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11.知らないうちに恐ろしい犯罪にかかわりあっていましたのね


 今はもう失われてしまった古代文明。嘗てこの地で暮らしていた人々は魔術を操り、魔道具を駆使して今よりもっと便利で栄華な生活を送っていたという。

 そんな古代文明の遺跡がこの大陸にはある。その遺跡や、遺跡に眠る古代魔道具の研究はどの国においても国家事業である。もちろんここ、アベラール王国においても。


「古代魔道具というのはね、一個人が手に負えるものではないんだよ。諸刃の剣なんだ」


 魔道具について解説を始めたアルフォンスの言葉にエミリアンとベルナディットは真摯に聞き入るもその頭には?が浮かんでいる。

 古代魔道具と言うものがあるということは知っているしアルフォンスがその研究をしていることも知っている。しかし魔道具と言うものは日常の生活を送るうえで縁の無いものであり二人にとってはおとぎ話に近い物であった。


「今までに発見された古代魔道具の約半数は武器や兵器なんだけどそのどれもが恐ろしい威力を発揮するものなんだ、それこそ戦局を左右してしまうくらいにね。そして残りの半数は生活を便利にしたり思いがけない効果を発揮するような魔道具なんだ」


 アルフォンスは立ち上がって部屋の隅にある先ほど弄っていた置物のところまで歩いた。


「これも古代魔道具なんだ、今この部屋には結界というものが張られていて中の音は外に全く聞こえないし外から誰も侵入できない」

「え? アル兄様、古代魔道具というのは実際に使うことが出来るのですか!?」


 エミリアンが目を丸くして部屋を見渡しながら聞くとアルフォンスは苦笑しながら言った。


「発見された魔道具のほんのごく一部ではあるけどね、保存状態がいいものは少ないから。私たちの研究はね、発見された遺跡を調査してその文明を推測したり古代魔道具のかけらや一部からその魔道具がどんなものであるかを調べたり現代に応用できる技術であるかを調べたり多岐にわたる。でもその魔道具が兵器であると判明したら即刻王宮の一番奥の宝物庫行きだ」

「危険なものだからですか?」

「うん、とはいっても個人の知識や技術でその魔道具を復活させることは不可能だし、起動には魔石が必要なんだけど兵器を起動させられるような大量の魔石なんて今の世の中には無いんだけどね。念には念を入れ、というのが各国の王室の共通認識だよ」

「どこの国もですか? 発見された魔道具を悪用して隣国に攻め込もうとする国は無いんですか?」


 少し青い顔をしてエミリアンが訊ねる。


「無いだろうね、未来永劫とは言えないけれど。一国がそんなことをすれば周辺諸国が団結してその国を亡ぼす。私たちは知っているから、古代文明は国々が魔道具兵器の乱発をして滅んでしまったということを」


 衝撃を受けたエミリアンとベルナディットの顔を順番に見て、アルフォンスはもう一度口を開いた。


「とまあ、古代魔道具は国家で管理すべきものなんだけど、ごく一部、それを欲する者たちがいる」

「古代魔道具を? 何のために?」

「……実際にそれを復元させて国を乗っ取ろうとか騒動を起こそうと思っている者はほとんどいないだろうね、絶対に居ないとは言えないけど。大半を占めているのはマニア、つまりレアな物を収集したいというもの好きだね」

「国が禁じている物を欲しいだなんて迷惑な方たちですわ」


 これまで黙って話を聞いていたベルナディットが眉を顰めて言った。


「そうだね、でもそういう者は一定数いるし、金持ちが多い。だから古代魔道具は闇オークションで法外な値を付けられる」

「闇オークション?」


 エミリアンが初めて聞いた言葉だというように首を傾げた。


「盗品や禁止されているものを非合法で売る場所だよ。私はそっちには詳しくないけれど何度も摘発されているのにまたいつの間にかどこかで開かれているんだ。ダニエル兄上も頑張っているんだけど根絶できないみたいだな」


 エミリアンもベルナディットも初めて聞く話ばかりだった。まだ学生だとは言えエミリアンも王子だ、それなのに兄たちが頑張っていることをかけらも知らずのほほんと過ごしていたことをエミリアンは恥ずかしく思った。


「十五年程前に古代魔道具の大量盗難事件があった。その頃は私も兄上たちも子供だったから事件の詳細なんかは知らなかったけどね、そうして今回また遺跡から移送途中の古代魔道具が大量に盗まれた。盗まれたというより強奪された、が正しいな。移送していた古代魔道具研究所の職員から遺跡が発見されたシュルツ伯爵領の職員、護衛の騎士までもが皆殺しだったのだから」


