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無能な第二王子に婚約破棄されて現代知識チートで有能な第一王子に求婚されましたけど、無能な方を選びます

作者: 田中凸丸

※注意:この短編小説は現代知識チートを非難、批判するものではありません!


とある王国、この国には有能な王子と無能な王子がいた。

ある日無能な王子は優秀な婚約者に婚約破棄を突きつけ、有能な王子は婚約破棄された令嬢に結婚を申し込むのだが、、、、


有能な王子の性格は基本描写されている通りのものになります。

「それで、昨日のアレはなんだ」


 艶やかな金髪をリボンで後ろに纏めた女性、公爵家令嬢のマリアは屋敷の応接間に招いた人物を睨みつける。

 彼女の視線の先にいるのは男女二人、一人は黒髪を目元が隠れるくらいまで伸ばした彼女より少し年下の男性で地味だが仕立ての良い生地で作られた服を着ている。また顔立ちは良いのだが、何処か自信なさげで着弱そうな印象を相手に抱かせる。

 もう一人はメイド服に身を包んだマリアよりも少し年上、二十代の女性で男の少し後ろで応接室のソファーに座らず、立っている。


「アレって、、、」


「婚約破棄の事だ!事情を説明しろ!」


 マリアが机をドンと叩く、キッと男性を睨みつけるその目は涙で滲んでいる。


「事情も何も昨日言っただろう、僕は君なんかよりも、隣国の伯爵家であるオリビア嬢との結婚を、、、」


「そんな家、調べたが無かったぞ!というか、其処にいるメイドが昨日の女じゃないか!」


 ビシッと、男の後ろに立つメイドを指さすマリア、メイドが気まずそうに顔を逸らす。


「そもそもお前が私に婚約破棄を突きつけること自体がおかしいんだ!」


「おかしいって、何が、、、」


「お前は私にベタ惚れじゃないか!なのにいきなり婚約破棄なんておかしいだろう!」


「ベタ惚れって、別に僕は君の事を、、、」


「ほう、、、」


 言い返そうとする男性に今度はマリアの視線が冷たくなる。


「そういうなら証拠を見せてやろうか?婚約が決まった時は8歳だったか?文才が無いなりに頑張った恋文や12歳の時に私への誕生日プレゼントとして寄越した硝子細工の髪飾りとか?確か私にプレゼントする為に身分を隠して城下のガラス職人に弟子入りして手作りしてくれたんだよな?後はそうだな、最近だと、、、ああ、そうそう学園で開かれた私の誕生日パーティに手作りのケーキを作ってくれたな、少し焦がしてしまったから、出せないとお前が処分しようとした所を偶然見つけて、、、けれどもったいないからと私がお茶を入れて夜の図書室で二人こっそり食べたな、、私が祝われる立場なのに、お前は礼を言って、後他には、、、」


「待った!待った!もう僕の負けだから!」


 どんどん恥ずかしい事を暴露されることに耐えられなくなった男性はとうとう観念し、全てを話す事にする。


「言っておくが、少しでも嘘を吐いたり、誤魔化したら許さんぞ。ちゃんと全部、正確に話せ」


「分かったよう」


 優雅に紅茶を飲みながら男を睨むマリア、男は涙目でポツポツと何故こうなったのか、全て話し始めた


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 公爵家令嬢マリア=ベルロッサは才能に溢れた人間だった。親の贔屓目などでも貴族という立場からのおべっかでもない。純然たる事実としてそうだった。

 どんなに難しい本でも一回読めば内容を理解し、決して忘れる事はない。また剣術や乗馬に於いても同年代では勝負にならない程の才覚を示した。

 また護身術の一環として淑女教育に含まれる魔術においても才能をいかんなく発揮し、本当に非の打ち所がない人物としてマリアは有名だった。

 その才能と母親譲りの美貌故、マリアの元には婚約の打診が常に来ていた。そんなしつこい求婚にうんざりしながら父の領地経営を手伝っていた9歳のある日、彼女の才能に目を付けた国王から自分の息子の婚約者になってくれと言われた。

 流石に国王から頼まれたら断れない。諦めたマリアが王城に出向くと双子の王子と対面させられた。


 この国の二人の王子は貴族と民の間ではとても有名だった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 突然だが、この国には稀に奇妙な人間が生まれる事がある。それは生まれる前の記憶を持っていたり、若しくは全く未知の知識を持っていたりする人間だ。

