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宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~  作者: パンダプリン


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第236話 黙示録の目覚めはどっちの世界で

「クウ様」


「クウでいいです。負けましたし」


 神様を呼び捨てか~……まあ、紫杏なんてちゃん付けで呼んでたしな。

 というか、最後のほうではもう敬語も使っていなかったな。ならいいか。


「我慢はよくないと思う」


「我慢……?」


「両親に会いたいんだよな? 別に、好きなだけ会えばいいんじゃないか?」


 なにかを断つことで、願掛けするという話はよく聞く。

 だけど、あそこまで空回りというか、無理することになるくらいなら、逆効果だろう。


「しかし、そんなことでは立派な神様には……」


「神様のことはよくわからないけど、クウの場合下手に我慢するよりそっちのほうがいいんじゃない?」


 たぶん、この子溜め込んだら爆発するタイプだ。

 それならば、我慢なんかしないほうが成果をだすだろう。


「……もう神の座から下りたので、どうせそう簡単には会えませんし」


「ああ、そういうものなのか」


 その辺は俺たちにはよくわからない事情だ。

 だけど、再び神になるとかも大変なんだろうな。


「ええ!? じゃあ、神様の力使えないんですか!? 世界を行き来することも!?」


 あ、そうだ。シェリルの言うとおり、そもそもそれが目的でここにきた。

 神様の力を失っているとなると、俺たちが現世界に帰る方法は、いよいよあのゲートをなんとかする必要がありそうだ。


「いえ……力はあるんです。神の資格がないから、神界に立ち入れないだけで」


「なるほど……神様しか入れないと」


 わりとすごい決意で神様やめているんだな。

 立派な神様になれる日まで、両親と二度と会わないように心を決めてしまったのだろう。


「男神様と女神様って昔はこの森で暮らしていたんだし、昔なら会えたんだろうけどなあ」


「……なるほど、過去に行けばいいんですか」


「え……できるの? とんでもないこと言ってるけど」


「お父様とお母様の娘ですから」


 神様すげえな。常識では計り知れないことを簡単にやってのける。


「なら、会ってきたら? そのほうがたぶんクウの精神上いいと思うんだけど」


「……いいんでしょうか。私はまだなにも成していないというのに」


「子供が親に会いたいってだけだろ。なにもおかしなことはないと思うけど」


「……ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみません」


「消えた……」


 クウは、感謝と謝罪の言葉を最後に、この場からこつぜんと姿を消してしまった。

 もしかして、もう過去に向かったのか?

 あ……どうしよう、ちゃんと両親に会ったら帰ってくるよな?

 そのまま戻ってこなかったら……まあ、それはそれとしてクウが幸せってことだし、良いことなんだろう。


    ◇


「ただいま戻りました」


「はやっ!」


 一息ついたと思ったら、クウが一瞬で帰ってきた。

 そうか、時間を移動しているわけだし、行くのも一瞬なら戻るのも一瞬なのか。


「甘えてきた~?」


「……まあ、その。はい」


 紫杏がにこにこしながら尋ねると、クウは照れくさそうにそう答えた。

 だけど、表情はやはりすっきりしているようだし、男神様と女神様に会うことは間違いではなかったようだな。


「なので、私はさっさと禁域の森の王になります!」


「……なんか、変わってなくない?」


 決意を新たにではなく、決意が変わっていない。

 ふりだしに戻ってしまったともいえる。


「いえ、私は私らしい禁域の森の王を目指します。お母様が私なら大丈夫と言ってくれましたから」


 ……まあ、ふりだしには戻っていないみたいか。

 なら、ここから先は俺たちが口を出すのも無粋だな。


「とりあえず、もう一度この森の者を全員倒します」


「物騒だなあ……」


 口が出た。いいのか、その考え方で。

 いや、全員が戦い大好きらしいし、この森ではそのほうがいいのかもしれないけど。


「忙しくなってきました。全員を楽しく倒してきます」


「……まあ、楽しいならいいよな」


「……ところで、あなたたちも王を目指しているのではないのですか?」


「いや、俺たちは現世界に帰れなくなったから、クウの力ならなんとかならないかなとお願いにきて」


 だけど、これから忙しくなるみたいだし、お願いを聞いてもらうのは難しそうだな。


「いいですよ。どうぞ」


 そう言った瞬間には、すでに観月が使っていたような大きな魔力の渦ができていた。


「速っ!」


 というか軽っ!

