第22話 じわじわとなぶり殺す似た者カップル
「おはよう、今日はずいぶん疲れてるね」
「サキュバスに襲われた……」
「仲が良いみたいでよかったよ」
異世界にしかいない魔族との激戦を生き延びたのに、友人がつめたい……。
「でも、毎晩欠かさずにしてるわよね」
「まあ……そうしないと紫杏が倒れそうだし」
「代わりに善が倒れるんじゃない?」
「ええ!? 嫌だ!」
ニコニコと俺に抱きついてた紫杏が、突如子どものように叫ぶ。
「わ、わかったよ。すごく、すご~く残念だけど、今日は我慢する」
「いや、だめだ。今日も精気は吸わせる」
俺からしか吸っていないから、一日吸わなかったら飢餓状態になるだろう。
そこで困るのは無意識に周りの人間を襲わないかということだ。
ただでさえ、サキュバスによる事件の噂が流れているのに、そこで紫杏が人を襲ってしまったら、これまでの事件のすべてが紫杏のせいにされかねない。
「わ、私とそんなにしたいんだね!」
「善も年頃の男ってことでしょ……うちのと違って」
「善のせいで、僕に変な流れ弾が飛んできたんだけど」
「いや、そもそも俺に不当な印象を抱かれそうになってる」
「善がそんなにしたいなら、今晩もサキュバスの力見せてあげようじゃない!」
「倒れそうだから加減して?」
周りに聞かれないように、サキュバス関連の言葉だけ小声にしてるけど、人に聞かれたら恥ずかしいことも小声にしてほしいなあ……。
無理なんだろうなあ、紫杏にとっては恥ずかしいことじゃなさそうだし。
「そういえば、前に言ってた話そろそろ試してみる?」
「前に言ってた話?」
「ほら、僕たちでパーティを組んでダンジョンに挑むって話」
「ああ、それのことか。それじゃあ、今日試してみるか?」
二人がダンジョンに慣れるまでは組むことはないと思っていた。
それだけ慎重派だからな、大地も夢子も。
「でも、いいのか? もっとスキルに慣れてからって言われると思っていたけど」
「話を聞いていたら、どうも僕たちの常識では測れないみたいだからね。いつか組むのであれば早めに二人がどんな感じなのか見ておきたいんだ」
たしかになあ……。
俺は毎回レベル1になるし、職業スキルでそれを補おうとゴリ押してる。
紫杏はほとんど戦わないけど、なんなら俺より強くなりつつある。
現時点で【初級】ダンジョンをクリアするって早々ないことだと、受付のお姉さんも言ってたからな。
「善と紫杏に寄生するみたいで嫌だけど、ちゃんとお礼はするから」
「え~? いらないよ。私と夢子の仲じゃない」
「そうそう、どうせ俺はすぐに頭打ちになるんだから、その時には立場が逆転しそうだからな」
こんなものをいちいち貸し借りと思われるほど、俺たちは他人行儀ではないはずだ。
「これ」
「な~に、これ?」
夢子が小瓶を取り出した。
化粧品……ではないな。ダンジョンで獲得したアイテムか?
「回復薬なんだけど、精力剤の効果があるらしいわよ。あんたたちには必要でしょ」
「ありがとう夢子! 持つべきものは親友だね!」
「あ~、うん。お礼だっていうのなら受け取らないほうが失礼だもんな」
「あんたたち、たまにそっくりよね」
さっきまでいらないと言っていたお礼をあっさり受け取ろうとする俺たちは、夢子にとって想像通りの反応だったらしく笑われてしまった。
しょうがないじゃん! 毎朝疲れ果ててるんだから。俺低血圧じゃないのに!