 事件の凄惨さにベルナディットは息を呑んだ。青ざめたベルナディットの手をエミリアンが優しく握る。


「アル兄様」

「ああごめんよ、でもこの話は君達にも関係ある話なんだ。さて、移送していた者たちは全て殺されてしまったが、実況見分やその後の聞き込みなどで古代魔道具研究所の職員一人、シュルツ伯爵領の職員一人が犯人の一味に情報を流していたのではないかと調べがついた。でもそこで調査は暗礁に乗り上げた、彼らと会っていたらしい中年の男というのがどこの誰なのか調べがつかなかったんだ」


 手を握り合って固唾をのんで聞き入っているエミリアンとベルナディット、アルフォンスは紅茶を一口飲んで続きを話し始めた。


「暗礁に乗り上げた調査に一筋の光が射した、それがこれだったんだよ」


 アルフォンスの手の中の飾りはベルナディットがラプレ男爵家から誤って持ってきてしまったものだ。


「そうでなければ古代魔道具が闇オークションに出展されるまで待ってそこからたどるしか方法は無かったとダニエル兄上は言っていたよ」

「あの、アルフォンス殿下、それは十五年前に盗まれた古代魔道具ではないのですか?」


 ベルナディットは恐る恐る聞いた。そうでなければカリーヌの家は大量殺人や古代魔道具の強奪に関係しているということになってしまう。ラプレ男爵はいけ好かないけれどカリーヌがその一味として捕らえられたり罰されたりするかもしれないのだ。


「いや、魔道具に付着した土を調べればどこの遺跡のものかはわかる。これは間違いなく今回強奪された古代魔道具の一部だよ。まだ闇オークションにも出回っていない……ね」

「ということはラプレ男爵は犯人の一味?」

「おそらく主犯だとダニエル兄上は言っていたよ」


 エミリアンの言葉にアルフォンスは頷いた。


「この飾りをベルナディットが持ち帰ってくれたことは我々にとって幸いだった。それも私の手に渡って今回盗まれた古代魔道具だと判明したのはラプレ男爵がこれの紛失に気が付く前だった。だからダニエル兄上は隠密活動が得意な部下たちを配置してラプレ男爵家を徹底的にマークしたらしい。出入りの商人や使用人、もちろんラプレ男爵家の家人が外出する際も跡をつけてどこに行ったのか、誰と会ったのか全て調べた。ラプレ男爵はベルナディットが訪問した数日後に魔道具の破損に気が付いて屋敷内にあった盗品を全て他の場所に移したそうだ。その場所もかかわった人物も全て把握済みだ。ただ、魔道具を移送する荷馬車を襲った実行部隊だけがわからなかった」

「実行部隊ですか?」

「ああそうだ。古代魔道具を移送する際、その荷馬車には警護が付けられていた。その者たちを全て殺してしまったのだから荒事に慣れた集団が襲い掛かったのだろう、その者たちが誰かわからなかったんだ。古代魔道具を手に入れてからはラプレ男爵は荒事を起こす必要が無かったからね。ダニエル兄上はしょうがないからラプレ男爵を捕まえて拷問してでも吐かせるかと言っていたんだけどそこで今日の事件が起こったんだ」

「そうだ! ベルはどうして襲われたんですか?」

「奴らを捕まえて吐かせなければ本当のところはわからないから私の推測なんだけどね」


 エミリアンの問いに答えながらアルフォンスは立ち上がって紅茶のお代わりを入れた。エミリアンとベルナディットに「いる?」と目で聞き二人が首を横に振ると自分のカップを持ってソファーに戻る。

 もう夜も大分遅い時間だ。それなのにアルフォンスは一向に話を止める気配がない、ベルナディットは彼が何かを待っているように感じた。


「ラプレ男爵はベルナディットがこの飾りを持ち出したことに気が付いたんだろうね」

「え?」

「王宮で会った時ベルナディットは知らずにこの飾りを頭に乗っけていただろう? ということはラプレ男爵もそれを見た可能性が高い。その時には気が付かなくても古代魔道具の一部が欠けていたことを知った後なら思い当たる筈だ。何かそれらしいことを聞かれなかったか?」


