第33話 満月コンプレックス
スケルトン。つまりアンデッドだ。
魔族に分類されるから、広義的には紫杏とシェリルの仲間ということになる。
受付さんの忠告どおり、たしかに手ごわい。
ゴブリンやコボルトのように武器や盾を使うし、背丈は人間と同じなのでリーチも長め。
そして、これまでの魔獣よりも知性があるのか、しっかりとした技術で武器を扱ってくる。
イメージとしては、人間よりやや弱い程度だ。
なので油断しなければ、ある程度ダンジョンに慣れた探索者であれば問題ないだろう。
一つだけ厄介な点として、こいつらもインプと同じように一撃で死なない特性がある。
即死時しか発生しなかったインプよりも、常に発動する分こいつらのが面倒だな。
少し攻撃してからとどめを刺すと、スケルトンはバラバラの骨の塊に変わった。
しかし、骨の一本一本がぶるぶると震えると、再び人の形に組み合わさり立ち上がる。
それをもう一度攻撃することで、ようやく黒い煙を放出しながら消滅した。
「インプと違って、低威力の範囲魔法で削れない分面倒くさいな」
「状態異常がない代わりにしぶといのかなあ?」
大体スケルトンのことはわかったうえで、特に問題ない相手だと判断した。
あとはボスを目指してもいいのだが、今日はシェリルの強さを改めて確認したい。
「シェリル。いけそう?」
「もちろんです! この程度の相手最強の私の敵ではありません!」
平気かな。調子に乗ってると足元をすくわれる相手だぞ。
「てやっ!」
シェリルが爪でスケルトンに襲いかかると、見事に一撃でバラバラになる。
そして少し時間をおいてから、復活したスケルトンにしっかりととどめを刺して倒し切った。
「じゃあ、次は複数を相手にしてみよう」
「余裕です!」
と言ったのはいいが、やはり俺の予測は当たっていた。
「ぎゃあ~~!!」
初めて出会ったときと同じように、シェリルがスケルトンたちから逃げ回っている。
一対一だと調子がいいのだが、複数の相手はどうも苦手なようだな。
きっと目の前の一体のみに集中しすぎて、周囲の警戒ができていないのだ。
「シェリルはもうちょい周りを見たほうがいいんじゃないか?」
「い、いえっ! 無理です! 狂戦士で狂化してるんで、目の前の相手の攻撃全部避けないといけないので!」
たしかに対峙しているスケルトンの攻撃は全部避けてたな。
ただ、一度倒したスケルトンのことを忘れて、復活したスケルトンに背後を攻撃されてしまっていた。
【再生】のおかげか、背中にできた大きな切り傷はすでに完治しているのだが、本人の申告通り痛みに弱いんだろうな。
そこからは、なし崩しにスケルトンから逃げ回るだけになっている。
「シェリルの理想のスタイルって、【再生】でゴリ押しなんだろ?」
「はい! これはかつての獣王国の女王様も行なっていたと言われる、由緒正しい戦闘方法でして」
「でも、今は痛みに弱いから傷はすぐ治るけど、そこからは逃げ腰になるよね」
「にゃぁ……で、でも! いつかはその戦い方ができる素質はあるんです! 最強なので!」
「無理に最強でいなくてもいいから、今は一つ一つできるようにならない?」
たしかにその戦闘方法が確立できるのなら、シェリルは最強の名に恥じない探索者になるだろう。
だけど、今はそれができるとは思えない。
「つまり、私を痛めつけて痛みになれさせるということでしょうか……」
「なんで、そっちの発想になるんだよ……。まずは、【再生】はないものと思おう。それがあるから不意打ちされてもいいと思っちゃうんだろ。そのわりには、痛いのが嫌だから目の前の相手に集中しすぎているし、なんかちぐはぐしている」
「え~と……つまりどうすれば」
「他の人たちと同じように、周りに気をつけながら戦おうってところから始めてみたら?」
シェリルはあまり気乗りしない様子のようだった。
「し、しかし人狼としては、勇敢かつ圧倒的な強さで戦いたいといいますか……他の人と同じ戦いかたじゃだめなのでは?」
