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宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~  作者: パンダプリン


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第32話 狼のふりをする狼の本音

「それじゃあさっそく【中級】行きますか!?」


「いや、その前にシェリルがどれくらい戦えるのか知っておきたい」


 大地の家を後にして、やたらとはりきるシェリルを連れてダンジョンへと向かう。


 自分が強いと言うだけあって、たしかにその強さは昨日見せてもらった。

 あの時点では高レベルであった俺や紫杏に劣らないだけの高火力な獣人。

 しかし、それくらいしか知らない。


 集団戦が不得手なのか、その理由は? やはり、スキルで狂化したことで、自分が負うダメージも上がっているからか? 一対一なら攻撃を受けずに一方的に戦えるので、狂化のデメリットも気にならないが、集団戦だとどうしても攻撃されてしまうので、そこを突かれると弱いのだろうか。そういえば、俺もボスインプ戦で狂化をかけてもらったが、たまたま相手の攻撃前に倒せただけで、下手したら余計にピンチになってた可能性も……


「お~い、ぜ~ん」


「ど、どうしちゃったんでしょうか? 急に反応がなくなってしまいましたけど」


「……よしっ」


 あまり考えなしに使うべきスキルじゃなかったな。たまたまうまくいっただけで、検証もせずにぶっつけ本番なんて運がよかっただけだ。今後もそんな甘い考え……


 甘い。いや、味は別にしないけど、なんとなくそんな気持ちに……。

 口内に柔らかいものが侵入してきた。それと同時に口が塞がれてやけに息苦しい。

 侵入したものは俺の口内をなぶるように、我が物顔でベタついた体液を塗りつけていく。

 そして、それが目的だったのか俺の舌を発見すると、絡むように動き回る……。


「なにしてんの!? お前!!」


「っぷはぁ! お、ばれちゃったか~。もう少し気がつかないと思ったんだけどね~」


 考え事をしていたら、急にキスされた。

 意味がわからん。サキュバスだからか? それとも、紫杏だからか?


「呼んでも気づかないほど集中してるから、今なら好き放題できると思ったのさ!」


「思ったとしても実行するなよ……ほら、シェリルが固まってるぞ。今度はあいつにキスするのか?」


「私の唇は善のものだからしません~」


 油断も隙もないやつだ、本当に。

 家ならいいけど、往来の場でするやつがあるか。

 それも、パーティメンバーもいるというのに。


「シェリル。戻ってこい」


 シェリルも、俺にだけは言われたくないだろうが、そこで固まっているとダンジョンに向かえない。


「はっ!? さ、さすがは先生とお姉様です! お二人にとって、世界は自分たちだけであって、その他の有象無象の事前なんて、所詮は虫に見られてるようなものということですね!?」


「いや、そんな傲慢がすぎる考えは持ち合わせてないから」


「世界に私と善の二人だけ……いいね、それ! そうしたら、もっと人を増やさないといけないから、毎日子供を作らないとね!」


 どうしよう。おかしな妄想のはずなのに、結果今とやってることが大して変わらない。

 だめだ、ここで話してるだけで一日を終わらせるつもりはないんだ、俺は。


「ダンジョンに行こう」


「善と毎日毎日子供を作るんだ~」


「私ももっと周りのことなど考えないほうが? でも、それはつまり先生やお姉様みたいな恥ずかしいことを……む、無理です!」


 俺は妄想の世界から帰ってこない二人を引き連れて、ダンジョンへと向かうのだった。


    ◇


「烏丸さん、北原さん、月宮さんですね。はじめまして、昨日はずいぶんとすごかったとお聞きしています」


「えっ、昨日はたしかにいつもより激しかったけど、なんで受付さんが知ってるの?」


「違う! ダンジョンの方の話に決まってるだろ!」


「ああ、そっか。そっちのことね」


 ほら見ろ、受付さんが苦笑いしてるじゃないか。

 それでもしっかりと対応してくれるあたり、やはり受付さんはプロだな。


「ご存知かもしれませんが、ここはスケルトンが出現します。【初級】の中でも手強い相手なので、くれぐれも無理しないでください」


 インプダンジョンを制覇したあなたたちなら大丈夫と思いますが、と最後に小声で付け足してくれた。

 どうやら調べた情報は間違ってないみたいだな。

 ゴブリンやコボルトよりは厄介だけど、インプよりは弱い。

 シェリルを知るためにはうってつけの難度かもしれない。


「こんなダンジョン、私がサクッとクリアしてみせましょう!」


「まだそうやって調子に乗る。今日は様子見だけだよ」


「え~、私だけでなく先生にお姉様までいるんですよ? 昨日みたいに不甲斐ない姿は見せませんってば~」


 不安になってきた。この子本当にいつか大怪我するぞ。

 シェリルをなんとか納得させると、俺たちはダンジョンの中へと進んでいった……。


    ◇


「まず、俺と紫杏は悪いがユニークスキルは明かさない。シェリルも教えていい情報だけ教えてくれ」


「はい! ではまずは、名前は月宮シェリル。あの腹黒イケメンの一条浩一(こういち)の義理の妹で、苗字は月宮のほうがかっこいいから、お祖母ちゃんのを名乗っています! ユニークスキルは【再生】で、どんな傷もすぐに治ります!」