 王国の長い歴史の中で確かに存在した彼らは、自らの知識で国に貢献、発展させてきた功績から『祝福者』と呼ばれている。

 そして双子の王子の内、兄である王子はその『祝福者』であった。生まれる前の記憶はないが、此処とは違う別の世界の知識を持っている王子は幼い頃より活躍し、齢3歳で国の(まつりごと)に口を出し、確かな実績を上げた。それ以降も王子は年齢からは考えられない実績をどんどん上げていった。

 そんな王子に王は、側近は、貴族は、民は、喜んだ。建国以来の賢王になると、彼がいれば国は安泰だと。


 一方で弟の方の王子は何というか、普通としか言いようが無かった。『祝福者』でもなければ才能に満ち溢れている訳でもない。兎に角普通だった。

 一を聞いて十を知る『祝福者』の兄に対して、十を聞いて十を知る弟。剣術や乗馬は同年代相手に勝ったり負けたり、魔術も同様で軍に従事する師団長並の魔術を操る兄に対して、弟は年齢相応の初級魔術しか使えず、教育係の魔術師が『教え甲斐がない、教えても無駄』とはっきり口に出すほどだった。

 勿論、8歳で目に見える実績を上げることなど出来る訳も無く、優秀な兄と比較して無能という烙印を周りから彼は捺された。


 そんな二人と対面したマリア。国王としては優秀な兄と婚約してほしかったのだろう、けれど兄はこういった。


「可愛げが無いし、胸も小さい、腰も細くない」


 確かにマリアは女傑と呼ばれた母親似で可愛いというよりは綺麗という顔立ちで彼の好みには合わないかもしれない、だとしても初対面で口に出すのはいくら王族と言えど失礼だし、9歳でそんなに胸が大きくなるわけでもないし9歳で腰が細かったら、栄養失調の可能性がある。女に夢見てんじゃねえぞクソヤロー!とマリアは叫びたかったがぐっとこらえた。

 国王も息子が失礼な事を言った事に大いに焦った。必死に謝らせ何とか繋がりを保とうとする国王、けれど兄は婚約を嫌がる、ならばせめてと国王は無能な弟と婚約を結ばせた。

 弟の方は顔を真っ赤にしてマリアに見惚れ、緊張でどもりながらも必死に挨拶してマリアに手を差し出した。そんな彼を見てマリアも下手に断って反感を買うよりは、と彼と握手をし、こうしてマリア=ベルロッサと無能な第二王子アレン=フラドニックの婚約が決まった。


 無能な王子と婚約したことに父は怒り、周りからは嘲笑と憐れみを向けられたマリア。彼女も当初、己の立場を悲観的にこそ考えなかったものの、厄介者を押し付けられた気分だった。


 けれど、それも最初の内、マリアはアレンと触れ合ううちに徐々に彼に対して好感を抱くようになった。

 確かに彼は要領が良くない。けれど下手に知ったかぶりをする無知な輩や一を聞いて十を知ったような気でいるアホと違って、アレンは十を聞いてしっかり十を学ぶ人間だった。故に知らない事はちゃんと聞くし、一度覚えた事は間違えない。乗馬や剣術に於いてもそれは同じだった。

 魔術については専属の教師が匙を投げて、自分の研究に没頭している為、代わりにマリアが教える事になったが、それもちゃんとマリアの教えに従って徐々に腕を上げていった。


「僕の魔術の先生、モラリス先生は没落した貴族の生まれみたいで、王族の教師として実績を上げて家の再興を考えてたみたいなんだ。けれど僕の担当にされて凄い落胆してたんだ」


「ふーん、でも最初の方はちゃんと教えていたんだろう?」


「うん、でも本当は兄さんの担当になりたかったみたいで、ある日『お前の兄の担当になっていれば、とっくに家は再興してたのに、お前が無能な所為で俺の夢は潰れた!無能なお前に教えても時間の無駄だ!俺は魔術の研究で実家の再興を目指す!あとは勝手にやってろ!』て言われて」


 魔術教師がアレンに魔術を教えなくなった経緯を聞いたが、とても胸糞が悪くなる理由だった。家が没落したというが、雇い主の子供に堂々と悪口を言ったうえで仕事を放棄する無責任な奴の家など没落して当然だ。