◇
大地と夢子を連れて今日もコボルトダンジョンへと挑むことにした。
ゴブリンのほうが戦いやすいけど、戦いやすすぎるというか楽なんだ。あいつら相手だと。
なので、ゴブリンよりは多少厄介な相手として、コボルトたちはちょうどいい。
互いの戦い方を知るということであれば、楽に処理しすぎるのも困りものだからな。
「こんにちは~」
「こんにちは烏丸さん、北原さん、そちらは仲間の方ですか?」
「はじめまして、木村です」
「細川です」
というわけで、今日も受付さんに挨拶をして四人でダンジョンへと進んでいく。
いつも紫杏と二人だけだったので、こうして四人で挑むとちゃんとしたパーティみたいでわくわくしてきた。
「なんか楽しそうだね」
「そうなの? さすがに、私にはそこまではわからないわ」
大地には見透かされているみたいで少し恥ずかしい。
というか、こいつこそ見た目は小学生くらいなのに落ち着きすぎなんだよ。
「なんか失礼なこと考えてるね」
「なんでわかるのよ……」
俺、表情が顔に出やすいのかなあ。
いや、夢子はわかってないから、大地がおかしいだけだな。
「善~。コボルトくるよ~」
鼻をひくつかせながら紫杏が教えてくれた。
え、匂いでわかるようになったの? こいつ、いよいよ獣じみてきたな。
「すごいね紫杏は。それじゃあ、まず僕が相手してみるよ」
「軽い怪我なら治せるからがんばって~」
「できれば、怪我しない方面の応援してくれないかな」
苦笑しつつも、大地はコボルトをしっかりと見据えて構えた。
コボルトは相変わらず機敏な動きで、まずは大地の死角を目指して動く。
「ずいぶんすばしっこいね」
大地はそんなコボルトの攻撃を時には避け、時には逸らし、とにかく防御に専念している。
さすがに初めて戦う相手だからか、なかなか攻勢に転じることができないんだろう。
と思っていたら、大地の体から毒々しい紫と黒が混ざったような魔力がぼんやりと見えた。
「でも、これくらいなら一人でも問題ないね」
すれ違いざまに、コボルトが大地の魔力に触れると、みるみるうちに顔色が悪くなり、動きも鈍くなっていく。
そして、ついには吐血しながらその場に倒れてしまった。
「獣系の魔獣でよかったよ。毒も効きやすいし、効果もすぐに出るからね」
血を吐き続けるコボルトにとどめを刺しているが、怖っ……こいつのスキル怖くない?
「大丈夫だよ。魔獣以外には加減するから」
「そこは、使わないって言ってほしかったなあ……」
「そんなことしたら、僕はスキルなしで戦うってことじゃん。嫌だよ、そんな無意味なハンデ」
というか、対人を想定するのはまだ早いんじゃないか?
「う~ん、さすがは大地ね。全然無駄がなかった」
「次は夢子がやってみたら?」
「動きがかなり速いみたいだから、大地みたいな戦い方がよさそうね」
夢子は夢子で、彼氏のえげつない戦法に引くどころか参考にしようとしている。
なんとも頼もしい二人だ。
そして、そんな容赦のない二人に哀れな犠牲者は自ら迫っていった。
「夢子~。コボルトきたよ~」
「はいよ~。それじゃあ、まずはこうして」
夢子が指を向けると飛びかかってきたコボルトの足に小さな火が当たった。
当然、コボルトは小さな火には怯むこともなく夢子に襲いかかるが、夢子は大地のように回避に専念する。
攻撃が外れて距離が空いたためか、コボルトは一度自分についた火を消そうと足で火を踏みつぶす。
だが……ほんの小さな火だというのに、それは何度踏みつけてもこすりつけても消えることはなかった。
夢子のほうを見ると、手のひらをかざして魔力を練っている?
もしかして、あの火をずっと持続させているのだろうか?
コボルトは、諦めたように夢子に襲いかかろうとするが、徐々に火は足元から膝へ、下半身へと燃え広がっていく。
さすがにこれでは攻撃どころではない。
コボルトは地面を転がるようにして火を消そうとするが、夢子が魔力でなにかしているせいで、まったく火は消えなかった。
「獣系の魔獣は燃えやすくていいわね~」
それが、コボルトを焼死させた夢子の感想らしい。
「……お前ら、戦い方怖いんだけど」
俺と紫杏のことそっくりって言ってたけど、お前らも大概だぞ。
そう思わずにはいられなかった。
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