第11話 怒涛の仕事を終え、愛しのカズマの元へ戻ろうとしたのに
お越しくださりありがとうございます!!
――マリリンside――
その後も我は気持ちを奮い立たせ、カズマの家族から頼まれていた化粧品を含む主婦や女性に嬉しいアイテム等の換金を行い、それらを取得した日本語でノートに記録した。
それらの全てが高額なもので、特に我が使用していた化粧品やシャンプーやトリートメントに至っては、とんでもない金額が付き、如何に異世界で……いや、我の義実家となる家族から如何に大事にされているのかを改めて知った兄、ジャックは泣き崩れた。
換金はしていないが、我が異世界から持ってきた服装には、兄とマイケルは興味津々に見つめていた。
なんと、お義母様はネットの力をフルに使い、我の体系にあう女性用の美しい服装から靴から買い与え、更に言えば、普段着や普段靴も女性らしい服装の物を用意してくれていたのだ。
それら全てはこの世界では斬新であり、スタイリッシュであり、とても美しく、尚且つこちらの世界で作ろうとしても絶対に作ることのできない生地であり、おしゃれ着に関しては、女王陛下が欲しても手に入れることは不可能だろう。
「マリリン……お前は嫁ぎ先でこんなにも良くして貰って……本当に幸せ者だな」
「ああ……あんなクズ男と結婚しなくて良かったと思っている」
「だが、このドレスで公爵家に戻ればご両親は驚くんじゃないか?」
「そうだな、そんな時が来れば会いに行ってやらなくもない」
そう言って金平糖を口に運んだ我は至福の笑みを浮かべ、暫くするとカズマの事を思い浮かべた。
恋する世紀末覇者……ではなく、恋する乙女の表情でウットリとした。
「カズマ様がこちらにお越しになった際には、我々も丁重にお迎えせねばな」
「ああ、それにこれだけの物を此方の世界にもたらしてくれると言うのならば、それなりに契約も必要となるだろう」
「ああ、そうだそうだ。義母様と義父様から、個人的に渡されているものがあるんだ。我がギルドマスターだと話をしていたんだがね。こちらの世界に戻った際、質の悪い調味料で我が体調を崩しては大変だと言われてな!」
そう言うと、複数の段ボールが空間魔法からドンドンと床に降ってくると、そこには先ほど恐ろしい値段の付いた砂糖や塩、そして胡椒等の調味料が大量に入っていた。
これぞ、カズマ両親が使ったネットを使っての箱買いである。
運んだのは無論、我だが。
「義実家はお前の体の事をここまで気を使ってくださるのか!!」
「これだけあれば、ある程度のギルド面子たちにも美味しい料理が口に入るだろう? 士気の向上にも素晴らしいとは思わんかね?」
「「マリリン……なんて良い子」」
オリハルコン1つの値段を少し使わせて貰い、義両親が我の士気向上の為にも購入して下さった。
直ぐに料理長及び副料理長が呼ばれ、目にした品質最高級の調味料に腰を抜かし、その日の夕飯から質の悪い調味料は使われなくなるのは言うまでも無い訳だが。
無論、それだけではない。
女性風呂と男性風呂には、使用方法を書いた異世界の石鹸が用意され、シャンプーとコンディショナーが備え付けられ、脱衣所には我が使っているものよりは質は落ちるが、化粧水や乳液が用意され、男性陣の元には清涼感溢れる化粧品が置かれるようになった。
そして、それらがギルドの外に話のタネとして広がり始める頃、我は溜まっていた仕事を終え、異世界へ戻ろうとしていたのだが――。
「なに? 至急王城へ来いと?」
いざ、愛しのカズマの許へ!!! と息巻いていた我に、会いたくもない女王の使いがやってきたのだ。
その王城には――王配として元婚約者がいるのだが、それをネタに依頼料の支払いをずっと行っていないのだ。
タダでさえギルド面子が命がけで行う依頼でも金を支払わないその城へ向かう事はイライラするというのに、いま、まさにカズマに会いに行こうとしていた我は怒りに狂いそうだった。
だが、考えてみれば我は忙しい身だ。
何時もギルドにマリリンがいるとは限らない訳で。
「使者には俺が相手をしよう。マリリンは今留守にしていると。戻ってきた暁にはご連絡すると言ってくる。マリリンは寝る間も惜しんで仕事をしたんだ……カズマ様の許へ迎え」
「兄さん……」
「なぁに、何か言われれば、マリリンは愛しい夫とラブラブの旅行に出かけていると言ってくるさ」
「頼む!」
我と兄が強い握手をすると、城の使者に見つからぬよう自室へと戻り、我はカズマの待つ異世界への鏡へと入っていった。
それを見届けた兄とマイケルは我の部屋に厳重な封印魔法を掛け、王宮魔導士ですら封印を解くことが出来ないレベルのモノを掛けたのだ。
封印を解くことができるのは――我と兄達のみ。
我を見守ってきた兄とマイケルは、我の今後の幸せを真っ先に守ったのである。
――二人とも、感謝する!!