 その後もマリアはアレンと交流を続け、アレンの努力家且つ誠実な人柄に惹かれていき、いつの間にか当初、彼に感じていた感情はとっくに消え失せていた。

 それどころか、アレンの事を無能と蔑み、マリアに憐れみの視線を向けてくる者に対して、人を見る目がない、とすら思うようになった。


 そうして年月は過ぎ、アレンと双子の兄であるエリアス、マリアは王立総合学院に入学した。入学テストの成績は『祝福者』であるエリアスは総合一位、マリアは二位、アレンは六位であった。

 無論六位というのも充分優秀だが、エリアスが一位と言う事もあり、アレンの無能と言う烙印は剥がれなかった。

 その後も二人の差は開くばかりだった。

 例えば隣国と戦が発生し二人が総指揮として戦に参加した際、アレンが将軍や軍師、魔術師団長達とで綿密な作戦を考えている間にエリアスは数人の側近と共に『祝福者』として得た知識で今までになかった奇襲作戦を勝手に行い、敵大将の首を獲ってきた。結果僅か数人で敵大将を討ち取ったエリアスは英雄、何もできなかったアレンは臆病者の無能と言われた。

 また疫病が流行った時は、アレンが罹患者の隔離、罹患者からの話を聞いて感染源の特定を行っていたのだが、エリアスは『祝福者』としての知識であっさり感染源の特定、治療薬の開発を行った。

 問題が起こるたびに颯爽と解決するエリアスと何もできなかったアレン、もはや二人の差は埋まる事は無かった。

 一度マリアが兄に対して思う所はないのかと尋ねたが、当のアレンは、


「兄さんが活躍してくれたお陰で戦ではこっちも相手も死者の数が少なくて済んだし、疫病でも兄さんが活躍してくれなきゃ、もっと大勢の人が苦しんでた。感謝こそすれ、妬むなんて御門違いだよ」


 と笑って答えていた。けれどマリアが見たアレンの顔は目元は隈が濃く、唇は荒れており、更によく見ると目元が震えていて、世間からの評価にかなり追い詰められているようにも見えた。


 一方のマリアは学園でも優秀な成績を納めていた。エリアスにこそ負けるものの三位に圧倒的な差をつけて学年二位をキープし続けている。

 更に元から美しかったその美貌は年を得ることで更に磨きがかかり、体もより女性的な身体つきへと変化していった。エリアスから小さい胸と言われた胸は、正直自分でも困るくらい大きく成長しており、徹底的な節制をする事で細さを強調する腰と併せて、胸から尻に掛けて見事な曲線を描いている。

 そんな彼女は学園では大人気だった。その美貌とスタイル、男子を圧倒する成績から女子生徒から『お姉さま』と親しまれ、時折危うい視線も感じる。

 男子生徒からも時折、デートに誘われる。婚約者がいるというのに!と思ったが無能のアレンの婚約者だったらイケるだろうという魂胆らしい。

 婚約者がいると断ったら、『あんな無能の婚約者なんかやめて、俺と付き合った方がいい!』と言われた。無論、そんな奴はボコボコにしたが。


 そうして過ごした学園生活二年目、三学期最後のダンスパーティー。事件はそこで起こった。

 基本的にダンスパーティーは男女2人で参加する婚約者がいる者は婚約者同士で、婚約者がいない者はパーティーまでに相手を見つけて。マリアは当然前者でありパーティー当日、気合を入れたドレスを纏い、ダンスが下手なアレンをサポートする事を笑顔で使用人に愚痴という名目で惚気ていた。

