第64話 ジャックと、その婚約者の行方(上)
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――ジャックの婚約者side――
わたくし、シャナリア・エスターク伯爵令嬢は、現在21歳。
婚期を既に逃しているわたくしだけど、未だ 『婚約中』 を継続中なのです。
相手は妹を追いかけて家を飛び出していった、ジャック。
わたくしとジャックの婚約関係は、とても良好であった。
幼い頃から婚約し、宰相の息子とは思えぬほどに大らかで、体の細い宰相夫妻とは違い、体の大きな勇ましいジャックに、わたくしは心の底から慕っていた。
しかし、宰相がジャックの妹、マリリンを家から追放してから、ジャックの口数は一気に減り、食事も喉を通らなくなっていった姿に胸を痛め、大事な妹を追いかけたい気持ちをわたくしの為に我慢しているジャックを焚き付け、解放したのだ。
去っていくジャックの背を見送りながらも、わたくしは気高く真っ直ぐと立ち、涙を零しながらもジャックの行く末を祈った。
それと同時に、自分にルールを決めたのである。
それが――婚約破棄をせず、ジャックが結婚しない限り、生涯待ち続けると言うものであった。
無論、マギラーニと両親は「ジャックは平民となったのだから」と煩く言ってきたが、全て突っぱねた。
婚約破棄には互いの署名が無いと出来ない。
ましてや、ジャックとわたくしは婚約届を既に教会に提出しており、互いの血が必要だったのだ。
理由があれば教会側も婚約破棄をさせてくれるが、わたくしが頑なにジャックとの婚約を破棄しないと言い張った為、21歳になる彼女は今も独身である。
そのジャックが、妹のマリリンと共にムギーラ王国に帰ってきたとき、誰よりも喜んだのは言うまでもなくわたくしであった。
しかし、待てど暮らせどジャックは会いに来ない。
それもその筈、ジャックを送り出す際にわたくしは言ってしまったのだ。
「貴方との婚約破棄はコチラからしておきますから、どうぞマリリンを追って助けて差し上げてくださいませ」
その言葉を信じたからこそ、ジャックはマリリンの許へと行けたのだ。
無論、ジャックが結婚していれば婚約破棄をしようと決めていた。
だがジャックは結婚どころか恋人すら作っていなかったのだ。
その情報が入ってきたとき、シャナリアは部屋で一人嬉し泣きをした。
『君以上の素晴らしい女性はこの世にいないよ』
かつてジャックはそう言ってわたくしと婚約したのだ。
まるでそれを守っているかのように、ジャックの周りを探っても女の影は無かった。
花街にはいるのではと探したが、それすらなかったのである。
ジャックの誠実さを感じたが、自分からジャックに連絡することもしなかった。
(これで良いのよ。ジャックは自由であるべきだもの……わたくしがいれば足枷になるわ)
だからこそ……涙を人に見せぬよう、毅然とした対応で生きてきた。
それは全て、今も愛してやまないジャックの為に――……。
わたくしは今日もいつも通り過ごしていた。
人気作家が書いたと言うマリリンとカズマ様を題材にした小説を読み、紅茶を飲んでひと息入れたその瞬間――屋敷の中を誰かが音をたてて走っている事に気が付いた。
何事かと立ち上がろうとした次の瞬間、部屋の扉が開き、肩で息をしながらこちらを見つめる男性と目が合った。
「シャナリア」
「―――っ」
あの頃よりも筋肉質になったジャックの登場に、わたくしは驚きのあまり力が抜けて椅子に座り込んでしまった。
――会いたかった。
ずっとずっと昔から憧れていた婚約者。
――無事で良かった。
怪我をしていないか毎晩神に祈りを捧げ続けた。
――今も変わらず、彼だけを愛してる。
けれど、絶対に口に出してはいけない事……。
「……お帰りなさい、ジャック」
何とか口から出た言葉に、ジャックは顔をクシャリと歪ませた後、涙を流しながら歩み寄った。