 アルフォンスに聞かれてベルナディットは晩餐会での会話を思い出したが、自分はそんな飾りは知りませんと答えた筈だ。

 それを聞くとアルフォンスは「ベルナディットは嘘が下手だな」とため息をついた。


「その時の言葉でラプレ男爵は確信したんだろうな。だからベルナディットを誘拐することにした」

「え? ベルは侯爵令嬢だよ。男爵が誘拐なんかしたらどんな罪になるかわからないわけじゃないだろう?」


 エミリアンの問いに「だから生かして返すつもりは無かったんだろう」という言葉はアルフォンスの口の中に消えた。まあ侯爵だろうが男爵だろうが誘拐は重罪だけど。


「危険を冒してもラプレ男爵はベルナディットがこの飾りをどうしたのか知りたかったんだろう。いや、むしろベルナディットがこの飾りが古代魔道具だと気が付いているのか、誰かに話したのかを知りたかったんだろうな」


 そこまでアルフォンスが話した時にノックの音がした。

 トトトントンというようなちょっと変わったノックの音だ。それを聞くとアルフォンスは部屋の隅にあった古代魔道具を操作した。

「フォン」という音のすぐ後にバンと勢い良くドアを開け入ってきたのはこの国の第二王子、王国騎士団の第一隊長ダニエルだった。


「やったぞアルフォンス! 奴らの潜伏場所を突き止めた! 今日ベルナディットを襲ったのは実行部隊の内の五人程度だがな、奴ら、慌てふためいて潜伏場所に逃げ帰ってくれた。そっちには騎士団の第二隊を向かわせた、その他の関係者全て捕えるべく第三隊と第四隊も動いている。さあ、俺たちもラプレ男爵邸に乗り込むぞ!」


 その声に弾かれたように室内に居た三人は立ち上がった。


「ついに最後の大捕り物だね、ダニエル兄上」

「ああ、これでやっと一味を捕えることが出来る。それにな、実行部隊のアジトになんと十五年前に古代魔道具研究所の警備主任をしていた奴がいたんだ。追跡した騎士の一人が十五年前の盗難事件の際、調査を担当した一人でな、そいつの事をよく覚えていたそうだ。上手くいけば十五年前の事件も片が付くぞ!」


 アルフォンスの言葉に嬉々として返したダニエルは両手を握りしめて青ざめた顔でこちらを見ているベルナディットに心配するなというように優しく笑いかけた。


「ベルナディット、今日は恐ろしい思いをさせてすまなかったな、だがおかげで一味を一網打尽にすることが出来る。最初の手がかりを持ってきてくれた事といい本当に感謝する。今日は疲れただろうから王宮でゆっくり休むといい。部屋は用意してあるんだろう?」

「うん、ベルの部屋は用意してもらったけど、エル兄様——」


 ベルナディットの隣りで心配そうに顔を青くして何かを言い淀んでいるエミリアンの頭をダニエルはポンと叩いていった。


「エミリアンも今日は頑張ったな、ベルナディットを守ったそうじゃないか。お前が腕が立つので賊の奴らを上手く逃がすように隙を作るのが大変だったと騎士たちが言っていたぞ。あいつらにはアジトまで案内してもらわなければならなかったからな」

「そ、それほどでも……エル兄様に比べれば僕なんて――」


 一瞬褒められて照れたエミリアンだったが首を一つ振って真剣な顔をするとダニエルに向かって言った。


「エル兄様、その……ラプレ男爵家の人たちはみんな捕らえられるのか?」

「ん? そうだな。家人、使用人全て捕えることになる。ああ、あそこの娘はベルナディットの友達だったか?」


 エミリアンとベルナディットがこっくりと頷く。


「心配するな、一旦は捕えるが犯罪に加担していなければすぐに釈放される。ただおそらくラプレ男爵家は取りつぶしになるだろうからその娘は無実だったとしても平民になってしまうだろうがな」


 そう言ってアルフォンスと共に部屋を出ようとしたダニエルにベルナディットは必死に話しかけた。


「ダニエル殿下、お待ちください! あ、あの、私も連れて行っていただけませんか? その、カリーヌはお腹に赤ちゃんがいるのです。私、心配で……」


 ダニエルは足を止めるとベルナディットを振り返った。


「そうか、それは心配だな。皆に男爵令嬢は乱暴に取り扱わないように注意しておこう。さあ、もう夜も遅い時間だ、ゆっくり休みなさい。その娘に関しては俺に任せてくれ」


 そう言って踵を返す。その背中に追いすがったのはエミリアンだ。


「待ってくれ、エル兄様! じゃあ僕を連れて言って欲しい。彼女の……ラプレ男爵令嬢の……お腹の子の……父親は……僕なんだ!!」



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