 けれどアレンは迎えにこなかった。アレンに何か合ったのかとアレンの使用人に確認をしたが、先に会場に向かった、とだけ。

 一体どうして?と思いながら会場に向かったマリアが見たのは、アレンとアレンの腕に抱きつく見知らぬ女だった。

 そしてアレンはマリアを見つけると、彼女に婚約破棄を突きつけた。自分はこの隣国の女性と婚約する。可愛げがない君との結婚なんてうんざりだと。

 ザワザワと騒ぎ始める会場、マリアはショックで泣き出した。そんなマリアを見てアレンは苦しそうな顔をするが、両手で顔を覆って泣いているマリアは気づかない。

 一向に騒ぎが収まらない会場だったが、其処に1人の人物が現れ、一気に鎮まる。アレンの兄、エリアスだ。

 エリアスは側近に事情を聞くと、アレンを非難しマリアに優しく手を差し伸べる。

 そして一言。


「マリア嬢、もしよろしければ、私と婚約を結んで頂けませんか?」


 エリアスのまさかの婚約に再び騒ぎ出す会場、涙で顔を真っ赤にしたマリアはエリアスの求婚に対し、


「誰がお前みたいな奴と結婚するか!バカヤロー!」


 と、その顔面に強烈な頭突きを喰らわせた。地面に倒れるエリアス、鼻血を出して白目を剥きながら気絶する姿は、とても滑稽だった。

 そのままマリアは涙目のまま、アレンの胸ぐらを掴むと彼を引っ張りながら会場を後にし、パーティーはいたたまれない空気の中でお開きとなった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「で、何であんな真似をしたんだ?」


「兄さんが君と婚約したいと言い出したんだ」


「はっ?」


 時は戻り現在、アレンからこの間の騒ぎを起こした聞き出したマリアだったが、余りにも予想外の回答に間抜けな声が出てしまう。


「どういう意味だ?」


「どうもなにもそのままの意味だよ。兄さんがいきなり君と婚約をしたいと父さんに打診したんだ」


「いや、何故、、、」


 マリアはエリアスと最初に会った時を思い出す、『可愛げが無いし、胸も小さい、腰も細くない』と文句を言ったエリアスが自分と婚約したい?何故?意味が分からないと混乱する。


「理由は僕にも分からないよ、でも、、、君は綺麗だし、兄さんが惚れるのも分かる」


「っ!急にそう言う事を言うな!」


「ご、ごめん!それで、父さんに母さん、側近の宰相に兄さんを支持している貴族の皆は兄さんとマリアの婚約に大賛成で、僕との婚約を解消して兄さんとの再婚約が決定したんだ」


「お前は反対しなかったのか?」


「反対したさ!でも、『無能』の僕の意見なんか、誰も聞いてくれなかった」


 疲れ切った笑みを浮かべるアレン、長年『無能』と蔑まれてきたことで彼自身も知らない内に精神をすり減らしてきたのだろう、そんな彼の笑みを見てマリアが辛そうな表情をする。


「それで、だとして、何故あんな大勢の前で猿芝居をする必要があったんだ?あれでは、お前が悪役のようではないか?」


「悪役のようっていうか、悪役なんだよ。僕は」


「そう言う事か」


 その一言で全てを察すると同時に、余りに自分勝手すぎる王家に嫌悪感が湧いてくる。


「兄さんが立場を利用して無理矢理君との婚約を結べば、兄さんは権力を笠に着る暴君として民の目に映り、支持が低下する可能性がある。けれど君の方から婚約を打診すれば、君は尻軽だと噂が流れてしまう。だから僕から無理矢理婚約破棄をする事になったんだ。無能な王子が婚約者の有能さに気付かず、他国の令嬢の色香に惑わされて愚かにも婚約破棄、捨てられた婚約者は有能な王子に見初められて幸せな人生を歩み、一方で無能な王子好き勝手した報いを受けて罰せられる。誰も不幸になることなんてない、理想的なハッピーエンドじゃないか?」


「何処がだ!お前も私も幸せになっていないじゃないか!」


 机をバンッ!と力強くマリア。


「大体、それに賛同するなんて、国王夫妻は一体何を考えて、、、」


「『無能のお前もこれで漸く兄の役に立てるんだ。感謝しろ』それが父さんが僕に向けていった言葉だったよ」


 何だそれは、とマリアの思考が一瞬停止する。自分の子供に無実の罪を押し付けた挙句、役に立てるから感謝しろだと?それが親が子に言う台詞か?


「もう、、、疲れた」


 それはアレンが初めて発した弱音だった。どれだけ自分に厳しい鍛錬を強いても、周りから兄と比較されて馬鹿にされ、冷たい言葉を投げかけられても決して腐ることなく、心折れることが無かったアレン。そんな彼を誇りに思っていたマリアが初めて聞いた弱音がソレだった。