言いたい事、話したい事、沢山あるのに二人は言葉が中々出てこない。
それでも。それでも――。
「……父から聞いた。シャナリアは俺と婚約破棄したんじゃなかったのか?」
「――っ」
「マリリンを追いかけて助けさせるために、お前は犠牲になろうとしたのか?」
「………」
返事が出来なかった。
どれもこれも当たっていたからだ。
「そう言う貴方だから、言えなかったのよ」
「シャナリア」
「わたくしはマリリンの事を大事に思うジャックの事も愛していたの! 止められない、止めたくもない! でもわたくしは貴方だけの婚約者であり続けたかったの!」
口に出せばもう止まらない。
会いたかった。
ずっと心配し続けた。
毎朝毎晩神に祈った、無事であるようにと。
ジャックが生きてくれてさえいれば、それだけで良かったのだとシャナリアは声を荒げて伝えた。
「……無論、貴方が別の女性と結婚したと言うのであれば、婚約は破棄したわ。ずっと調べさせてたの……花街の情報だって仕入れてたわ」
「シャナリア……君は、」
「酷い独占欲でしょう? 嫌になったでしょう? でもこれがわたくしなのよ」
気付けば涙が溢れていた。
それでも構わずわたくしは語り続けた。
「マリリンは無事、運命の相手と出会えたのね……」
「……ああ、君も知っているだろうが、今ではムギーラ国王の相談役だ」
「凄い男性を夫にしたわねマリリン。誇らしいわ」
もう、義妹とは呼べないだろうけれど、それでも自分の事のように誇らしかった。
幼い頃からマリリンとは姉妹のように仲良くて、そんなマリリンが追い出された時は怒り狂ったほどだった。
「シャナリア、君に言わなくちゃならない事がある」
「……なに?」
「もう一度、俺を選んでくれるかい?」
思いがけない言葉だった。
わたくしは目を見開きジャックを見ると、ジャックは頭を掻きながら次の言葉を何とか言おうと頑張っているではないか。
「昨日の夜、父がギルドに来て……全部話してくれた。君が俺と婚約破棄をしていないことも。他の婚約も突っぱねていることも。このまま独身を貫く覚悟があることも」
「……何故」
「もし、まだこんな俺に気持ちがあるのなら、俺と結婚を前提にもう一度付き合って欲しい。それに俺は一度家に戻る事になった。冒険者は続けるが、建前的に貴族に戻ったんだ」
マギラーニ宰相は、このままアスランが修道院に入った際、家の跡継ぎとしての人間がいなくなれば分家が乗り込んでくることが分かり切っていた。
故に、目くらましでもいいから貴族に戻る事を許してくれたのだ。
「君にもう一度言わせて欲しい。君以上の素晴らしい女性はこの世にいないよ……だから俺と婚約してください」
ドレスコードもしてなければ、贈り物もない。
ただ、自室にてジャックから言われた言葉は、どんなプレゼントよりも、何よりも嬉しかった。
「……仕方ありませんわね。でも勘違いなさらないで欲しいの」
「何を……」
「貴方とわたくし、まだ婚約中ですわよ? だったら言う言葉が違うとは思いません?」
欲しい言葉ではあった。
でも、もっともっと、ずっと言って欲しかった言葉が欲しい。
「……俺を選べシャナリア。俺と結婚して欲しい」
「勿論よ。待ち草臥れちゃったわ」
そう言うとわたくしは立ち上がりジャックを抱きしめた。
ずっとずっと想い続けてきた相手。
ずっとずっと帰りを待ち続けて、やっと手に入れた大好きな愛しい男性。
「ふふふ……マギラーニ宰相から何を言われたのか教えてくださる?」
「恥ずかしいが、君の我儘をきけない俺じゃないよ」
「ええ、解かってますわ」
こうして、ジャックはマギラーニに何を言われたのか語り始めるのだった。
それは昨日の夜の事――。
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