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宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~  作者: パンダプリン


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第235話 ご先祖様パワー レベル100

 だめ。それはだめ。

 善が私の前でやられてしまう。

 そんなの許さない。


 そんな思考で埋め尽くされそうになる。

 そのくせ、体が動くのだけは、やけに遅くてまどろっこしい。


 結界を……。軽々と壊されてしまうあの結界を?

 そんなもの、何の役にも……。


 十分だと思っていた。正直調子に乗っていたのかもしれない。

 私なら、善も夢子も大地もシェリルも守れると。

 だけど、目の前の神様の子にはまったく太刀打ちできない。


 なら、せめて守ることくらいは……。

 ああもう! なにが先祖返りの力なんだか!

 私のご先祖様がサキュバスで、そのおかげで他の人より強いっていうのなら、あの神様の魔力全部吸い取るくらいの力をちょうだいよ!


「それは、無理ですね~」


 頭の中にまったく知らない誰かの声が届いた。

 なんか、ちょっと美希ちゃんを思い出す。

 若干アホの子……いや、天然というか。雰囲気がほわほわしてる。

 そんな美希ちゃんを彷彿させるような声が、私の頭の中に届いた。


「いや、そんなことより善を!」


「善くんなら大丈夫ですよ。落ち着いて周りを見てください。はい、深呼吸」


 ……なにここ!?

 周りは暖かい色の雲のようなものばかり、私の知っている空の色じゃない。

 どことなく天国を連想するような、そんな不思議な場所に私はいた。


「……え、なにここ?」


「ちょっとお話のために作ってみました。どうです? 神様っぽいですよね。神様なんです。私」


 ええ……。なんか全然威厳がない。

 声がする方を見ると、だんだんと声の主の輪郭が見えてきた。

 私と同じくらいの背丈の……たぶん、女の子?


「ええと、善がピンチだから帰してください」


「大丈夫です。この場所の時間の経過は向こうと別ですから。元の場所に戻れば、さっきの時間からやり直せますよ」


 なら、ここで時間を取られても大丈夫なんだろうけど……。

 ここでのんびりおしゃべりしている理由もないし、善のことを助けないと。


「というか、なんで急にこんなことに……」


「え? さっき言ったじゃないですか。言った? 思った? まあ、どちらでもいいですけど。先祖返りの力で、もっと強くなりたいって」


 そりゃあ、そう考えたけど……。

 神様にまで祈った覚えはないんですけど……。


「なので、あなたのご先祖様が肩入れしにきました!」


「ご先祖様って……」


 目の前には自称神様だけで、他には誰もいない。

 肝心のサキュバスはどこ?

 そう考えていると、輪郭はようやく形が定まったらしく、神様の姿が私にも見えるようになった。


「……アリシア様?」


「はい! あなたのお婆ちゃんのお婆ちゃんのお婆ちゃんの、もっともっと先のご先祖様。アリシアです!」


 ……話が違くない?


「私のご先祖様って、サキュバスですよね?」


「え? そんな事実はありませんよ。紫杏ちゃんの家系に、サキュバスの血は混ざっていません」


「で、でも! ユニークスキルでサキュバスになっちゃったんですけど!」


「善くんのこと好きだったからですねえ。わかります。わかりますよ。かく言う私も、秋人様のことしぼりとりたかったですし!」


 うん……。なんか、伝承のアリシア様っぽい言動だね。

 見た目もそうだし、なによりこの力を見るに神様なのは疑いようもない。

 私本当にアリシア様と話しているんだ。


「えっと……じゃあ、私に向いてるから、サキュバスになるスキルだったと」


「う~ん……まあ、そうなりますね。神様として平等じゃないといけないので、それについては話したら怒られちゃうんです。ですが、あなたたちなら大丈夫です」


 まあ、たしかにすでに問題は解決したけど……。

 あれ? じゃあ、私が今まで使っていたスキルって、無意識に誰かから奪ったものじゃないってこと?