「私は嫌だぞ、お前の兄と婚約を結ぶなんて絶対に嫌だ」


「なんでさ?兄さんと婚約を結べば、父さん達の印象も良くなるし、兄さんを支持する貴族達とも繋がりができる。良いことづくめじゃないか?」


「お前の兄だが、、、顔が気に食わん」


「同じ顔なんですけど!」


 あんまりな理由に思わず突っ込む双子の弟のアレン。マリアは顎に指を添えて少しの間、考える。


「ああいや、そういう意味ではなくてだな。性根が顔に現れるというか、なんというか、、、ああ、そうだ」


 おもむろに応接間から出ていくマリア、数分後、彼女が一枚の紙を持って戻ってくる。


「覚えてるか?私とお前、それに何人かの城下町の者達で紙の代用品を作ろうとしたことを」


「ああ、うん。覚えてる。あの時も兄さんがあっさりと問題を解決して凄かったな」


 マリアから手渡された紙を見て当時の出来事を思い出すアレン。


 アレンがまだ十歳だった時の事、当時の王国では紙と言えば大量生産が出来ない羊皮紙が主流で広く普及していなかった。

 木から作られた紙も存在していたが、それは遠く離れた国から高い金を払って輸入するしかなく、製法も秘匿されていた為、王国では羊皮紙が使われていた。

 そんな時、アレンは紙、若しくは紙の代用品となるものを作ろうとマリアに持ちかけた。マリア自身も興味があったし、紙が出来ればアレンの評価もひっくり返るかもしれないと考えたからだ。

 そうして試行錯誤する毎日、城下町で使えそうな物がないか探していた二人、アレンが家の建築で捨てられる鉋くずと布を作る為に使われる機織り機で、紙の代用品が出来ないかと考えた。

 すぐさま大工や機織り職人を集めて制作に取り掛かった。そうして薄く削った木を網目状に編んだものは完璧な紙とは言えなかったが、羊皮紙よりは手間がかからず、大量生産も可能だった。

 皆が喜ぶ中、国王夫妻に報告にいったアレンとマリアだったが、彼らが王城で見たのは『祝福者』の知識を使って、紙の生産に成功したエリアスと息子を褒めたたえる両親だった。

 結果、エリアスは王国の問題の一つを解決した天才、アレンは城下町で遊び歩いていた馬鹿王子と周りから評価された。


「あれ、今考えてもタイミングが良すぎると思わないか?」


「まあ、確かに、、、でもそれは偶々、、、」


「似たような事が何度も起こったのにか?」


「っ!」


 マリアの指摘通り、似たような事は過去に何度もあった。アレンがマリア達と一緒に様々な問題や困難に挑戦し、苦悩しながらも必死に努力を重ね、知識を振り絞り、漸く解決できるとなったタイミングでエリアスが『祝福者』としての知識を使ってあっさりと問題を解決する。

 そして周りはエリアスを褒めたたえ、アレンを馬鹿にする。


「私はあの時、はっきりと見たんだ。王城で国王夫妻に褒められながら、お前の兄が此方に視線を向けた時、アイツは私達を嘲笑っていた」


「っ!」


「それ以降もずっとだ。意識しているのか、無意識かは分からんがな。唯それからは私はお前の兄に対して嫌悪感しかない。アレン、お前の兄の人間性は屑だ。他人の努力を嘲笑い、借り物の知識で手柄を奪い取り、賞賛を得る事に快楽を見出している」


「人の兄に対して、酷いこと言うね」


「それで怒らない辺り、お前も気付いていたんだろう?」


 アレンは決して馬鹿じゃない。きっと兄の隠している本性にはとっくに気づいていたんだろう。それでも民が喜び、救われるならと、我慢していた。


「なあ、お前は本当に良いのか?私がお前の兄と婚約を結ぶことを、私の体があの屑に弄ばれることを」


 態と胸に手を当て、胸を強調するようにアレンに問う。情欲を誘うのは卑怯だと思うが、彼の本音を聞き出せるなら手段は問わない。


「嫌だ、、、そんなの嫌だ!君がアイツと婚約を結ぶなんて!でも、、、僕は無能な王子だから、、、」


 漸く本音が聞けた、けれどやはり『無能の王子』という周りからの評価が彼の枷になっていて、アレンはそれ以上、言葉を紡ぐ事が出来なかった。

 その後、会話を続ける事は出来ず、マリアはアレンのメイドだけを残して、彼を帰らせた。彼女にはどうしてもまだ聞きたい事がある。


「お前はなんで、この馬鹿げた計画に賛同した?アイツの側付きとはいえ、断る事さえ出来たはずだ。それこそ市井の者を雇って適当にでっちあげることすら出来た」


 隣国の令嬢のフリをしたメイド、恐らくアレンと一緒に処罰される運命だったであろうに何故それを選んだか、それを問うとメイドはハキハキと答え始めた。


「アレン殿下についていた方が得と判断したからです。今のエリアス殿下を支持している国王夫妻や貴族達、彼等が国の実権を握れば未来はないと考えましたので、でしたらアレン殿下について行って、国外追放なりなんなりで他国で暮らした方が良いと考えました」


