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その狼

「現世界の魔物を倒した私! それすなわち現世界最強の人狼!」


「言葉を選ぶようになったわね」


「人狼ついてないと、善と紫杏より強いってことになるからね」


「そこはそれとして、ほぼ最強の存在! それこそがシェリルなんですねえ!」


 元気だなあ。今日の散歩は3時間くらい必要そうだ。

 そう思って首輪の準備をしていると、シェリルから待ったがかかった。


「先生! お散歩は嬉しいですが、私にはやり残しがあるのです!」


「やり残し?」


 シェリルは大口は叩くが嘘はあまりつかない子だ。

 そもそも、大地と夢子が否定しないあたり、本当に現世界の魔獣のほとんどは倒し終えてくれたのだろう。


「残党狩りなら、赤星くんや氷室くんが頑張ってくれているって聞いたけど」


「ええ、私の後輩たちもわんわんと頑張っております!」


「ならいいじゃない。少しは休んだら?」


「というか、いつまでも元気いっぱいのあんたに付き合う私たちの身にもなってくれる?」


「先生とお姉様なら付き合ってくれます!」


「僕たちは先生でもお姉様でもないからうんざりしている」


「こ、このぉ……!」


 ああ、言い負かされそうだな。

 というか、大地も別にそんな難しいことは言っていないし、だいぶ加減してあげているはずだ。

 本気で怒った大地の毒舌はそりゃもう恐ろしいものだ。

 あの紫杏が俺に泣きついたレベルといえば、いかに恐ろしいかわかるだろう。


「それで、シェリルがやり残したことって、結局なんだったの?」


 見かねたのか、二人のやり取りを見るのが飽きたのか、紫杏がシェリルに尋ねる。

 すると大地との口論など忘れたように、シェリルは尻尾を振りながら紫杏に言った。


「最強の狼系の座をちょっと奪ってきます」


「狼系って……まさか、またダイアウルフの群れのボスにでもなるのか?」


「いいえ先生! あいつらは、もはや私より雑魚! すなわち、戦う前から格の違いがわかりきってる犬っころなんですよ!」


 まあ、たしかに今のシェリルならダイアウルフなんて相手にならないか……。

 なら、どの狼と戦うつもりなんだろう。


「クウちゃんをぶっ倒してきます!」


「……まじ?」


「まじです! まじシェリルです!」


 それはなんか意味が変わってくる……。いや、そんなことよりクウを倒す?

 たしかに、前に紫杏が戦って勝利したけれど、あれはどちらかというと戦意を喪失させての勝利だ。

 純粋な実力で考えると、神の力を持つクウ相手に勝ち目なんてない。

 ……今の紫杏ならいけるか? 俺がクウの神性を一時的に消滅させれば、あとは純粋な身体能力勝負だし、なんとか……。


「現世界最強の狼と、異世界最強の狼ですからね! 勝った方が真の最強狼となるのです!」


「あのねえ……やめておきなよ。いくらバカ(シェリル)でも、実力の差くらいはわかるでしょ」


「……むう? なんか、今バカにされたような……」


「シェリルは紫杏と善より弱い」


「当然です! 最強の先生! 最強のお姉様! その飼い犬にして最強の狼シェリル! 無敵の布陣です!」


「だから……その紫杏と善だって、クウには勝てないんだから、シェリルが勝てるはずないって言ってるんだよ」


 協力すれば可能性は……。

 まあ、一対一だと極限魔法の準備中に瞬殺されるから無理か。


「はっはっは! お姉様はすでに一対一でクウちゃんに勝っているのですよ!」


「いや、あれは……まあいいや。試したほうが早そうだし」


 おい大地。諦めるな。

 絶対にボコボコにされて、泣きながら帰ってくることになるぞ。

 なんとか説得……あ、だめだ。なんか目がキラキラしてるし、都合のいい未来を思い描いているな。これは。


「それじゃあ、ちょっと最強になってきます!!」


「あ、シェリル……」


    ◇


「というわけで勝負です! クウちゃん!」


「ええ……」


 ふっふっふ……驚いていますね。

 さすがのクウちゃんも、現世界最強狼を相手には戦いたくないと見ました!

 大地め~……なあにが、クウちゃんのほうが強いですか! 戦わずにわかるとか、失礼なやつですよ、本当に!


 大体、私だってちゃんとした考えあっての行動なんです!

 あの赤木(変態)を、先生は見事に倒しました。お姉様は、対等に戦いました。

 私は……まあ、がんばって食らいつきました。

 つまり、1番が先生。2番がお姉様。3番が私シェリルということになります!


