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宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~  作者: パンダプリン


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第38話 彼女流の威嚇行動

「紫杏よろしく~」


「はいは~い」


 レベルが下がる。インプを倒す。レベルが上がる。スキルレベルが上がる。

 よし、【剣術:中級Lv5】まで上がったな。


「中級のレベル5になったから、とりあえずひと段落だ。協力ありがとうな紫杏」


「妻ですから!」


「まだ結婚してない……シェリルも悪かったな。俺ばっかり戦ってるから暇だったろ」


 予想どおり【剣術:中級】もレベルを上げることはできた。

 ただ、初級の取得条件を六回満たす必要があるので、紫杏に吸ってもらってインプを狩るのを繰り返す必要があった。

 紫杏はいつもダンジョン内では、俺に好きにさせてくれているが、シェリルにもそれを強いるのは迷惑だったろう。


「え、ええ~……暇ではないですよ? なんかすごいものを見ましたから」


「見た目だけなら、地道なレベリングなんだけどな」


 さて、恐らく今上げられる最大まではスキルを上げたはず。

 スキルのレベルが上がるにつれて強くなってるのは実感できている。

 動体視力やら反射神経やら、剣を一振りする速度や鋭さはたしかに上がっているはずなのだ。

 だけど、途中からインプでは測ることができなくなってきた。

 果たして俺はスキルだけでどれくらい強くなれたのだろう。


「紫杏、ちょっと俺に本気で寸止めの攻撃してみてくれ」


「ほほう、善はサドかと思ってたけどマゾのほうだったと」


「どっちも違うわ」


「なんだ、いじめてあげようかと思ったのに……ね!」


 動き始めたのは見えた。迫ってくるのもわかる。

 なんとか剣で紫杏の攻撃をふせごうとするが、やたらと腕の動きが遅く感じる。

 それだけ、紫杏の攻撃速度がおかしいということだろう。


「お~、寸止めしなくても大丈夫だったかもね。それじゃあ、もう一発」


「えっと、待ってくれるか?」


「は~い」


 なにこの速度。そして理不尽なまでの拳の威力。

 食らってないのに、一発でも食らうと死ぬんじゃないかと思ってしまった。

 レベルは25相当。スキルは【剣術:中級Lv5】。

 それでもかろうじてしのげる程度なのか? 紫杏、強くなってるんだなあ……。


「わ~、すごいすごい! さすがは先生とお姉様です! 今の私じゃ、お二人の攻防にはついていけそうにないです!」


 俺たちのやり取りを見ていたシェリルが喜んでくれる。

 今のとつけるあたり、そこまで実力差が離れているわけでもなさそうだ。

 うん、これなら【中級】ダンジョンに挑んでみるのもいいかもな。


「二人とも、明日は【中級】に行ってみようか」


「はいっ! ついに、人狼シェリルの最強伝説が始まるんですね!」


「まだ、始まってなかったんだね」


「うっ……たしかに、すでに始めておかないと先生とお姉様の出会いの章が書けませんね」


 自分で書くのだろうか?

 シェリルの最強伝説はともかく、俺たちも異世界に向けてまた一歩前進できそうだな。


    ◇


「たしかに、ニトテキアは【中級】パーティですけど、そんなに急いで挑まなくてもいいんじゃないでしょうか?」


「いえ、できれば今日から挑戦させてください。俺たち異世界を目指しているので」


 やってきたダンジョンで、受付嬢さんに焦りすぎではと指摘される。

 でもなあ、一応準備はしてきたつもりだ。ならば、足踏みするよりは前に進みたい。

 そんな会話を聞いていたのか、休憩所にいた男たちが笑い出した。


「異世界だとよ。調子に乗んなよ新人風情が」


「女の前でいいところ見せたいってだけだろ、大体そんな美人お前には不釣り合いなんだよ」


「たしかに、他の二人はともかく、あの男はぱっとしないよね~」


 別に俺は気にならない。

 紫杏が俺だけを愛していることはわかっているから、男が嫉妬するのも理解できている。

 見たこともない女になんと言われようと、俺は紫杏にさえ好かれていればそれでいい。


 だけど、紫杏はそうはいかない。

 あの元将来有望パーティのときと違って、明確に俺だけをけなすのには敏感なのだ。

 だから、紫杏を怒らせるようなことはしないでほしい。


「善、殴ってこようか?」


「殴っちゃダメ。好きに言わせればいいよ。どうせ関わることもない」


 感情を無くしたような顔で、爆発寸前になるのでいつも通り止める。

 抱き寄せるようにして頭をなでる。これで、機嫌は元に戻るはずだ。

 だけど、忘れていた。今の俺たちはパーティだということを……。


「はあっ!? なに言ってんですか、雑魚どもが! 先生もお姉様も、悪口しか能がないどこかの誰かたちとは、比べ物にならないんですけどお?」


 威勢よく煽るシェリルのことを忘れてしまっていた……。


「調子に乗るなって言ったはずだぞ。自分が狼獣人だからって勘違いしてんのか」


「獣人相手なら、それだけで相手が委縮するのかもしれないけどさあ。私たちは新人の探索者程度、な~んにも怖くないのよねえ」


「あれえ、獣人なんてどこにいるんですかねえ? 私は人狼ですけど、もしかして獣人と魔族の違いもわかんないんですかあ? そんな節穴で探索できる程度のダンジョンだったなんて、楽勝ですね!」


 うわあ……ちょっとの隙に、一触即発みたいな空気になっているじゃないか。

 まあ、最初に絡んできたのは向こうだし、面倒だけど相手するしかないか。


「なんだと……」


 男が剣を持ち構える。

 どうしようかなあ。ここで戦うことになるとしたら、俺は【環境適応力:ダンジョン】の恩恵受けられないだろうな。

 紫杏がいる限り問題ないだろうし、たまにはサポートに徹するか?


「なんの騒ぎだ。これは」


 今にも襲いかかりそうだった連中を止めたのは、青い髪をした少々小柄な男。

 しかし、その雰囲気は絡んできた連中よりもはるかに実力者だと、なんとなく理解できる。

 現に剣を構えていた男は、すでに両手をあげて降参したようなポーズをとっていた。


「なんだよ。今日は管理人様がいたのかよ」


「いなければ、騒ぎを起こしていたというのか? そろそろ出入り禁止にするぞ」


「へいへい。俺たちは親切心から忠告してやっただけなのにな。せいぜい、あんたが管理するダンジョンで死者を出さないようにすることだ」


 一応、これで騒ぎは収まったってことでいいのだろうか。

 休憩所の連中は俺たちを気にすることもなく、また各々くつろぎ始めた。


 気を取り直してダンジョンの中に入るか。

 そう思ったら、青髪の男が俺たちのほうへと近づいてきた。


「すまなかったな。私のダンジョンで不快な目にあわせてしまって」


「いえ、慣れてますから」


 慣れているからこそ、これまでにいなかったシェリルという存在を忘れてしまっていたけどな。


「これに懲りずに、このダンジョンに挑んでくれ。あの連中のことは気にするな」


「ふふん! あんな連中の言葉で、私たちを止めることなんかできません!」


 おいシェリル。その人、管理人ってことは、一条さんと同じくらい偉いし、下手したら強さも同じような人だぞ。

 さっき不完全燃焼で終わってしまったせいか、シェリルはまだまだ興奮状態のようだ。


「そうか。それはなによりだ」


 管理人さんがいい人そうで良かった……。

 これ以上ここにいても、さらなるトラブルとなる気しかしないため、俺たちは急いでダンジョンの中へと進むことにした。

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