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宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~  作者: パンダプリン


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第241話 暗転もせずに消えていく魔王

「さて……これ以上戦っても無駄だとわかったでしょ? 私もね、いつまでもこんな狭い室内で戦いたくないの」


 そう言いながら、魔王は【ゲート】を使用した。

 まさか、この状況で逃げる? いや、俺たちへの興味すらないということか?

 とにかく、ここで逃がすわけにはいかない。


「だから、続きは頼むわね」


 魔王と入れ替わるようにゲートから現れたのは、俺たちがよく知る人物たちだった。

 普段と様子は明らかに違う。人形のようにまったく意思を感じ取れず、魔王のいうことだけを聞く存在。

 魔王の命令に従って、その人たちは何の感情もない表情で、俺たちと対峙した。


「デュトワさん……」


 一条さんを除く氷鰐探索隊の面々が、魔王を守るべく俺たちを攻撃する。

 ああ、さすがにいまだに参考するところだらけだ。

 隷属しているというのに、複数人というよりは一人の強大な敵を相手にしているような連携。

 攻撃の隙なんて存在しない。互いが互いをカバーし合うような、理想のパーティの姿がそこにはあった。


「くそっ! 【天神閃光槍】!!」


 背を向けていた魔王に、せめてもの攻撃をしかける。

 魔王はその攻撃をもはや避けることすらせず、俺の放った魔法が突き刺さる。

 だが……その体もすぐに再生してしまう。

 やはり、今の魔王はどんな攻撃でも倒すことができないということか……。


「無駄だって言ったでしょ? 私にはあなたの攻撃なんか、なにも通用しないの」


 状況はどんどん悪くなるばかりだ。

 魔王を追うことができないどころか、本気のデュトワさんたちの猛攻をしのげるかさえ怪しい。


「善! 行って!」


 しかし、そんな攻撃から俺たちを守ってくれる、頼もしい魔力の壁が目の前に現れた。

 いまや紫杏の結界は、【超級】のベテランパーティの攻撃さえも通さない強固な守りになっているようだ。


「【剣術:超級覚醒】!」


 紫杏の結界を攻撃し続けるデュトワさんたちの間を走り抜ける。

 魔王に向けて、あらんかぎりの力を込めた一撃を見舞うために。


 だが、このままでは届かない。

 もはや直接攻撃するのは諦めるべきだ。

 ならば魔法かというと、魔力を練り上げ構築する時間さえも足りない。

 【斬撃】だ。ただの【斬撃】じゃ通用するはずがない。

 頭の中で一瞬でそこまでを考え、次の攻撃手段を選択する。


「【戴天界薙】!!」


 魔王はその攻撃を軽く刀で受け止める。

 そうして、今度こそ魔王はゲートとともに消えていった。


「ああ、もう! よりによってあんな奴の手先になるとか、恥ずかしくないんですか!!」


 シェリルが吠える。

 仲のいいデュトワさんの今の状況を許せないのだろう。

 それは、こっちも同じことだ。

 魔王がこの場にいなくなった以上、なんとしてもデュトワさんたちを倒す。

 正気に戻す方法を探るにしても、まずは行動不能にすることが最優先だ。


「かくなるうえは……次期竜王とも噂のこのシェリルが、全員反省させてやります!」


 竜王を倒したことは聞いたけど、たぶん次期竜王ではないと思う。

 ルダルってそういう王制じゃないだろ。


「シェリルの言うとおりです。後輩の力になれないどころか、足を引っ張るなんて何考えてんだてめえら」


 ふいに、この場にいなかったはずの聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはいつもとまったく別人のような、怒りの感情に染まった一条さんが立っている。


