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宵越しのレベルは持たない ~サキュバスになった彼女にレベルを吸われ続けるので、今日もダンジョンでレベルを上げる~  作者: パンダプリン


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第232話 雪解けに壊れた天秤を

「近づいていくほどに圧力が増していく気がするー……」


「大丈夫か? 休むか、場合によっては引き返しても」


「ううん、だいじょうぶー」


 紫杏が若干まいってしまっている。

 俺たちにはかからないが、紫杏だけは警戒対象なのか、クウ様らしき存在からの魔力で威圧されているようだ。

 裏を返せば、紫杏であれば、クウ様でさえも警戒しないといけないと考えられる。


「見つけたー!」


「げっ、またハーピーかよ!」


 森の中を進むにつれて、魔獣たちよりも森の住人たちに遭遇する機会が増えていった。

 問題はオーガが言ったとおり、全員が全員好戦的なのだ。


 ハーピーたちは群れで連携してこちらに襲いかかってくる。

 その素早さや攻撃力自体は、あのオーガ一人と比較して脅威たりえない。

 しかし、やはり空中からの攻撃というのがどうにもやりにくい。


「やっぱり、飛べるってそれだけで厄介だね!」


 こちらの攻撃を当てようにも、空中に逃げられてしまう。

 魔法や斬撃を飛ばしたところで、距離が離れているから相手は余裕をもって回避してしまう。

 面倒だから逃げたのだが、結局空から探されては追い付かれてということの繰り返しなのだ。


「天地の法が使えたらなあ!」


 現世界でダンジョンに潜っていた時なら、飛んでいる相手は重力を強めて地面に落とせたのだけど……。

 魔力で再現するイメージがつかめないので、異世界ではあの便利なスキルも使用できない。


「しょうがない。せめて風属性の魔法で飛行の邪魔をするか!」


 走りながらも魔力を操作し、乱気流のようなものを引き起こすイメージで魔法を構築する。

 さすがに、ハーピーたちをそれで墜落させることは無理だろう。

 だけど、せめて飛びにくくなって、こちらの追跡の手を緩めらせることができれば、逃亡がしやすくなるはずだ。


「よしっ、できた! これ撃ったら全速力で逃げよう!」


「な、なんかすごいことになってない?」


「魔力使いすぎてない!? 大丈夫なの?」


 夢子と大地が心配そうに言うが、別にそんなに魔力は使ったつもりはない。

 でも、よく考えるとなんかいつも以上の魔法が構築できたな。

 まあいいや。今はあのハーピーたちの群れに向かって、投げる!


「な、なにこの魔法! あいつやばい! 逃げよう!」


「落ちちゃう! 落ちちゃう!」


「さすが先生! 鳥め~! ざまあみやがれです!」


 なんか思ったよりもすごい威力と範囲になった。

 せいぜい飛びにくくさせるための魔法かと思ったんだけど、ハーピーたちは落ちないよう必死に飛んで逃げていってしまった。


「なんかすごかったね~」


「ネ~」


「なんだろう。いつもより、楽に魔法を作れた気がする」


 この森が他よりも魔力が満ちた場所だからか?