「あの……朝起きたら、結界と回復魔法が使えるようになっていたのは」


「ご先祖様の力です! 久しぶりにここまで才能のある子孫が現れて、私も鼻高々ですよ。紫杏ちゃんなら、聖女になれますね」


 聖女は別に望んでいないからいいけどね……。

 そっか……。私のこれ、誰かから奪った嫌な力じゃなかったんだ……。


「でも、負い目があるからか、その力を使いこなすの嫌がっていましたよね?」


「そんなことまでわかるんですか……」


「ご先祖様ですから! 大丈夫ですよ。あなたの力はあなたのものです。本気で使えば、クウちゃんの攻撃にだって耐えられます」


 ああ、そっか。この人もクウ様のこと知っているんだよね。

 女神ソラ様と女神アリシア様。仲がいい女神様で、アリシア様にとってはクウ様も娘みたいなものだから、心配しているのかもしれない。

 アルドルさんのように。


「クウちゃん、ちょっと変な方向にがんばろうとしています。だから、無理はしなくていいんですよと伝えてあげてください」


「それは、いいんですけど……話を聞いてくれるかどうか」


「大丈夫です。なんせ、私の子孫ですから! アリシアバリアを使えば、ほぼ無敵です」


 ……なんか、言動がシェリルっぽい。

 大丈夫だよね? 間違えたとかじゃなくて、本当に私のご先祖様なんだよね?

 実は、シェリルのご先祖様だったとかじゃないよね?


「あなたには、ちゃんと善くんを守る力がありますよ。だから、大丈夫です」


「……ありがとうございます。もう少しがんばってみます」


「ええ。ちなみに、ご先祖様がサキュバスじゃなくても、定期的に善くんを押し倒していいですよ。私も、秋人様をそれで篭絡しました」


 あ、この人私のご先祖様だ。

 その考えにはとっても共感できる。


 手違いじゃなくてよかったと一安心すると、私の頭の中からアリシア様の存在は消えていた。

 そして、目の前では先ほどと寸分変わらない光景が広がっている。


「大丈夫です。神様は簡単に力を貸すわけにはいきませんけど、そこまで薄情な存在でもありません。だから、強く願えば自分が望んだ力を一つだけ手に入れられるようになっているんです。……もっとも、それを悪用する悪い子が出てくるのは予想外でしたけど」


 最後にもう一度、私たちを励ますご先祖様の声が聞こえた。

 だから、私はご先祖様お墨付きの結界を全力で使うことにした。


    ◇


「おばさまの……結界……」


 紫杏の結界が、クウ様の攻撃を完全に防ぎきっている。

 これまでの結界も十分強力だったはずなのだが、この結界を前にするとあれらが頼りないとさえ錯覚してしまう。

 それほどまでに、今の紫杏の結界は強固なものだった。


「ごめん。ちょっといろいろあった」


「そうか。よくわからないけど助かった。ありがとう」


「いいってことさ」


 ……なんか。強くなってない?


「お、お姉様がハイパー最強モードに!」


 シェリルが声を震わせてそう叫んだ。

 彼女にもわかるのだろう。今の紫杏がこれまで以上に強くなっているということが。


「な、なぜ……おばさまの力があなたに……」


「なんか、私のご先祖様がアリシア様だった。先祖返りの力って、サキュバスじゃなかったみたい」


「え、まじ……」


「うん、まじ。なんかだいぶおかしなぶっ飛んだ人だった」


「お前……自分のご先祖様で女神様だぞ」


 というか、サキュバスじゃなかったって……。

 前に先祖返りでサキュバスの力がと……は言ってないな。

 先祖返りで強くなっているとは言っていたが、サキュバスがどうとかは言っていなかった。

 もしかして、なにか勘違いしていたか?


「それじゃあ、結界と回復ってご先祖様から引き継いだ力ってことか?」


「なんかそうみたい。いや~、勘違いでご迷惑をおかけして……」


 恥ずかしそうに頭をかきながら答えられた。

 そっか……それなら、やっぱり現世界の事件の犯人は紫杏じゃない可能性が高いじゃないか!


「っと!」


 クウ様がよろよろと近づきながら攻撃をしてくる。

 しかし、紫杏の結界はびくともせずに、あのクウ様の攻撃さえもしのいだ。


「関係……ありません。おじさまに邪魔されようが、おばさまに邪魔されようが、私は立派な娘であると証明を……」


「ご先祖様。クウちゃんに無理はしないでと言っていたよ」


「アルドルさんだって、心配していたぞ」


 その言葉に、クウ様は耳をぴくっと動かして止まってしまった。

 だけど、首をぶんぶんと左右にふって、なおも紫杏の結界に攻撃を続ける。


「ごめんねクウちゃん。決着をつけないと先に進めないのなら、ちょっと痛いよ」


「……あ~あ。どこで間違えたのでしょう」


 拳を握る紫杏を見て、クウ様は諦めたかのようにそう言った。

 紫杏が拳を振りぬくと、クウ様は避けることもせずにそれを受け入れる。

 魔力を弱めて、可能な限りその攻撃で決着がつくようにと、まるで向こうも協力しているかのように見えた。


 そうして倒したクウ様の表情は、どこかすっきりしたような表情だった。

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