◆◆◆
使者は、高級な応接室で待っていた。
高飛車で気位の高いあの城の者に相応しい、世界屈指のギルドに対し威圧的な態度の使者に対し、ジャックとマイケルが部屋に入ると、使者は眉を寄せ「ギルドマスター殿は?」と開口一番に口にした。
「申し訳ございません。マリリンは現在不在でして」
「ああ、今度はどんな魔物相手に拳を振るっていらっしゃるのかな? まぁ、世界中から依頼が舞い込んでくるギルドですからね。しかし困りましたな……陛下のご命令で来たのですが」
「どのようなご用件でしょう」
「最近ギルドマスター様はお忙しいのか、全く城にお越しにならないので、ご心配なさっているのですよ。恋の一つも成就できないお姿を見て悲しんでいらっしゃいます」
――どの口が言うか。
そう俺は思ったが、あくまで笑顔で対応する。
「それは、ご心配頂き有難うございます」
「それで、御用はそれだけでしょうか?」
「いえいえ、最近こちらのギルドの男性も女性も美しくなったと評判でね。美しさとはやはり女王陛下にこそ必要な事……。その秘密とでも申しましょうか? 買えるものであれば手に入れてこいと言われましてね」
「なるほど、なるほど」
「実は、お売りすることは出来ないのですよ。お作りすることも今は無理でして」
ニッコリと笑顔で使者に伝えると、使者は顔を真っ赤にして言葉を出そうと踏ん張っているようだった。何とも面白い光景だ。
「では、一体どこで手に入れたのかは」
「その情報に対し、そちらはどれ程の金銭を支払いできるんですかね? 今までのたまりにたまったツケもまだ支払ってもらっていませんので、お話ししたくても、とてもとても」
「――では! ギルドマスターがお戻りになったら直ぐに城に来るようにお伝えください!!」
「戻ってくるのは、暫く掛かるかもしれません」
「なんだって!?」
「申し訳ありません。妹のマリリンは現在、夫とラブラブ旅行中でして。何時帰ってくるとも聞いていないのですよ」
俺の言葉に使者は驚きの表情をそのままに固まった。
それもそうだろう。
マリリンに彼氏どころか、夫が出来たと言えば驚きもするだろう。
「ですので、ちゃんとした日時と言うものが分からず……申し訳ありません」
「ですが喜ばしい事ですよね。世界屈指のギルドマスターであり、世界最強で唯一英雄の称号を持つ冒険者であるマリリンに、やっと心から互いに愛し合える男性が出来たのですから! 旅行から帰ってきて暫くすれば、全世界にこの事を通達する予定だったのですが。本当に今からどれ程のお祝いの品が届くのか楽しみです」
「――失礼する!!」
お祝いの言葉もない。
使者は逃げるように応接室を出ていき、二人は鼻を鳴らして美味しくもないこの世界の紅茶を飲んだ。
さて、マリリンの元婚約者である彼は、この話を聞いてどう動くだろうか。
願わくば、カズマ様が素晴らしい交渉術を持っていて、マリリンをサポートしてくれるだけの男性であることを切に願うばかりである。
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