 だとすれば、大地や夢子も同じような状況なのかもしれない。


「なあ、大地と夢子もふだんより魔法を使いやすいか?」


「いや、僕たちは普段通りだけど。そんなことより善……」


「ソノ二人ハ、魔法ジャナイカラ違ウト思ウヨ~。ゼンハ魔法ダカラ、周リノ魔力ガ関係スルンダネ~」


 フウカじゃん。なんかいつの間にか風の精霊がいた。

 でも、精霊たちは世界と世界を自由に行き来しているしな。別段こちらで会ってもおかしくない。

 というか、本来はこっちに住んでいたし、禁域の森には男神様がいたころよく遊びに行っていたらしいからな。


「久しぶりだな。フウカ」


「ウン。久シブリ~」


 待てよ。現世界と異世界を行き来できるなら、フウカならなんとかして俺たちを帰還させられないかな。

 無理だったとしても、現世界の様子を聞くことができるかもしれない。


「フウカって、俺たちを現世界に帰すことはできないか?」


「エ~、無理~。精霊ニナレタラ大丈夫ダケドネ~」


 まあそうだよな。精霊たちって、風や火を媒介に移動してるらしいし。

 生身の人間がそれを真似することは無理ってことだろう。


「じゃあ、現世界の様子を教えてほしいんだけど。なんか、最近向こうで変わったことってなかったか?」


「最近? 私、ズットコッチニイタカラワカラナイナ~。ゴメンネ」


 残念ながら、ちょうど現世界にはいない時期だったか。

 なら、やっぱり現世界に帰って直接情報を調べるしかない。


「ソレヨリ、サッキノ魔法スゴカッタネ~。私タチノ魔法ニチョット似テタヨ?」


「え、精霊魔法に? まあ、現世界の精霊魔法のスキルをイメージしているから、それもそうか?」


「ウン。ソレニ、前ト違ッテ魔力ノ量モ多イシ。今ノゼンナラ色ンナ魔法ガデキルンジャナイカナ~」


 へえ。やっぱり魔獣の肉を食べているからか、異世界の魔力に馴染んだからか、俺の魔力って上がっているんだ。

 だから、ふだんよりも魔法の扱いが楽だったんだな。

 こっちでも、わりと剣が主体の戦い方をしていたから、あまり実感がなかった。


「それって……もしかして、紫杏が善の魔力を吸わなくてもすむようになったからかな?」


「……あ、たしかにそうかも」


 そうか。それでいつもより魔力が多いような気がしていたのか。


「ヨクワカンナイケド、アッチノ世界デ使ッテタ魔法ナラ、全部使エルンジャナイノ?」


 いや、さすがに……天地の法とか無理だったしなあ。


「重力強化とかは無理だし、あくまで精霊魔法だけだよな」


「エ~? チーチャンナラ、ソウイウノデキタ気ガスルンダケド~」


 まじか。もしかして、ああいうスキルは使えないとか、俺は魔法より剣術のが得意って固定観念にとらわれすぎていたか?

 そう聞いたら、ちょっと試してみたくなる。


「チーチャンニ聞イテミヨウヨ~。チーチャ~ン!」


「天地の法」


「呼ンダ……? プギュウッ」


 あ……。やばい。

 やはり思い込みがよくなかったのだろう。

 魔力で土というか大地の力を強めるイメージをすると、思っていたより簡単に天地の法を再現できた。

 できたのはいいのだが……フウカが親切で呼んでくれたチサトが地面に埋まってしまった……。


「ご、ごめん! すぐに掘り返す!」


「イイ魔法ダッタ。アトイイ土ダッタ」


「うわっ!」


 地面から土が隆起したと思うと、すぐに少女の形へと変化してチサトになった。

 チサトは俺に攻撃されたことなどまったく気にしておらず、俺の魔法と自身が埋まった土の評価を口にする。

 攻撃しておいてなんだが、相変わらずマイペースだなこの精霊。


「トコロデ、何ノ用?」


「エ~トネ……解決シタッポイヨ~」


「ソウ、ヨカッタ」


 無駄足になったことを悪びれないフウカと、気にも留めていないチサト。

 いかにも精霊っぽい尺度の会話だ。俺たちとは別種族なんだと、つくづく考えさせられる。


「ゼンノ魔力多クナッタ……」


「ネ~。ヤッパリ魔法ガ得意ダヨネ~」


「ウン。アッチノ世界デハ会ウタビニ魔力ガ減ッテルカラ、ナンカオカシイトハ思ッテタケド、今ハ平気ミタイ」


 ああやっぱり。紫杏の問題が解決したことで、俺も強くなれる環境が整ったのか。

 紫杏は飢餓に悩むことはない。俺はさらに強くなれる。なんとも、良いことづくめだ。


「う~……ごめんね。私がいなければ、もっと早く強くなれたのに」


「紫杏がいなかったら、そもそも強くなる理由ないからなあ」


「ええ……ああ、うん。そうだね。私も善がいないと生きてる意味ないし」


「だよなあ」


 なので、今までのことはすべて最善の行動であることはたしかだ。

 その結果強くなれたのなら問題ないだろう。


「……ゼンハモット魔法デ戦エルカラ、変ニ自分ノ限界ヲ決メナイホウガイイ」


「そうか。そうだな。ちょっと考えが偏ってたかもしれないし気を付ける。ありがとな、チサト。フウカも」


「ウン……」


「ガンバッテネ~」


 精霊たちはもう用が済んだのか、手を振って俺たちを見送ってくれた。

 魔法か~。そういや、魔法を使いこなせれば、スキルだって再現できそうなもの多いからな。

 もうちょっと、広い視野で戦うことを心がけてみるか。

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