 そりゃあそうか。時間の行き来すらあんなに軽々とこなしたもんな。

 クウにとっては現世界と異世界をつなぐなんて造作もないことなんだ。

 神様の力やばすぎる……。戦闘中に使ってこなくて本当によかった。


「とりあえず、一時間ほど開けておきます。それと、あなたたち以外の者が通れないようにもしておきましょう」


「なんか、なにからなにまでごめん」


「まあ……ご迷惑をおかけしましたので。それではお気をつけて」


 そう言ってそっぽを向くと、クウは森の中へと去ってしまった。

 無理して戦っていたり、両親に甘えたりと、あとになって思い返して照れくさくなったのかもしれない。


    ◇


「しかし、紫杏が聖女の力を受け継いでいるとはなあ……」


「淫魔で聖女な紫杏ちゃんです」


 相反した属性を早くも乗りこなそうとしている。

 くそ~、俺の彼女が今日もかわいい。


「さすがはお姉様! 聖と魔で最強です!」


「よく考えれば、結界なんて使える時点でそれを疑ってもよかったかもね」


 本当にそのとおりだ。

 でも、なるべく考えないようにしていたからな……。

 魔力消失事件の犯人の可能性なので、無意識に拒絶していたのかもしれない。


「あれ、端末が……」


 そんな思考を中断させるように、久方ぶりに端末から通信が届く。

 そういえば、現世界と連絡できないから、危うく存在を忘れかけていた。


「一条さん……?」


「ああ、そうか。これだけ強力なゲートの変わりだからね。現世界と異世界の魔力や電波くらいは行き来して、通信がつながっているんだと思うよ」


 なるほど。それで急に連絡ができるようになったのか。

 一条さんのことだから、こちらの様子を心配してくれているのかもしれないな。


「お久しぶりです。一条さん」


 端末を操作して、一条さんとの通信をつなぐ。

 すると、なにやらただならぬ様子で、焦った声とともに話しかけてきた。


『烏丸さん! 今どこにいますか!?』


「今はまだ異世界で、そっちの様子が気になったので帰ろうとしているところです」


『そちらに避難していてください!』


 避難って……やっぱり現世界でなにかあったってことだよな。


『現世界は、淫魔の女王に滅亡させられかけています!』


「え……」


『スキルは使えなくなり、ダンジョンの魔獣たちが人々を襲い、孤立した者は淫魔の女王に精気を吸われて隷属させれれています!』


 なんだその状況は……。


『氷鰐探索隊も私以外全滅しました! それに、上位の探索者たちも次々と……』


「ま、まさか……デュトワさんたちが死んだということですか!?」


『いえ……ある意味では、そちらのほうがましだったかもしれません。淫魔の女王の傀儡になるよりは』


 それは……思っていたよりも最悪のケースだ。


『とにかく! そちらはまだ安全なようなので、こちらにきてはいけません!』


「……どうにかできる算段はあるんですか?」


『残念ながら……なんせ、淫魔の女王を目撃した者はいないので……』


「それじゃあ、どうして淫魔の女王のしわざだとわかったんですか?」


『淫魔の女王は、あまりにも膨大な魔力を溜めていました……。その魔力の一部で、現世界中の者に一方的に語ってきたのです。これから現世界を餌場にすると』


 なんてやつだ……。紫杏なんて、俺一人しか食べないで我慢しているというのに。


『そして、自分は現世界に紛れているとも言っていました……。そのせいで、現世界の者たちは隣人さえ疑わなければならず、協力して戦うどころか、現世界の者同士で争っています』


 なんて、性格の悪い……。

 いや、ゾーイさんに聞いた淫魔の女王ならそれくらいやる。

 なんせ、世界が混乱すればするほど、自分が恐れられるほど強くなるんだから。

 どこまでも効率よく、自分の力を高めているということなんだろう……。


『ダンジョンを管理していたんだから、お前らは淫魔の女王の手先なんだろう!!』


 突然、端末から知らない大勢の声が聞こえた。


「一条さん!? 一条さん!」


『大丈夫です。私は一旦身を隠します。どうか無理をしないように……』


 そしてほどなくして、端末からの通信は途絶えてしまった。

 ……現世界は想像以上に混乱しているらしい。

 俺たちだけでも、安全な場所にいてほしい……か。

 なんとも一条さんらしい、終始俺たちを思っての発言だ。


「……だけど、こればかりはわかりましたとは言えないよな」


「……助けにいきましょう!」


 不安そうな顔をしながら、シェリルは力強くそう言った。

 とんでもないことになっている。だけど、俺たちだって現世界に住む者として、知らん顔なんてできるはずがない。


    ◆


「なんで! なんでスキルが使えないんだよ!」


「ユニークスキルも……職業スキルまで……」


「魔獣とどうやって戦えばいいんだ!」


「なんで、ダンジョンでもないのに魔獣がいるの!?」


 まず最初に、戦う手段を奪われました。

 次いで、情報の伝達手段を奪われました。

 我々は無力化され、分断され、それを一斉に駆除するように、魔獣たちが街中を徘徊する。


 もしもの時の帰還手段などなく。安全な場所さえもなく。

 私たちがこれまで行っていたダンジョン探索は、魔王にとっての遊びにすぎなかったのかもしれません。

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