「なんだ、お前も気付いていたか」


「ええ、伊達に王子お二方の側で長年働いておりませんから、ハッキリ言ってエリアス殿下は間もなく出がらしになります」


「でがらし、、、っぷ!」


 的を得た発言するメイドに思わず笑ってしまう。


「では次に、何故あの男は私と婚約を結ぼうとした?」


「余りにも最低な理由で気分を害されると思いますが、お伝えしましょうか?」


「ああ、一字一句、そっくりそのまま頼む」


「では、、、んん!こほん!」


 喉の調子を整えると、エリアスの声色を真似るメイド。


「『なあ、アレン。お前の婚約者を俺に譲ってくれよ?え?何でだって?いやー、お前の婚約者、最初に合った時は微妙だったけど、今はすっかり美人になってんじゃん。特にあの胸、絶対、あれは両手に収まらないぜ!抱き心地とか最高だろうよ!おまけに学園の成績もそれなりに優秀だろう?だったら面倒くさい仕事も押し付けても問題ないだろ?あんないい女、お前にはもったいねえから俺が貰ってやるっていってんの?俺の方が上手く使ってやれるし、ベッドの上でも気持ちよくしてやれるに決まってる。分かったらさっさと婚約破棄して、俺に譲れ』以上です」


「屑で女の敵だな」


「ええ、全く。これを聞いたアレン殿下は激昂してエリアス殿下を殴りましたが、直ぐ衛兵に捕まり、国王夫妻にお叱りを受けました」


 逆に何故、そんな言い方をしてあの男はアレンが怒らないと思ったのだろうか?


「しかし、本当にアレンは私にベタ惚れだな」


「・・・」


「ん?何だ?」


「いーえ、別に」


 意味ありげな視線を送るメイド。まるでお前もな、と言っているようだった。


「それで、これからどうするのですか?」


「そうだな、あれだけ大勢の前で婚約破棄を突きつけたんだから、処罰は免れないんだろう?この後はどうなる計画だったんだ」


「この後の計画ではアレン殿下は離宮に隔離、事実上の終身刑となる所をエリアス殿下が慈悲を掛けて、王位を返上、平民となり国外追放で許すという形になっています」


「慈悲を掛けてか、、、そんなに人気が欲しいか、、、しかし、そうか、それなら」


「どうされます?」


「私もこの国を捨てるか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 婚約破棄の騒ぎから二日、王城に呼ばれたマリアが王がいる玉座の間に行くと、そこには玉座に座る国王とその隣で立つ王妃、周囲には国政に携わる宰相と上位貴族、そして国王の前で傅くアレンとエリアスがいた。

 マリアが挨拶を済ませると、国王から婚約破棄の騒ぎについての謝罪、そしてアレンの断罪が始まった。ありもしない罪を突きつけられて黙っているアレンと彼を笑う上位貴族。

 アレンへの罰として離宮への隔離を言い渡されると、エリアスが立ち上がりそれは流石に重すぎると反対する。自分から嵌めたであろうに弟を思いやる兄を演じるエリアスに怒りを感じ、拳を強く握るマリア。

 そして離宮への隔離の代わりに王位を返上し、国外追放を言い渡されるアレン。メイドから聞いた内容だとこの後エリアスがマリアに求婚するらしいのだが、その前に国王がアレンに向って余計な一言を言った。


「何故お前はそうも無能なのだ?本当に私の息子か?」


 親として余りにも酷い言葉に我慢の限界が来たマリア、『プチッ』と血管が切れる音が何処からか聞こえてきた。


「何様のつもりだお前は!」


 立ち上がり、王様の顔面を殴るマリア、突然の行動に周りも反応が遅れてしまった。


「なーにが『本当に私の息子か?』だ!お前はそんなに優れた人間か!?自分では碌に何もできない癖に、偉そうにふんぞり返って椅子を尻で温めるしか能がないアホだろうが!そんな奴が人を見下してんじゃねえ!」


