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宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~  作者: パンダプリン


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第238話 モンスターパニック・ルーム

「……」


「どうした? 大地」


 ゲートはあと少しで消えるだろう。

 なので、考えがまとまったとは言い難いが、俺たちは現世界へ戻る必要がある。

 だが、大地はしばらく何かを考える様子を見せた。


「……さっきの戦い。僕と夢子は役に立たなかったね」


「何言ってるんだ。さっきのはたまたま規格外の相手だったから」


「次の相手は魔王だよ。やっぱり規格外じゃないかな?」


「それは……」


 神ほどではないだろうけど、クウは手加減していたと思う。

 本気で俺達を葬る気なら、それこそ時間の行き来や、観月以上の転移で好き放題できただろう。

 あれはあくまでも、王としての力の証明の戦いだからこそ、形ばかりの勝利をつかんだにすぎない。


「でも、紫杏と善、ついでにシェリルはそうじゃない」


「ついで!」


「いい子だから、ちょっとだけ話し聞こうね~」


「はい!」


 紫杏のおかげでシェリルが大人しくなったので、大地は改めて考えを述べた。


「僕たちが足手まといになるより、紫杏や善が自由に戦ったほうが勝率は高い。違う?」


「そんなこと……」


「まあ、あるわよね。大地、なにか考えがあるんでしょ? まさか、ただみんなを見捨てて異世界に残るなんて言わないわよね?」


「うん。心配しすぎかもしれない。だけど、一つだけこっちで気になることがあるんだ。なにもなかったとしたら、もう一度クウをつかまえてでも現世界に帰るよ」


「そうか。なら、そっちのことは任せた」


「……相変わらず内容は聞かないんだねえ」


「大地と夢子だからな。俺が頭をひねるよりもきっと良い方向に進むはずだ」


「せいぜい、期待は裏切らないようにするよ」


 さて、魔力の渦がいよいよ消える。

 だから、大地の考えを聞いている時間はない。

 だけどきっと大丈夫。大地と夢子だぞ。

 この二人のすることに間違いはない。


 こうして、俺たちは二人の友人を異世界に残し、今度こそ現世界へと帰還した。


「もっと力があったらなあ……」


「ぼやかないの。私たちは、私たちだからこそできることをしましょう」


    ◇


「大地に夢子め~! 一緒に戦えばいいじゃないですか! 赤木なんて、ニトテキア相手なら楽勝ですよ!」


「しっ……まだ確信はないんだから」


「うっ……すみません」


 ゲートの先は……ああ、知っている場所で助かった。

 そして、ここなら状況の確認にももってこいだな。

 眼前にそびえる管理局の本部を見て、クウが設置した転移先に感謝する。


 悪いが緊急事態だ。後でいくらでも叱られるから、まずは神崎さんと話したい。

 そう思って管理局内に入ると、内部の様子がこれまでと明確に違う。

 壁や床は傷だらけ、明らかに何者かに荒らされている。


 ……というか、いるな。

 濃厚な魔力、荒れ果てた屋内。まるでダンジョンの雰囲気だ。

 そして、魔力を感知すると魔獣の気配をたしかに感じた。


「く、くるなっ! くそっ!」


 なにかに襲われるような男性の声が聞こえる。

 であれば、考えるより行動だ。

 紫杏とシェリルに目配せし、すぐに声がする方へと向かった。


 男性だけじゃない。避難していた管理局の人たちなのか、男女が固まっていた。

 先ほど声を出していたであろう男性が、今にもナーガに襲われそうだったので、とりあえず殺すことにする。


「お邪魔します! 緊急なので殺します!」


「えっ!? あっ……」


 よし、ちゃんと斬れた。

 現世界でも魔力差によるボケのようなものはなく、これまでどおり戦える。

 微塵切れになったナーガの死骸を見て、俺は満足しながら頷いた。


「じゃあ、俺たちはこれで!」


 とりあえずここは大丈夫。他の場所の魔獣たちは……向こうだな。

 できれば神崎さんを探したいが、まずはこの場にいる魔獣たちを倒してからだ。


「せ、殲滅王……」


    ◇


「シェリルブラスター!」


「ぶ、ブラスター?」


「シェリル一番星です」


 ブラスターって星の仲間ではない。

 きょとんとする管理局員たちを避難させていると、一際大きな魔力を二つ感知した。


「紫杏、シェリル。向こうに大きいのがいる。それで終わりだ」


「大きいといっても、所詮はクウちゃん以下! ならば、敵ではありません!」


 当たり前だ。あんなの出てきたらさすがに無策で突っ込めないぞ。

 魔獣を目指して駆けていくと、そこには部屋を埋め尽くすほどの巨大な花。

 そして、その中央から人間のような上半身が生えている魔獣がいた。


「アルラウネか……にしては、でかいな。魔力も体も」


「花の部分もです!」


「たしかに……花粉とかすごそうだな」


 順当に巨大で強力な魔獣といったところか。

 管理局の人たちが手こずっていたのもわかる。


「ニトテキアの皆様!? 異世界から戻られたのですか!?」


 驚いた声をあげたのは神崎さんだ。

 目当ての人を、ついでに見つけられたのはついているな。


「ちょっと待ってください!」


 相手はアルラウネ。知能はない。異世界では魔族だったけど、こっちでは魔獣というケースだ。

 なら、手っ取り早く火で燃やそう。


「精霊魔法:火、火、火」


 燃やす。まだ足りない。燃やす。もっと燃やす。

 燃やし尽くすこと三回。火種と熱気と魔力はかき回され混ざり合う。

 これらを一気に消費して燃やし尽くすイメージ!


