第16話 ザマァは確実に、そして息の根を止めるように(下)
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静まり返ったホール内。
「まさか」「そんな」と誰かが呟けば大きな波紋となって声が広がっていったが――。
「ふ……不敬であるぞ!!」
唾を飛ばしながら王配が叫んだ。
だが、此れも想定内の事なので、努めて不思議そうな表情を浮かべた。
「不敬……ですか?」
「そうだとも!! 一国の女王陛下に対しその態度! そもそも、それほど美しいドレスや宝石等、その女には必要のないものであろう!?」
「それこそ、我が妻に対し、そして国を守るギルドマスターに対し、失礼であり不敬ではありませんか。ああ、そう言えばこの国はその感覚がないのでしたっけ?
私は他国の出身ですが、我が祖国も他の国も、ギルドに依頼をすればそれに応じた依頼料を支払いますが……。
どうやらこの国では、国からレディー・マッスルに討伐依頼などを含めた全ての依頼に関して、今まで一切の依頼料が支払われていませんよね? それは何故です? この国とはそこまでひっ迫しているのでしょうか?」
思わぬ反撃だったのだろう。
女王は顔を引き攣らせ、王配は言葉を呑み込んだ。
「他国より妻の許へ来たもので、無知で申し訳ございません。一般的な国は働きに対し、ギルドへそれ相応の支払いを行っていたので、この国にきて驚いたのです。
まさか国自体が世界屈指のギルドを蔑ろにし、尚且つ、今までの依頼料を一切支払っていない事には、何か深い理由がおありなのでしょうか?
ですが、この様なパーティーは頻繁に行われているようですし、国がひっ迫していると言う訳ではないとは思うのですが……その辺り、どうなっているのでしょう?」
この事実は貴族たちにとっては初めて聞く国のスキャンダルだったようで、会場はざわめきに満ちた。
だが――。
「それは、我が夫である王配の元婚約者であることが原因です」
声を上げたのは女王陛下だった。
僕は静かに女王陛下を見つめ、次の言葉を待った。
「我が夫の元婚約者なのですから、国からの依頼を無償で行うのは当たり前です!」
「そ……そうだとも!! 寧ろ感謝して欲しいくらいだ!!」
「なるほど……。王配の元婚約者であるから、命を賭けることも当たり前の事である。そう仰るのですね?」
「その通りよ!」
「そうでしたか。納得出来ました」
すこぶる良い笑顔で微笑むと、二人はシテヤッタリと言った雰囲気で勝ち誇った表情を浮かべたが――。
「では、その様なしがらみのあるこの国から、我がレディー・マッスルは撤退し、他国にギルドを再度立ち上げる事に致します。ああ、無論、ギルドへの依頼料を支払わず、まるで奴隷のように働かせていたことについても、他国に通達しておきましょう」
「「!!」」
「約束を違う国を、一体どこの国が信用し、信頼するでしょうね。信用を失うと言う事は大変恐ろしい事です。そもそも、この国にレディー・マッスルが存在していたからこそ、他国からの侵略などを防げていたと言うのに。
この国の女王陛下ともあろうお方が、その事実を自分本位に曲げていることも理解出来ました。これ以上この国にギルドを置いておく義理もありません。
それでは早速我々はギルドに帰り、他国に移籍する話を進めましょう。世界屈指のギルドですから引く手あまたでしょうしね。移籍を喜ぶ国は多いでしょう」
ニッコリと微笑みマリリンの手を取ると、彼女は驚いた様子で僕を見つめていた。
心配はいらない……その意味を込めてマリリンの手を強く握ると、彼女は少しだけホッと息を吐いた。
「ああ、それともう一つ。マリリンの元婚約者であることを二度と口にしないで頂きたいですね。彼女は、僕のたった一人の大事な妻です。ご結婚されているのに今なお婚約者面されるのは、大変気分が悪い」
「な!!」
「それでは私たちは他国に移籍する為に決めなくてはならない事が沢山できましたので、これで失礼致しますわね。行きましょうカズマ」