 そんな一条さんに、俺もシェリルも驚いていたが、隷属させられたデュトワさんたちはその限りではないらしい。

 わずかな隙で、一条さんに一斉攻撃をしかけてきた。


「長年の付き合いだ。お前らの連携をどう対処すればいいかなんて、手に取るようにわかっている」


 その言葉のとおり、一条さんはたった一人で四人の攻撃を時に避け、時に防御し、あっさりとさばききってしまった。

 もしもシェリルや大地と敵対したとき、俺にあれができるだろうか。


「当然、連携の合間の隙もな」


 あまつさえ、一条さんはそれだけでは終わらずに、しっかりと反撃の一手も打っていた。

 デュトワさんの腕の一部が凍り付き、轟さんの足元は凍らされて動きが制限されている。

 これなら……。


「ごめん。ちょっと治療してた!」


 あ……。

 氷鰐探索隊の面々が、紫杏に頭を小突かれて倒れていく。

 そうか、一条さんなら大丈夫だとこの場を任せて、途中から神崎さんの回復をしていたのか。


 なんというか、これからさあ反撃だってタイミングだったけど。

 紫杏があっさりとデュトワさんたちを鎮圧したことで、言っちゃ悪いが不完全燃焼感もある。

 だけど、まずはほめておこう。


「ありがとう。助かった」


「うん。偉い?」


「偉い」


 なんとも言えない空気だけど、助かったのは事実なのだ……。


     ◇


「う~ん……怪我とかなら治せるんだけどねえ」


「やっぱり、難しいか」


 気を失った氷鰐探索隊の隷属を解けないか、紫杏にサキュバスと聖女の両方の力で対処法を探ってもらうが難しいようだ。

 それを聞いて、神崎さんと一条さんは悔しそうな顔をしていた。


「すみません。役に立てなくて」


「いえ、北原さんのおかげで、この馬鹿たちが他者に危害を加える前に無力化できました。ありがとうございます」


「こちらこそ、すみません……肝心な時に何の役にも立てず」


 紫杏の謝罪に、一条さんと神崎さんが答える。

 しかし、そうなるとデュトワさんたちは、無力化してしばらく拘束しないといけないな。

 紫杏でも無理かあ……。まあ、そもそも紫杏が聖女の力を自覚したのなんて、クウとの戦いのときだからな。

 聖女としては新米もいいところだ。

 ……だけど、現世界にはもっと経験豊富な聖女の先輩がいるじゃないか。


「白戸さんなら……治せないか?」


「たしかに……美希ちゃんなら、私よりこういうの得意そう」


「……そう、ですね。彼女はこれまでに様々な者を治療しています。探索者に限らず一般の方々含めて、怪我も病も呪いさえも」


「なら、やってみる価値はありそうですね」


 問題は、白戸さんが今無事かどうかということだ。

 こちらの状況は大まかにしかわからない。

 世界中に魔獣が溢れかえっていて、様々な場所がダンジョン化してしまっている。

 それだけでも世界の危機だというのに、一部の戦力は魔王に隷属して世界の敵となっている。


「白戸さんの居場所ってわかりますか? ……そもそも、彼女は無事なんでしょうか?」


 まずは魔王を倒す。それだけを考えて、他のことは考えないようにしてきた。

 だから、こうして一度考えだすと色々なことが心配になってくる。

 家族は無事に避難できているのか? 学友である長野たちは?

 手引書が白紙のままになったが、氷室くんは無事なんだろうか。


「今も、現世界は魔獣たちが溢れ混乱しています。正常な思考の者たちは、固まって各々避難させており、白戸さんもそのうちの一人です」


「よかった……無事なんですね」


「一部の暴動を起こしている者を除き、現世界の人々は今のところまだ安全です。もっとも、それもいつまで持つかは保証できませんが……」


 神崎さんの言葉に、少しだけ安堵した。

 どうやら、管理局が迅速に対処してくれたおかげで、この世界の住人には見た目ほどの被害は出ていないようだ。


「白戸さんは、現世界で数少ないスキルが使用できる方ですから」


「そういえば……スキルやステータスの意味がなくなったって話でしたっけ?」


「ええ、魔王が現世界の侵略を宣言したときに、ユニークスキルも、職業スキルもすべて魔王に奪われました。もっとも、返してもらうとのことだったので、今思えばこれらの仕組み自体が、魔王が作り出したものだったのかもしれませんが……」


「ユニークスキルまでですか……あれ? それじゃあ、紫杏みたいに種族が変わる場合は?」


「一部を除き、元の種族に戻っています。北原さんは……異世界にまで力が及ばなかったので、無事だったのかもしれませんね」


 ……そういえば、シェリルも魔王との戦いで負った怪我がちゃんと【再生】で治っていたな。

 とすると、異世界にいる者のスキルは無事ということだ。

 もしかして、それで異世界と現世界のゲートが封鎖されたのか?

 魔王と戦う手段がある者たちが戻ると危険だから、魔王が事前に対処した結果と考えるとしっくりくる。


「あれ……? 一部、ですか」


「ええ、スキルの内容に関係なく、ユニークスキルが残っている者たちもいます。その方たちは、率先して魔獣たちと戦ってくれているのです」


「白戸さんがスキルを使えるというのは……」


「白戸さんもその一部の者ですね。もっとも、戦うよりも怪我人たちの治療にあたってもらっていますが」


「それじゃあ、やっぱり白戸さんならデュトワさんたちを治せる可能性があると……」


 ならば、今やるべきことは白戸さんと合流することだな。

 神崎さんから居場所を聞き、俺たちは白戸さんに会いに行くことにした。

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