渉は彼女の姿を見て、何かがただ事ではないと感じた。


「エルフがこんな場所で何をしているんだ? 仲間はどこだ?」


 レオルが鋭く問いかけると、アクアは少し俯き、かすかに震える声で答えた。


「私はエルフじゃない……ハーフエルフ」


 その言葉を聞いた瞬間、レオルの表情が一変した。ハーフエルフ――エルフと人間の間に生まれた者たちは、純血のエルフや人間から迫害されることが多い。どちらの世界にも属せず、孤独な存在として生きる運命を背負っていた。


「そうか……それで一人で」


 レオルはすぐに言葉を飲み込んだ。アクアが一人で旅をしている理由が何となくわかり、彼女の心の傷を刺激したくないと思ったのだ。渉もその場の空気を感じ取り、優しく彼女に話しかけた。


「アクア、君が行く場所がないなら、俺たちと一緒に来ないか? 俺たちも旅の途中だ。誰かと一緒にいれば、少しは楽になるかもしれないよ」


 アクアはしばらく渉の言葉を考えるように黙っていた。彼女の心にはまだ不信感や恐れが残っている様子だったが、渉の優しい表情を見て、ほんの少しだけ心を開いたようだった。


「……本当にいいの?」


 その問いかけに、渉は大きく頷いた。


「もちろんだよ。君が嫌でなければ、ぜひ一緒に」


 レオルも少しばつが悪そうにしながら、彼女に手を差し出した。


「悪かったな、ハーフエルフだってわからなかったんだ。でも、仲間として迎えるのに問題はない。これからは俺たちがいるから、一人じゃない」


 アクアはその言葉に驚いたように目を見開いたが、次第に涙を浮かべながら、小さく頷いた。


「……ありがとう」


 彼女の声は震えていたが、心の奥でようやく少しだけ救われたように感じていた。こうして、渉とレオルに新たな仲間アクアが加わり、三人の旅が始まった。


 渉はカメラを取り出し、彼女の姿をそっと撮影した。彼女の瞳の奥にある深い悲しみと、それでも前を向こうとする決意を映し出すように。


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