第247話 さらば友よ、静かに死ね
「これで星の導きも正気に戻せます!」
正気を失っているためか、同程度の実力である【超級】パーティも倒すことができています。
さすがに無傷とまではいきませんが、双方ともに重症は負っていないため、上出来といってもいいでしょう。
『さすがは氷鰐探索隊だね~。なんか異変解決ばっかしてる管理職っぽいイメージだったけど、ちゃんと強いじゃん。これは、魔王の企みもここまでかな?』
三輪の言葉が聞こえてくるのがどうにも落ち着きませんが、これも魔王を倒すためなのでしかたありません。
いまや、現世界ではユニークスキルを取り戻した者の割合は非常に多い。
そのうちの何人かは、自分にもできることはないかと考え、世界中へ情報を伝えるための協力をしてくれています。
音声のみ無理やり配信していた三輪は、今や映像を全世界に配信して、現世界中に希望を与えるようになりました。
その一環として、我々が実際に魔王に隷属させられている者を倒し、解放する姿を見せるというのは理屈はわかるのですが……。
「やはり、落ち着きませんね」
「まあ、せいぜい情けない姿は見せないようにしないとな」
「すでに、情けない姿は存分に見せてる気もするけどねー。紫杏ちゃん、ほんと強かったよ」
軽口は叩ける程度に元気はある。
ならば、次の隷属者の元へ向かうことにしましょう。
そう判断し、三輪の【遠見】と人物の捜索に長けたユニークスキルホルダーたちに、隷属者を探してもらうよう頼もうとしました。
しかし、そんなことをしている場合ではなくなってしまったようですね……。
「やあ、久しぶりだね。君たち」
「赤木……凜々花!」
安奈が真っ先に攻撃をしかけました。
怒りに満ちていたとはいえ、彼女の攻撃は決して軽々と防げるものではない。
そのはずが……赤木の前では、なんの脅威ですらないらしく、軽く手を動かすだけで弾かれてしまう。
「危ないなあ。私じゃなかったら、死んでいるぞ? だめじゃないか。【超級】パーティともあろうものが、世界中に人を殺す姿を配信しようだなんて」
「凜々花……その演技はやめたらどうだ? 似合ってないぞ」
「そうかい? せっかくだし、あなたたちのよく知る私として相手をしようと思ったのだけど、余計なお世話だったかしら」
魔力を――。
「浩一!!」
魔力が練り上げられない。
熱いな……くそっ、斬られたか。
「嫌いなのよ。ありもしない希望にすがるやつ」
望。なにしてんだ。
俺が一撃でやられたんだぞ。お前らはさっさと逃げるべきだろう。
「ねえ、聞いてる? 三輪とか言ったっけ? ほら、してみなさいよ実況。あなたたちに、希望なんて存在しないってね」
ああ、くそっ……。それが狙いか。
デュトワ。安奈。美幸。
薄れゆく意識で理解できたのは、誰も彼もが一撃でやられたということだけ。
「ふふ……あははははははははっ!!」
俺たちでは……敵わない……。
魔王を……倒す英雄……が
◇
「くそっ!」
そこまで頭が回っていなかった自分が嫌になる。
魔王は観月から【ゲート】を奪っていた。あのスキルがあれば、どこにいても奇襲ができるじゃないか。
それなのに、一条さんたちの活動を配信なんかしたら、魔王の格好の的になるなんて想像できたことじゃないか!