「いいんだよ。人狼だからって、最初から強いわけじゃないだろ。周りが勘違いして無責任に、狼獣人ならこう戦えとか言っても無視しろ」
「い、いいんでしょうか……」
「善がいいって言ってるのに、他のやつの声なんか気にする必要あるの?」
紫杏は不思議そうにシェリルに尋ねた。
シェリルはまだ信じられないというようだが、それでも俺の提案を試してくれるようで、スケルトンたちに向き合った。
「狂化解除します」
そう言ってスケルトンに攻撃すると、今度は一撃では倒せないようだった。
まあそれでも二撃で倒せるのだから十分だろう。
先ほどまでのむやみに敵に突っ込んで、スレスレでかわしながら反撃するような戦い方じゃない。
遠くから一瞬で近づき攻撃して、ちゃんと周囲を見ながら即座に離脱する。
なんだ、ちゃんと強いじゃないか。
「ど、どうでしょうか……」
「完璧だと思う。なんだ、これならインプの群れくらい余裕だったろ」
「あ、あははは……私最強ですから」
「そうかもな」
結局、シェリルは一人でスケルトンの群れを倒してしまった。
これまでの戦い方よりよほどこっちのほうが性に合っているんだろう。
それにしても人狼か……。魔族ってことはサキュバスのこと知らないかな。
無理だろうな。お祖母さんは亡くなったらしいし、そもそも同じ種族というわけでもないんたから。
俺だって、人間だという理由で外国の人のこと聞かれても答えられないからな。
「ちゃんと戦えるのはわかった。あとは人狼ってことで知っておくべきことある?」
獣人みたいに発情期があるのだろうか。
淫魔みたいに精気を補給しなくて大丈夫だろうか。
その辺りは今後組むのなら知っておくべきだ。
「そうですねえ……満月の日だけ狼よりの姿になります」
「そうなのか。じゃあ満月のときは夜までにはダンジョンから出たほうがいい?」
「いえ、満月のときのほうが強いのでそこは大丈夫ですが……満月の夜じゃなくて、満月の日なので、朝には姿が変わっています」
「そうなると、シェリルだと気付けないかもしれないな。いや、二足歩行の狼がいたらシェリルだと思えばいいのか」
それとも、一度変化するところを見せてもらうほうがいいか? それなら確実にシェリルだとわかるが、変化中の姿を見られたくないとか、この考えが人狼にとってセクハラになったらどうしよう。
「あ、あの!」
「ああ、ごめん。ちょっと考えてた」
「ぶ、不気味じゃないんですか!? きっと先生が思ってるよりもだいぶ魔獣チックな姿なんですが!」
「え、でも理性はあるんだろ? 中身がシェリルなら別に気にすることないじゃん」
理性を失って襲ってくるとかなら話は別だが、そうでないのなら特に問題はないだろう。
「で、でも……狼獣人と違って魔獣みたいになって怖いとか、そんな変化しないほうがいいとか、みんなは……」
「そのみんなとパーティ組むの?」
「い、いえ……組んでもらえないと思います」
「じゃあ、パーティメンバーの俺たちが気にしてないし、シェリルも気にしなくていいぞ」
それよりも姿が変化したときの戦闘方法とかを知っておきたい。
もしかして、ボスコボルトくらい大きくなるのか?
そうしたらリーチが伸びるけど、敵の攻撃を受けやすくなりそうだ。
うん、やっぱり一度その姿のシェリルと一緒にダンジョンに潜ってみたほうがいいな。
「ほ、本当になにも気にしないんですか……私が狼獣人じゃないことも、醜い化け物に変化することも……」
「甘いねシェリル。善はその程度のこと興味ないよ。きっと今頃は、満月のときのシェリルと組んだときに、どうやって戦おうとか考えてるはずだよ」
「そっか……私、人狼でいいんですね。狼獣人じゃなくて……」
「あっ、発情期とかあるの? そのときは善に近づかないでね」
「は、は~い……」
聞きにくいことを紫杏が聞いていた。
そして、やっぱりあるのか、発情期。
……気をつけないとな。
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