「待った待った待った……教えていい情報だけって言ったよね。なんで、ユニークスキルまで教えちゃってるの」


 一気にまくし立てられたため、止めるのが遅れてしまった。

 俺たちはユニークスキルを隠すと宣言しているのに、なんで自分のユニークスキル言っちゃってるの、この子。


「え? だって、先生とお姉さまに隠し事なんてありませんから」


「なんで、そんな全面的な信頼を置いてるんだよ……」


「当然です! 最強の私よりも強い、最強の二人! 人狼的には、自分より強い相手を信頼して従うなんて常識ですよ」


 そういうもんか。獣人の知り合いはいなかったから、詳しい生態とか知らないんだよなあ。

 ということは、大地と夢子がもう少し本気でシェリルを懲らしめれば、素直に言うこと聞くようになるんじゃないか?


「ユニークスキルが【再生】ってことは、【高揚】は」


「職業スキルですね! 私は狂戦士の職業を選びました!」


 狂戦士……完全に物理攻撃特化かつ、攻撃特化で防御を捨てている職業だ。

 それでもスキルは使いこなせれば高火力を出せるため、敵の隙を見定めて随所で使用していく、という技量があれば強力なスキルとなる。

 だけど、初心者からいきなり狂戦士を選ぶのは、それこそ狂ってる。


「狂戦士でしかもスキルで狂化してたんじゃ、そりゃあインプの群れから逃げるよなあ……」


「お、お見苦しい所をお見せしました……でも、私の場合【再生】で死ぬことはないので、わりと無茶ができるといいますか……」


「昨日は逃げてたみたいだけど?」


「痛いことは痛いので……あはははは」


 思っていた以上にすべてを話してくれたこともあり、大体のことはわかった。

 調子に乗るのは、他の探索者と違い死ぬことはないため、危機感が足りていないから。

 大地と夢子の忠告を聞かないのは、強さだけを基準に考える獣人という種族だから。

 俺たちにやけに従順なのも、俺たちが自分より強いと思っているから。


「とりあえず、自分より弱そうだからといって、露骨に態度を変えないようにしようか」


「え~……だって、私最強なんですよ? 人狼ですよ? 始まりの四女神と同じような種族なんですよ?」


 まあ、言いたいことはわからんでもない。

 獣人は数多くの種類がいるが、その中でも明確に格が高いとされているのは、狼獣人と猫獣人なのだから。


「でも、そんなこと言ったら、俺たちだって始まりの四女神と同じ種族だぞ。人間なんだから」


「うぐっ……!」


「それに、シェリルが言うことを聞かなかった大地と夢子も人間だ」


 紫杏だけは違うけどな。


「う~……人間は、その、多いじゃないですか? だから、ずるいといいますか……私みたいな人狼みたいに、勘違いされて変な期待されないじゃないですかあ……」


 ちょっと気になってたことがある。


「勘違いとか、四女神と同じような種族ってどういうこと? シェリルって狼獣人だよな?」


「やっぱりそう思っちゃいますよねえ……私は人狼です。狼獣人とは別の種族で、獣人ではなく魔族なんです。でも、周りの人たちは四女神様と同じ種族だと勘違いして、いつも私に過剰な期待を……」


 どうやら、わずかに本音を聞き出せたようだ。

 というか、俺も勘違いしてたから、そのことは申し訳なく思う。


「つまり、周りからのプレッシャーに答えようとして、そんな自信過剰な性格になったってことか」


「私は人狼なんですぅ……現世界では珍しいから誰も気づかず、狼獣人と勘違いされて、いずれは女神なんて期待され続けて、私の心はボロボロなんですう……」


「それ、大地と夢子と一条さんにも話しなよ」


「だ、ダメに決まってるじゃないですか! 最強じゃない私なんて、何の価値もないただの野良狼ですよ!?」


 なんだか、こじらせてるような気がするなあ……。

 あの二人に限って、それで虐げるとか絶対ないのだけど、どうにも自信がないみたいだ。


 だけど、シェリルという少女のことが少しわかったような気がする。

 今後も長い付き合いだというのなら、いつかはこの問題も解決できるといいんだけどな。

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