「マ、マリア?」


 胸倉を掴み、気を失った国王をブンブン揺らすマリア。次の標的はマリアを止めようとするエリアスだった。


「次はお前だクソ王子!借りもの知識でさも自分が賢いみたいに思ってるだろうがな!お前自身は一人じゃ何もできない、考える事も出来ない只のアッパラパーだ!お前なんか『祝福者』じゃなきゃ誰も見向きもせん!」


 その後も暴言を吐き続けるマリア、周りが必死に止めようとするが彼女は止まらず。アレンが彼女を後ろから抱きしめて、甘い言葉を囁いて漸くマリアは止まった。 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はあ、何でこうなるかな?」


「何だ、不満か?」


「不満というか、君も巻き込んで申し訳ないというか」


 王城の騒ぎの翌日、王都の外れで荷馬車を引く馬の手綱を握るアレン、その隣にはローブを被ったマリアがいる。


「寧ろ私としては公爵家、という厄介な肩書を捨てられて、すっきりした気分だ。なあ、お前もそうだろう?」


「そうですね。私としてもあんな堅苦しい場所で働くのは御免でしたから」


 荷台の方で目録を確認していたメイドがマリアに返事する。

 王城の騒ぎの後、当然マリアは罰せられた。普通なら処刑ものだが、彼女を諦めきれなかったエリアスが懇願し、マリア個人の爵位返上で済み、マリアはエリアス専用の使用人となることとなった。

 エリアス専用の使用人なぞ死んでもお断りのマリア、彼女はアレンお付きのメイドと事前に手を組んでおり、国外へ脱出するための手引きを整えていた。

 そんな事は知らず、国外追放となるアレン。僅かに渡された荷物と荷馬車で王都を出ると、突如マリアがアレンの隣に現れた。何と彼女はアレンについていくため、ずっと荷台に隠れていたのだ。更にはメイドも一緒に隠れており、二人についていくという。


「なあに、心配はない。行商人として稼げるよう荷台には沢山商品を詰め込んだし、昔色々な事に挑戦したお陰で様々な場所にコネはある気楽にいこう、アレン」


 暢気な事を言う彼女に再び溜息が漏れる。けれど今の彼女はとてもうれしそうだ。


「何とかなるかな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 数年後、とある宿屋の食堂にて



「なあ、聞いたか、とうとうあの国、全面降伏して隣の帝国の属国になったんだとよ」


「寧ろ、良くいままで降伏しなかったよな。負けは確実だったのに」


 酒を飲みながら談笑する客、そんな彼らの前に一人の男性が近寄る。


「あの、すいません。その話、聞かせていただけませんか?」


「ん、何だいアンタ?」


「しがない行商人です。職業柄、国の動きには敏感にならなければいけないので。無論、タダでとは言いません。ご馳走させてください」


 男達と同じテーブルに座る行商人、行商人の奢りで追加の料理が運ばれ気を良くした男達が、和気藹々喋り出す。


「何でもその国の王様はよ、『祝福者』だってんで幼いころからそれはもう、歴史に名を残すような活躍をしてきたんだ」


「そうそう、で十八の時に正式に国王になってから、国の全権をもたらされたんだとよ」


「成程、『祝福者』は国に富みをもたらす者、きっとその国はおおいに発展したでしょう」


「ところがな、それが違うんだよ」


 男がジョッキ片手に声を小さくして、行商人に呟く。


「違うとは?」


「その『祝福者』の王子が国王になってからは、王国は衰退の一途を辿っていくんだ。『祝福者』の筈なのに王は全然その知識を披露せず、政治に口を出しても全部的外れで国の借金が増えるばかり、おまけに貴族達も全然働かずでな、平民の不満はそりゃもう溜まりまくってた。で国王は何を考えたか、大国である帝国に戦を仕掛けた。多分勝つ算段があったんだろうな、国王は若い頃、僅か数人で敵大将の首を獲ってきたって逸話があるから」


「ところがどっこい、戦で奇襲を仕掛けた国王だったが、あっさりと反撃にあっちまった。国王も作戦に参加していたみたいだけど、自分は真っ先に逃げたらしいぜ。で、作戦に付き合わされた優秀な将が何人も帝国の捕虜になった」


「それは、何とも悲惨ですね」


「話はまだ終わらねえ。間の悪い事に王国で疫病が流行っちまった。国王は『祝福者』の知識で薬を作ったが、それが的外れのもので重病者が更に増大、そしてとうとう市民の不満が爆発、諦めた国王は帝国に全面降伏することにしたんだと」


