第49話 勝手に設定されていた高難易度モード
「先生! お姉様! ご無事ですか!?」
帰還の結晶は不発にされたうえ、その魔力だけは3人を強制送還するのに消費されてしまった。
そのため、俺たちは歩いてダンジョンの入り口まで戻ることになった。
次からは複数買っておこう……。
「どうやら、色々と聞くことがありそうですね」
大地たちが呼んでくれたんだろうか、なぜか管轄外のダンジョンのはずなのにいる一条さんは、俺と紫杏が引きずっている管理人の樋道を見てそう言った。
樋道はアキサメで買った魔法のロープで拘束している。紫杏は嫌そうな顔をしていたので、これはもう紫杏には使えないし、俺だって使いたいとは思わない。
残念ながら探索者たちは見つからなかった。血の跡や消滅前のワームの死骸があったので、逃げ出したということだろうか。
「これを見てもらえますか」
「これは……映像魔法の結晶ですか」
説明するよりも早いので、一条さんに例の映像結晶を渡す。
当事者であるため、大地たちも一緒にその映像を見るが、皆顔をしかめさせていくことになった。
「違う! そんなものは捏造だ!」
樋道が無実を主張するも、さすがにその言葉を鵜呑みにする者は誰もいなかった。
◇
「お待たせしました」
映像を見た直後に一条さんは、管理局の職員たちへ連絡を行いワームダンジョンの施設内を調査してくれた。
特に樋道が入り浸っていた管理人の部屋からは、映像結晶の証言を裏付けるかのように不自然なほどの量の魔導具や装備品が見つかっている。
「さっきから言っているだろ! それは、俺がダンジョンを探索して集めた物だ!」
当然ながら、樋道はそれが他の探索者から奪ったものだとは認めていない。
俺たちからしたら、そんな発言はどう考えても嘘なのだが、それを嘘だとする根拠は残念がら不足している。
管理局の人たちも、一条さんもどうしたものかと困っているようだ。
「でも、映像が記録されているじゃないですか!」
「そんなもの、俺をはめるために捏造されたものだ!」
シェリルが威勢よく吠えたてるも、樋道は堂々とあの映像のほうが嘘だと主張する。
こうなったらもう例の探索者たちを捕まえて話を聞くしかないのかもしれないな……。
本当に面倒なことになった。ため息とともに視線を視線を落とすと、押収されようとしている魔導具の中に、あの黒いワームの体のような光沢の指輪が見つかった。
「あれ、あの指輪。俺たちが倒した黒いワームみたいだな」
「どれどれ。あ、本当だ。私たちが倒したやつのドロップかもね」
こんなときではあるが、紫杏と二人でこそこそと話をしてしまう。
よし、癒された。ちゃんと一条さんたちのやり取りを見とどけないと。
……と思ったのだが、俺たちの会話は一条さんの耳にも届いたらしく、一条さんは俺たちと指輪を見てから目を吊り上げた。
う……怒られるかな。ごめんなさい。悪いのは俺で、紫杏は関係ないんです。
「烏丸さんと北原さんの言うとおりですね。樋道、なぜあなたがプレートワームの指輪を持っているのですか?」
「あ、そ、それは……」
「知ってのとおり、これは【上級】の魔獣だけが低確率でドロップする、非常に有益なパーティ用の装備品です」
そうかプレートワームっていうのか、あの黒いワーム……。
【上級】!? なんで【中級】ダンジョンに【上級】の魔獣がいるんだよ!
「アキサメですら一般には販売していません。競売でもここ最近出品された記録もありません。では、どうやって手に入れたのですか?」
「た、探索で……」
「いいえ。あなたが他のダンジョンに入った記録はありません」
「俺のダンジョンに出現したプレートワームを倒したんだよ!」
え……このダンジョンそんなに頻繁に【上級】の魔獣が出るのか?
いや、さすがにそんなわけないよな。
そんな俺の疑問は、一条さんも当然思いつくわけで、その発言を指摘される。
「ここは【中級】ダンジョンです。なぜ、【上級】の魔獣が出現しているのですか?」
「そ、それは……」
樋道は一条さんの追求に答えられずにうろたえる。
「それに、倒したってどうやって? 知ってのとおり、プレートワームの外装は【上級】の探索者でさえ、傷をつけるのには相当な苦労が必要です。あなたはいつの間に、そんな装甲を貫ける魔法を使えるようになったんですか?」
「ぐっ……ううっ……」
しかも、【上級】でも手こずるような相手?
どおりでやたらと硬いわけだよ。知らず知らずのうちに、そんな危険な魔獣と戦ってたのか俺たち。
というか、そんなのが出現するなら【中級】を名乗るなよ! 管理体制どうなってんだ!
ああ、管理人樋道だったな……。
「ねえねえ、善。そのプレートワームとかいうのって、私たちが倒したあの黒いワームのこと?」
「多分な」
「ええっ!? それじゃあ、あの指輪私たちの物じゃないですか! 泥棒! 泥棒がいますよ!!」
「というか、僕たち【上級】の魔獣の相手をさせられてたんだね……」
「そりゃあ、強いはずよね……」
みんな心当たりがあったらしく、あの黒いワームのことを思い出してどこか納得していた。
そんなのんきな話をしていると、一条さんは再び厳しい目つきをしながら大地に尋ねる。
「大地。それは本当のことですか?」
「あの黒いワームなら、僕たちも倒したよ。このダンジョンにそんなのが何匹もいるっていうのなら、その指輪が僕たちの物かどうかはわからないけどね」
「そ、そのガキの言うとおりだ! そいつらとは別に俺だってプレートワームを倒した!」
「先ほども言いましたが、このダンジョンは【中級】ダンジョンです。そもそもプレートワームが出現すること自体が異常なんです。それが複数存在していた? だとすれば、あなたはダンジョンの管理をまともに行っていなかったということでしょうか?」
「く、うぅ……」
もうどうあがいても樋道の支離滅裂な言い訳は、一条さんには通用しないようだ。
話を聞いていた管理局の職員の人たちもそれは同じだったらしく、樋道をひとまず拘留するために準備を進めている。
そんな中、突如女性の大声が部屋中に響いた。
「そもそも、樋道さんこのダンジョンの探索だってしていないじゃないですか!」
「なっ! き、貴様! なぜ生きている!?」
現れたのは、服装がボロボロになっていた受付嬢さんだ。
あの探索者たちが受付さんを始末したような発言をしていたが、よかった。無事だったのか……。
どうやら怪我はしていないようだが、襲われはしたが傷だけは魔法で治療したとかだろうか?
「これでも、荒事には慣れているんですよ! 受付だからってなめないでください!」
樋道と探索者たちは受付さんの口封じには失敗していたようだ。
いや、樋道の様子からすると、成功したと思い込んでいたが生きていたってところか?
あの探索者たちもそう思っていたようだし、ぎりぎりのところで助かったか、受付さんがやつらを欺いていたのだろう。
詳しいことはわからないが、ともかく受付さんは樋道の協力者ではなく、それどころか樋道にとって都合の悪い存在らしい。
「一条さん! ここにこのダンジョンの入場記録はすべて記録されています! 樋道さんは、今日を除いて数年以内にワームダンジョンに一度も潜っていません!」
「決まりですね。すみませんが取り調べをお願いします」
樋道の苦し紛れの嘘も、結局受付さんの発言で崩されてしまった。
もう言い逃れはできないと判断したのか、樋道は暴れて逃げようとするも、控えていた管理局の人たちに取り押さえられると、ついに連行されてしまった。
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