「どこ行くんですか先輩」
「決まってる。赤木……いや、魔王を倒しに行く」
「冷静になってください。今の映像は僕たちだけでなく、現世界の人たちも見ています」
「だからこそ」
「魔王はまた強化されました。上位パーティをものの数秒で全滅させた力と恐怖が、現世界の人々の脳裏に刻まれたことでね」
ふりだしか……。
いや、魔王の絶対的な強さを改めて証明してしまったんだ。
魔王に勝てるかもという考えは、現世界からいともたやすく消えてしまっている。
それらの認識を改めて拭い去るのは、さらに困難を極めるだろう……。
「少しは落ち着きましたか? では、白戸さんを連れてすぐに向かってください」
「え、行くのは反対だったんじゃないの?」
「氷鰐探索隊の戦いを見て確信しました。先輩たち以外に魔王を倒せる可能性はありません。だから、魔王を倒すために戦うのではなく、魔王に負けない探索者として戦うことを心がけてもらいたい。さっきのまま送り出したら、絶対無茶したでしょう。先輩は」
「それは……」
たしかに、やぶれかぶれになって戦いを挑んでいたかもしれない。
そして、そのまま敗北し、現世界は完全に恐怖に包まれる……か。
「必要なのは魔王を倒す戦いではなく、希望を見出させる戦いです。たまには、自信をもってその力を自慢していいんじゃないですか? 月宮先輩みたいに」
「ひむろんがいいこと言いました! 私たちは最強パーティですから!」
「ええ。どうか最強でい続けてください。弱い僕たちが魔王の恐怖を克服できるようにするためにも」
まずはそれが一番肝心なことだな……。
いまだに魔王を倒す条件は揃っていない。
ならば、絶対無敵の魔王という存在相手でも、もしかしたら勝てるかもと思わせるほど善戦必要だ。
粘り強く、危なげなく、そんな長期戦を覚悟した方がいいだろう。
「さっき話したとおり、魔王の弱点は先輩のはずです。戦いながら勝機を見出すというのは、勘弁してほしいと思うかもしれませんが」
「あ、それはわりと今までもそんな感じだから大丈夫。むしろ、夢幻の織り手のみんなのおかげで、今までで一番戦う前に考えることができたかもしれない」
「……今までどんな突発で綱渡りな戦闘を繰り返してきたんですか」
だって、向こうが勝手にくるから……。
ダンジョン犯罪者とか、特殊個体とか、獣王とか、神とか!
「それなら……準備が出来次第、三輪に言ってください。先輩たちを配信するようにと」
「そうすれば、魔王は俺たちの邪魔をしにくる。一条さんたちのときのように……」
氷室くんは、そうやって魔王をおびき寄せる方法をすぐに思いついたわけだ。
つくづく、俺が【ゲート】のことをもっと教えておけばと思ってしまう。
「一応言っておきますけど、僕だって魔王をおびきよせるのは、さっきの氷鰐探索隊への強襲を見て思いついただけですからね?」
「だから、先輩だけが悔んだりしちゃだめですよ? 私たちもみんな知っていました」
「だけど、誰も思い浮かべていなかったからなあ……。これまで、引きこもってた魔王様だからと、直接戦う想定はしていなかった。いや、考えたくなかったのかもしれない」
夢幻の織り手がそんな風になぐさめてくれる。
いかんな。こんなふうに後輩に気を遣わせているなんて先輩失格だ。
「だから、もっと自信を持てって言ってるんですよ。言っておきますけど、先輩たち全滅したらもう誰も勝てませんからね。もう一度言いますけど、月宮先輩を見習ってくださいよ? ほんとうに」
「現世界最強! それが私たちです!」
そうだな……。
これまでは、他人の評価とか気にしていなかった。
紫杏や大地、夢子にシェリル。仲間以外からの評判なんてどうでもよかったし。
そもそも、俺は自分を優秀だと思っていない。
だけど、今回ばかりはシェリルを見習おう。
俺たちは現世界最強のパーティニトテキアで、俺はそのリーダーの烏丸善。
その姿にこそ、現世界の人たちは魔王を倒せるという、わずかばかりの希望を見出すことになるだろう。
「ありがとう。それじゃあ行ってくるよ」
「ええ、安心させてくださいよ?」
「当然だろ。だって俺たちは、神様にも勝っているんだから」
「え……なんですかそれ。こわっ……」