「【赫焉大炎浄】」


 魔法の発現とともに、アルラウネは悲鳴すら燃え尽きて消滅した。

 よし、調子いい。無理だと思ってたスキルも、こうして再現できる。

 というか、習得はしたけど使いこなせなかったスキルは、再現したほうが楽っぽいな。

 俺はできる子だ。精霊たちもそう言ってくれた。


「……い、今のは、火属性の大魔導師の職業スキルでしょうか……」


「四属性は得意っぽいので、なんかできました」


「……な、なんという、いえ! そもそも、どうやってスキルを!?」


「異世界だと使えなかったので、魔力と身体能力で再現したらいけました」


「えぇ……」


 神崎さんが、思わず素を出すほどには呆れてしまった。

 ……もしかして、けっこうすごいことしているのかもしれない?

 いや、大地と夢子もすぐにできていたし、シェリルだって同じだ。


「たぶん、神崎さんならすぐにできると思いますよ」


「無理です」


 得手不得手があるのかもしれないな。


「ともかく、危ない所をありがとうございました。私はこれから管理局に侵入した魔獣を倒し、局員を逃がそうと思います」


「あ、それ終わりました」


「……そう、ですか。重ね重ねありがとうございます」


 よかった。先にすませておいたから、これなら神崎さんとスムーズに話ができる。


「ところで、神崎さんに聞いてほしい話があるんですけど……」


    ◇


「……赤木凛々花」


「当然、証拠とかなにもないんですけど」


「いえ……それなら、いくらか合点がいきます」


 神崎さんは神妙な顔で……いや、わずかに怒気を感じる。

 無理やり、怒りを押し殺している。そんな雰囲気で話を続けた。


「これまでの事件を除いた場合、淫魔の女王の最初の被害者は……デュトワくんなんです」


 あの、デュトワさんが……。


「あの子は、人手が足りず後回しにしていた神隠し事件の調査を買って出てくれました」


 俺の推測では、神隠し事件のしわざは淫魔の女王。つまり、赤木さんだ。

 そして、デュトワさんは、たった一人でその調査をしていた……。


「その後あの子は行方不明となり、ほどなくして帰還しました」


 行方不明になるが、しばらくすると帰還する。

 これも神隠し事件の特徴に合致する。


「帰還してからのあの子はどこかいつもと違う様子で、氷鰐探索隊の仲間たちも心配していました。皆さんそれぞれが任務を請け負っていましたが、手が空いている子は、あの子に付き添ってくれたようです」


 デュトワさんたちのパーティも仲がいいからな。

 それも、俺たちよりもその年月はかなり長い。

 もしかしたら、デュトワさんの変化にも気づいていたのかもしれない。


「そして、決まってあの子がパーティメンバーと二人きりになったときに、神隠し事件が発生しました」


「それって、デュトワさんもですか?」


「いいえ。あの子と一緒にいた仲間だけです」


 つまり、デュトワさんを生餌のようにして、淫魔の女王が次の獲物に手を出した……?


「そうして徐々に氷鰐探索隊が、他の上位パーティが、次々と神隠しに遭い、気づいたときには現世界の戦力は淫魔の女王に奪われつつありました」


 ……まるで、淫魔戦争の序盤と同じだ。

 各国の強者が秘密裏に淫魔の女王に襲われ、不審を抱かれないために隷属させて何食わぬ顔で元の生活を送らせていた。

 そうして、少しずつ少しずつ敵の戦略を削ぎ、自身の戦力を増強させていた。


「淫魔の女王の手口はわかりました……。ですが、赤木さんとはどう関係が?」


 俺が言えることではないが、赤木さんとの関係性が見いだせない。


「デュトワくんに神隠し事件の進展を尋ねたとき、あの子はまだ確証がないため話せないと黙ってしまったのです」


 それは、普通のことじゃないか?

 余計な推測を嫌うというのであれば、確証を得てから話したいという人だっているだろう。


「あの子がそんなことを言ったのは初めてです。いつも、推測であろうと細かな情報まで共有しようとしてくれていました。だから、もしかしたら神隠し事件はあの子の知人ではないかと考えたのです」


 それで、赤木さんも候補に挙がった?

 だけど、言っちゃなんだが、デュトワさんは赤木さんよりも仲がいい人だっていくらでもいるんじゃないか?


「知ってのとおり、氷鰐探索隊は浩一くん以外全滅しました。薫子ちゃんも何者かに襲われて意識が戻っていません」


「厚井さんまで……!」


「あの子がかばいそうな相手は、浩一君と赤木凛々花くらい……ですが、浩一君は神隠し事件の調査をあの子から引き継いでいました。実際に事件が起きたときの目撃証言もいくらでもあります」


「一条さんが、誰かをさらっている様子はない……と」


「ええ、そうなると……怪しいのは赤木凛々花ただ一人なんです」


 まいったな……。

 どうしてこうも、話せば話すほどに赤木さんの疑いが深まってしまうんだ。


「……赤木さんに会いに行こうと思います」


「相手は、恐ろしい魔王かもしれないんですよ?」


「もしも、俺たちの推測が外れているなら謝ります。ですが、当たっているのなら……赤木さんを倒せば、現世界の混乱も治まる」


「なら、せめて私も同行させてください。戦える者はもう少ないので、魔王を倒すとしたら、そこしかチャンスはありませんから」


 倒せるだろうか……。

 思い出すのはコロニースライムとの戦い。

 あのときに、赤木さんの模倣をしたスライムですら恐ろしく強かった。

 それのオリジナルどころか、そこから強化されているであろう魔王と戦う。


 ……いろいろな意味で、俺は推測が外れてほしいと思い、赤木さんの元へと向かった。

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