夢の森のなかで
お姫様、お姫様、と呼ばれている女の子がいました。
ここは猫耳王国。国民は皆、猫耳を生やしています。大人も子供もお婆ちゃんも。皆、自慢の猫耳を飾り付けて見せつけていました。
でも、お姫様と呼ばれている女の子には猫耳はありません。何故なら、猫耳王国の外からやってきた人だからです。
なんで私には猫耳が無いんだろう。
まるで仲間外れにされているようでした。勿論、猫耳王国の人達はそんな事は気にしていません。皆、女の子を大事に大事に育て、猫耳が無くとも同じ国の仲間として接していました。
猫耳が欲しい。
女の子は毎晩、そう願いながらベッドで泣いてしまいます。そしていつのまにか、夢の世界へと旅立つのです。夢の中で女の子は仲間外れにされていました。猫耳がないから、お前は出ていけと、皆から言われ続ける怖い夢を見てしまいます。
女の子が不安になる理由は、その夢が原因なのかもしれません。
でも、今日の夢は少し……違いました。
※
夢の世界へと旅立った女の子。目の前には一匹の……リスがいました!
「むむ、女の子む!」
「こんにちは……貴方はだあれ?」
「僕は……リッスむ!」
女の子はガクっと肩を落とします。名前がそのままだったからです。
「そういう君はなんて名前む?」
「私は……皆からは、アルデナート・プロステイン・ガルバート・エンジェルダストマイケルフォン、と呼ばれています」
「その名前を間違えずに言える人は凄いむ。君の周りは頭いい人が多いむね」
普通のことだと女の子は首を傾げます。
「でも長すぎるから、僕は……マコちゃんって呼ぶむ!」
「それはどこの部分を取ったんですか?」
「さあ、いくむ、マコちゃん! 僕と一緒に森の探検む!」
「聞いてんの?」
元気よく森へと繰り出すリッスとマコちゃん。
ここは夢の森。リッスは早速と、木の一本へと駆け上り
「マコちゃん、ラーメンセットにご飯はつけるむ?」
「いきなりすぎて困る」
「じゃあチャーハンにするむ」
リッスは木からラーメンセット(チャーハン付き)を収穫すると、地面へと降りてきました。
「この木はらーめんの木む。向こうにはタコヤキ機木があるむ」
「たこやき機が生えてるの?」
「そうむ。たこやきを食べるには、たこやきの木からたこやきを持ってくる必要があるむ」
「だったら最初からたこやきの木からたこやきを……」
「早く食べないと麺が伸びるむ! さあ、たべるむ!」
マコちゃんは割りばしをパチン、と割るとラーメンをすすります。豚骨らーめんです。
「おいしいむ?」
「とっても美味しいわ。リッスも食べる?」
「いただくむ」
二人で仲良くラーメンをすすります。すると、森の奥からラーメンの匂いに誘われて……大きなクマさんが姿を現しました!
「クンクン……とっても美味しそうな匂いがするねぇ」
「ぁ、クマの磯貝さんむ!」
「クマの磯貝さん……?」
「どうも、磯貝です」
丁寧に名刺を手渡してくる磯貝さん。どうやらイラストレーターのようです。
「最近はiPadでの作業も慣れてきてね、仕事を受けれるようになったんだよ」
「磯貝さん、最初は爪でiPadの画面を破壊して大変そうだったむ」
「そう……でも最近は専用のペンを使う事で解決したよ。リッス君がペンシルの木を見つけてくれたからね」
マコちゃんはラーメンをすすりながら、二人はとても仲良しなんだと感じました。
そして豚骨スープを一滴残らず飲み干すマコちゃん。
「ごちそうさま、とっても美味しかったわ」
「よかったむ。ついでだし、マコちゃんも磯貝さんに何か絵を依頼するむ! 初回はお得価格にしてくれるむ」
「久しぶりにサーモンが食べたいねぇ。どうだろう、そこの川でサーモンを取ってくれれば、好きな絵を書いてあげるよ」
「どうせサーモンの木もその辺にあるんじゃ……」
しかしリッスは、フルフルと首をふります。
「生き物がなる木は無いむ。果物すらないむ」
「どうして?」
「神様がめんどくさがり屋で……炊事が大嫌いだからむ! でも磯貝さんが神様にサーモン食べたいって言ったら、川に流してくれたむ」
「リクエストに応えてくれる神様なのね。私の頭にも猫耳が欲しいって言ったら……かなえてくれるかしら」
「なんで猫耳む?」
マコちゃんはリッスと磯貝さんへと事情を説明しました。国の中で自分だけ猫耳がないから、と。
「それがどうしたむ?」
「別にいいじゃない」
しかしリッスと磯貝さんの反応は、なんとも冷たい物でした。
「いつか仲間外れにされるかもしれないわ。もうされてるかもしれない。皆、内心では私だけ違う人だって……」
「僕と磯貝さんは違うけど、とっても仲良しむ」
「それは……二人が友達だから……」
「君と国の人は友達じゃないむ?」
マコちゃんは思い返します。皆と一緒にPS5をやったり、スノボにいったり、コイバナをしたり。
楽しい思い出はたくさんあります。でも、それでも、不安は消えません。
「楽しい思い出はたくさんあるわ。だから怖いのよ。いつか仲間外れにされて……皆ともう遊べなくなったらって思うと……」
「もし仲間外れにされたら、ここに来ればいいむ。僕達はいつもここにいるむ」
「……でも」
「エライ人は言ったむ。想像できる全ての事柄は起こりうる事実む。だからって、悪い想像ばかりしてたら、ほんとにそうなっちゃうむ。ポジティブに生きる事は無意味じゃないむ。悪い事を考えたり口にしたりしたら……ほんとうにそうなっちゃうむ!」
マコちゃんは、リッスの考えにも一理ある……と頷きます。
すると磯貝さんが、iPadにイラストを描いてくれました。猫耳を生やしたマコちゃんです。
「凄い、もう描けたの?」
「うん。もし仲間外れにされても、マコちゃんの事が大好きな人はたくさん居ると思うよ。でもまずは、今目の前に居る人を大切にするのが大事じゃないかな」
「……そうね、磯貝さん……」
それからマコちゃんは川でサーモンをつかみ取りし、磯貝さんへと献上します。
代わりにと、そのイラストをマコちゃんのスマホへと送信してもらいました。壁紙に設定します。
「ありがとう、リッス、磯貝さん。私、みんなとこれからも仲良くやっていくわ」
「それがいいむ。嫌なことがあったら、ここに来ればいいむ! 今度は天ぷらうどんの木の所に連れて行ってあげるむ!」
マコちゃんは頷きつつ、リッスと磯貝さんへと手を振りながら別れを告げます。
それから、あの夢を見る事はありませんでした。
その後、お姫様と呼ばれた女の子は、猫耳王国でラーメン店を始めて、皆にたくさん喜んでもらいました。とてもおいしいと言われて喜ぶお姫様。みんな、そんなお姫様の笑顔が大好きで、お姫様のラーメン店へと足を運びます。
皆と少し違っていても、お姫様にはお姫様の、たくさんの魅力があるのです。
本人は、まったく気づいていませんが。