「成程、ありがとうございました」


 追加の酒の分の代金を置いて、行商人がテーブルから離れると二階の自分が泊っている部屋に戻る。

 部屋の中には二人の女性がいた。


「とうとう帝国の属国になったって」


 フードを降ろした男、アレンが自分の妻であるマリアに祖国の状況を伝える。


「ふふん、だろうな」


「もしかして、最初から気づいていた?」


「当然だ」


 メイドが淹れてくれたお茶を飲みながら、マリアはそれはもう嬉しそうに話し始める。


「お前の兄は『祝福者』として確かに優れた知識を持っていた。だがそれだけだ、『祝福者』として直ぐれた軍略も薬の製法も知っていた。けれど残念な事にお前の兄には理解して考える力が無かった。いや、放棄したという方が正しいか?」


「まったく、神もなぜあんな馬鹿に『祝福者』として知識を授けたんでしょうね」


 マリアに追随するようにメイドもキツイ事を言う。


「如何に優れた軍略とて、何故それが通用したか理解しなければ意味はない。薬だってそうだ、何故その薬が病に効いたか、それが分からなければ真に優れているとは言えない」


「周りもそれに気づいていれば、せめてもう少しマシな終わり方になったでしょうけど」


「いくら優れた軍略でも何度も使えば、相手だって対抗策を思いつく。いくら優れた効能を持つ薬でも対処できない病はある。それが分かっていて、考える力があればよかったが『祝福者』の知識の恩恵に縋り頼り切っていたあの男や周りの馬鹿貴族共にそんな力があるはずもない。やがて『祝福者』としての知識も尽いて、後に残るのは今更役に立たない『祝福者』の知識と考えることも出来ない無能だけと言う事だ」


「因みに、あの婚約破棄の騒ぎの時から、あの男の『祝福者』としての知識は尽きかけておりました」


「その点、お前は周りとは全く違ったな」


 マリアが一枚のまっさらな紙をテーブルに置く。


「この紙を覚えているか?」


「ええっと、これは」


「お前が改良した紙だ。今ではすっかり、私達の立派な収入源の一つになっているな」


 マリアに言われて思い出す、そう言えばエリアスは紙の製法を王国にもたらしたが、彼の作った紙は質が悪く、汚れにも弱かった。ならばとマリアと一緒に紙の改良に取り組んだったか。まあ、紙を作ったことに対して、やっている事が地味だったので誰にも注目されなかったが。


「後は他にも、荷馬車の車輪の改良や水車、風車の改良、色々取り組んだおかげで、いくらか皆の生活水準が向上したな」


「でも、そんなの最初に作った人に比べたら」


「だとしても、それを学び、理解し、より良い物を作ることが出来る。それはお前の誇るべき才能で、お前は無能なんかじゃない」


 優しい眼差しでアレンを見つめるマリア。


「そんなお前だから私は好きになったんだ」


「ぶっ!」


 突然の『好き』発言に思わず茶を吹き出してしまう。


「もう、、、」


 未だにアレンの心の中には『無能』という評価が、枷として彼を縛っている。それでも自分の事を認めてくれる妻とメイドを幸せにするためにも、頑張ろうと奮起するアレンだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あ、因みにこれは蛇足ですが」


 茶のお替りを注いでいたメイドが何かを思い出したようだ。


「アレン様を侮辱した魔術師ですが、王宮の国家予算を横領したとして打ち首になったそうです」

現代知識チートで無双するキャラを見てると偶に感じるモヤモヤを形にしてみました。


いや、別に嫌いな訳じゃないですよ!現代知識チート


唯ド〇タース〇ーンの千〇みたいに自ら学んだ知識と今ある材料を必死に組み合わせて、可能な限り再現するみたいな感じじゃなくて、苦労もせずにポンと出す展開はなんかモヤモヤするんですよ。

特に脇役が必死に考えて作り出したものを、主人公が特に苦労や改良もせず現代知識チートをそのまま利用してあっさり上位互換のものをポンと出して周りから持ち上げられる展開とか、どうしてもモヤモヤしてしまうんです!


最後にもう一度、この短編小説は現代知識チートを非難、批判するものではありません!現代知識チートでもちゃんと自分なりの改良や考えを巡らせている主人公は大好きです!

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