 対して、クウちゃんとの戦いはどうだったでしょう。

 お姉様が勝ちました。つまり、お姉様はクウちゃんより強いです。

 2番目に強いお姉様に負けたということは、クウちゃんは3番目です。


 現世界の3番目である私と、異世界の3番目であるクウちゃん。

 完全に互角の勝負じゃないですか!


「まあ、これでも禁域の森の王ですから……挑まれたなら戦いますけど、本当にいいんですね?」


「もちろんです! 最強の狼の座を賭け、ぐええええっっ!!」


 ……いったあい。

 ええ? なんでですか?


「……なるほど、たしかに強かったです。まさか、あの一瞬で反撃されるとは思いませんでした」


 そう! クウちゃんの超スピードは驚きましたけど、そこは私だって得意分野です!

 スーパーワンワンモードの力をいつでも引き出せるようになった今!

 ちゃんとあの攻撃に反応して、反撃をしたはずなんですけど……。


「なんで……効いてないんですかあ……?」


「ゼンとシアンにはお世話になりました。うじうじしていた私の迷いを吹っ切ってくれました」


「先生とお姉様ですからね!」


「なので、私は晴れて禁域の森の王となれました」


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます……。そして、王になった今、恥ずかしがって両親に甘えないようにするというのを辞めました」


「良いことだと思います!」


 私も先生とお姉様には思う存分甘えますからね!

 我慢なんかしてもなにも良いことないんです。


「だから、神の座を捨てる意味もなくなったんです」


「んん? じゃあ、クウちゃんは神様に戻ったんですか?」


「そうなりますね。そして神には神力を伴わない攻撃は通用しません」


 神力……神力?

 私もがんばれば使えますかね? ……無理っぽいですね。

 え? じゃあ、クウちゃんには私の攻撃は通用しないってことですか?


「ず」


「?」


「ズルじゃないですかあ!!」


「し、失礼な! 本来の私の力なので、ずるなんかじゃありません!」


「う~……大地に馬鹿にされるう……」


 ああ、もう! 想像できました! 言わんこっちゃないとか言ってる大地の顔があ!


「ダイチは、わりと口が悪いようですからね」


「そうなんです! クウちゃ~ん……大地に口喧嘩で勝ちたいです……」


「いや、それは私よりも付き合いの長いあなた方のほうが……」


 だめですかあ……。

 口喧嘩。口喧嘩。


「例えば、ゼンとシアンを真似してみたらどうですか?」


 先生とお姉様を……?

 あ、そういえば前にお二人の意見が違ったとき、珍しくお姉様が勝っていました。

 いつもは、先生が勝つはずなのに。


 あの時のやりとりはたしか……。


『な、なにさ! ■■■■■■■■■■っ!』


『そ、それは今は関係ないというか……お世話になりました。ありがとう』


『うん! 許す!』


 これです!!

 ふっふっふ……見ているがいいです。大地め。

 いつまでも言い負かされるばかりの私じゃないんですよ。


「なにかいい案が思い浮かんだようですね」


「ええ! ありがとうございますクウちゃん!」


 こうしちゃいられません。

 今の私なら大地さえも倒せる、つよつよ狼です!


    ◇


「だから言ったのに。クウに勝つなんて無理に決まってるでしょ」


「……」


「なに? なんか反論でもあるの?」


 甘いですね。大地。

 今の私はお姉様直伝……直伝ではありませんが、お姉様から学んだ言葉があるのです!


「わ」


「わ?」


「私でどーてー捨てたくせにっ!」


「な……何言ってんの!?」


 はっはっは! さすがはお姉様のお言葉です。

 あの大地がうろたえるなんて、実にいい気分です!


「私でどーてー捨てたくせに~!」


「馬鹿っ! そんな根も葉もない嘘を!」


 いいざまですねえ!!

 ……あれ? なんか、後ろから怖い気配が。


「どういうこと?」


 後ろには、鬼がいました。


「違う。夢子。シェリルが勝手に言ってるだけで、一旦落ち着こう」


「落ち着いてるわ。それで、浮気したってこと?」


「ひいっ……!」


 なんで夢子が怒っているんですか!?

 おのれ大地! 仲間を呼ぶなんて卑怯な!!


「ちょっと、三人で話し合いましょう」


「お、おのれ~! 大地め~!!」


 お姉様が助けにきてくれるまで、すごい怒られました……。

 あの言葉は封印したほうがいいみたいです……。

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