「ええ、忙しくなりそうですね」
そう言って互いに強く手を握りしめ、カズマとマリリンを守るようにジャックとマイケルが護衛しながら馬車に乗り込むことが出来た。
無論、汚い叫び声が聞こえていたが、その辺の虫の声だと思い無視した。
ゆっくりと走り出した馬車の中、ジャックは声を出して笑い始め、マイケルも肩を震わせながら笑っている。
マリリンに至っては、本当にスッキリしたと言わんばかりの笑顔だ。
「この程度の事しか言えず申し訳ありません」
「いや、今まで国が必死に隠していた依頼料の踏み倒しに加え、他国への移籍をあの場で断言したことは称賛に値する。ましてや、信頼を失った国がどうなるのか……ククク」
「カズマ様は中々に切れ者だな!」
「いえいえ、僕は浅慮なだけですよ。何時まで経っても妻を自分の物だったと言っている王配に対しイライラしていましたし、何より大事な妻を侮辱したことは決して許される事ではありませんからね」
今まで文句を言われても嘲笑われてもぐっと我慢してきた面々はカズマに深々と頭を下げ、マリリンは「カズマッ」と口にして感動しきっている。
余程今まで苦労させられてきたのだろう……。
「早めに移籍先を決めて、さっさとこの国を出ていきましょう。何かしら言ってくるでしょうが、何とでも言いくるめられます」
「そうだな、マリリンとカズマ様が他国に打診に行っていて留守をしている。決定権を持つ二人がいらっしゃらないので、こちらからは何もいう事は御座いません……。この辺りか?」
マイケルの言葉にニッコリと微笑んで頷くと、彼は声を出して笑った。
ギルドに帰ると、ギルドに所属する冒険者及び錬金術師たちを呼び、この国を捨て別の国に移籍することを大々的に伝えた。
そして、直ぐにでも他国に移籍先として打診することも伝えると、一部困惑した冒険者もいたが、概ね歓迎ムードだったようだ。
無論、アフターケアも忘れない。
「もし、この国に残らねばならない理由がある冒険者がいらっしゃるのであれば手を挙げて理由を教えて頂きたい。出来うる限りの事は致します」
そう僕が伝えると、数名の冒険者が手を挙げた。
彼らの言い分は、幼い兄弟がこの街で暮らしている事だったり、老いた両親がいることだったりと、大体が家族に関するものばかりだった。
「解りました。こんなやり方は本来したくはありませんが、移籍先が決まり次第、大切なご家族も含め、馬車を使い丁重に引っ越しを行いましょう。その資金は私が出します」
「「「本当ですか!?」」」
「家族を守る為に、家族の為に冒険者になった方々とて多いのは事実でしょう? その家族を捨てろ等と非道なことは言いませんし致しません。諸々その辺りも含めて、移籍先でも家族が生活出来るように検討します。暫く時間を頂くこととはなりますが、決して見捨てない事を誓いましょう。マリリン、そうですよね?」
笑顔で彼女に伝えると、マリリンは強く頷き「無論だとも!!」と声を張り上げた。
一斉に響く歓喜に満ちた雄叫び。
――こうして、出来うる限り待遇が良い国への移籍先を見つけることになり、尚且つ上着を脱いだだけの状態のままカズマはジャックとマイケルと共に移籍先の絞り込みに入った。
優先すべきは、冒険者たちに適した仕事があり、それでいて、冒険者の家族が住むことが出来る家がある事と、レディー・マッスルが全部入るだけの土地があることが最低条件。
驚いたことに、マリリンの空間魔法は、この巨大な施設が全て入るほどの力を持っているらしく、引っ越しに関しては楽に済みそうだ。
「ダンジョンがあり、尚且つ、そこまで治安が悪い場所でなければ最善だが」
「後は国王の人柄の良さも大事だな。カズマはどう思う?」
そう問いかけられた僕は、各資料を速読で読み、内容を精査すると――二人が目をつけなかった国を指さした。
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