第二章 初めての戦い
渉がレオルと出会って数日が経った。二人は険しい森の中を進んでいた。レオルはその野生的な感覚を活かして危険を察知し、渉を導いていたが、渉にとってはまさに未知の世界だった。彼はカメラを手に、この異世界の風景を記録し続けていた。
「この森、何か嫌な予感がする。気をつけろよ」
レオルが声を低めて警戒を促す。渉はその言葉に応じてカメラをしまい、周囲に目を配り始めた。
「嫌な予感って、具体的には?」
「動物の気配が全くない。普段ならここら辺で何かしらの生き物がいるはずだが……」
渉が質問しようとしたその瞬間、耳をつんざくような唸り声が森の奥から響いた。渉は立ち止まり、レオルに目を向けた。
「来たぞ、あいつらだ!」
すると、木々の陰から姿を現したのはあの時襲ってきた巨大な生物――狼のような姿をした魔物だった。毛皮は真っ黒で、鋭い爪が光り、血走った目で渉とレオルを睨んでいる。
「またかよ……!」
渉は恐怖で一瞬固まってしまうが、レオルはすでに剣を構えて魔物に向かっていた。
「お前は後ろに下がっていろ、俺が片付ける!」
レオルは素早く前に出て、魔物と対峙する。獣人族の戦士としての力を発揮し、彼は攻撃を仕掛けるが、相手もまた俊敏な動きを見せる。魔物の鋭い爪がレオルをかすめるが、彼は冷静にかわし、逆にカウンターを叩き込む。
その戦いを見つめていた渉は、自分の無力さを痛感していた。異世界に来てから何もできず、ただ助けられるだけの自分。このままでいいのかという思いが胸をかすめる。
「俺も……何かしなくちゃ」
渉は背中にあるカメラをもう一度取り出す。元の世界から持ってきた唯一の道具。記録するだけでなく、もっと使い道がないかと考え、魔物の動きを冷静に観察する。
「レオル! そいつの右後ろ足、狙えるか?」
「は?」
「そこが弱そうだ、よく見れば動きが他より鈍い!」
レオルは驚きながらも、渉の指示に従って剣を振るい、見事に魔物の右後ろ足を攻撃した。その一撃で魔物はバランスを崩し、倒れ込む。
「今だ、レオル!」
レオルは渉の声を受け、魔物の首元に渾身の一撃を加えた。魔物は苦痛の叫びを上げ、そのまま動かなくなった。
「ふう……これで終わりだな」
レオルは剣を収め、渉に向き直った。彼の表情は満足げだった。
「お前、ただの人間だと思ってたが、意外とやるじゃねぇか!」
「少しでも役に立ったならよかったよ」
渉は照れ隠しに笑ってみせたが、内心では自分が少し役に立てたことに誇りを感じていた。
「これからも一緒に戦うなら、もう少し鍛えておいた方がいいな」
「それは……勘弁してほしいけど、考えておくよ」
二人は再び旅路を歩み始める。
まだ見ぬ未開の地に心を踊らせていることに渉はまだ気付いていないのだろう。楽しげな様子の渉にレオルもまた笑みを浮かべていた。