終わらない人生
結婚した後も仕事は続けていた私は、一日の業務を終えて道具を片付けた。
「エルゼちゃん、フランクとうまくやってる?」
ソフィアに声をかけられ、私は返事をする。
「うん、今にところ特に大きな問題はないです。普段は全然良い人ですから。」
するとソフィアは少し気まずそうに話を続ける。
「ところで、あの・・・夜、寝たりとかは?」
「あー・・・うん。ソフィアさんが色々言ってた理由が全部わかりました。」
フランクの趣味はマ・・・変態な豚さんではない。好きなのは普通の女の子。
彼は面倒くさいことに、相手が嫌がって無いとダメらしい。
相手は結構大真面目に演技しないと、彼は満足できない・・・最早こういう病気なのである。
「怪我もしないし、相手の承認も得てるけど、演技指導が多すぎて何かの撮影でもしてるのかって感じなんです。」
「やっぱりかあ。そこまで演技してくれる変・・・良い人が見つかんなくて困ってたから、ブラウンさんもすごい感謝してるよ。」
わかってはいたけど変態扱いされてる。魔女だってバレるよりはいいけど、いらぬ誤解を受けている。
それから更に月日が流れ、私とフランクが50代の中年夫婦になった頃、第一子の長女、第二子の長男は20代になっていた。
私みたいな前例があるからどうなるかと思ったけど、子供は魔法使いじゃなくて良かった。
だが問題はそれだけではない。不思議なことに私の見た目の年齢が全く進まない。若見えとかそのレベルの話ではない。
ここに来た18歳の外見から少しも変わっていないのだ。
ブラウン夫妻亡き後、彼らの資産や事業を受け継いだフランクは、年をとらない私を気にしていた。
「エルゼ、魔女というのは老けないのかい?」
魔女であることが関係していると思うのも無理はない。だけど全く関係ない。親はちゃんと老けていったので私固有のもの。
「わかんない。私の母親はちゃんと老けてた。」
「万が一のことだけど、君がこのまま何十年も行き続けた時のことを考えた方がいいかも。」
「そんなことあるかなあ・・・」
この国が奴隷フル活用で経済を回してた時の平均寿命は50歳後半。
内戦の末、政権交代が行われて失業者や元奴隷への就業支援が実施されたが、支援金が明らかに少なかったりして問題は山積み。
更に、既に購入された奴隷に関して全く触れていないことが咎められ、政府も経済も不安定であった。
余談だが、奴隷は賃貸が普通で、ソフィアのような家事ができて同じ言語が話せる若い人は簡単に借りれるような金額ではない。
奴隷は名の知れた金持ちが高級車感覚で購入し、最期までできるだけ長く使い続けるか、売るときに高価になるよう大事に扱われる。なので、購入された奴隷の中で生活に苦労している者はいないという噂もある。
「僕のお父さんお母さんも60ぐらいで亡くなったし、僕も先は長くない。同じ寿命だったら良いけど、可能性としてあり得るなら考えておこう。」
実際、彼は肺の病気で65歳で亡くなった。彼の遺言より資産、事業は長男に引き継がれた。
更に約30年後、長男からその息子へ。
その更に何十年後かに息子の息子へ。
そうして今いるのが私の息子の息子の息子の息子の・・・よく覚えてないや。今の私の年齢が200ぐらいだから、逆算してひ孫の孫ぐらいかな。
時代は進み、今は「全世界平等社会」が流行っているらしい。
具体的には女の子が会社で働いたり、障がいを持った人が生活できるように支援したりする。私は何時間も外で働きたくないけどなあ。満員電車とか絶対乗りたくない。
そんな話はさておき、私はフランクの懸念していた通り200年近く生きている。孫の訃報が何年前だったかなんて覚えてない。
どうやって私の寿命を誤魔化したのかというと、私は内戦の混乱に乗じて、私自身を亡くなったことにした。
内戦中は一般市民の安否などが粗雑で、私は反政府軍の攻撃に巻き込まれ死亡、遺体はほとんど確認できなかったとされているらしい。
遺体確認できないのなら行方不明では?
・・・それはそう。だけど色々混乱していたので通ってしまった。
こんな国が今も残っているのは、国際社会の注目がこの国に全く向けられていないからだと思う。
テレビでニュースを見ると、毎日のようにどこかの国が陥落、降伏したという報道がされている。
国際社会の注目は今や、連戦連勝を重ね急激に拡大している「ヤハレル連邦」だった。
ヤハレル連邦が帝国だった頃、国土はあまり広くないが、当時の先端技術に関する技術力は高い部類で、一般には先進国として知られていた。
そのヤハレル帝国はある日突然、隣の国家に宣戦布告した。
宣戦布告した当日、世論はヤハレルに勝機は全く無いとされていたが、覆されるまでの時間はわずか2日。反撃もできぬまま陥落しヤハレル帝国の一部になる。
陥落のニュースで世間がざわつく間もなく、ヤハレルは隣国に宣戦布告し、1週間も経たず降伏、陥落させていった。
ヤハレル帝国は10ヶ国目を降伏させたところで、ヤハレル連邦となった。
この後もヤハレル連邦の進撃は止まらず、その戦火はこの国、ゼブスカまで迫ろうとしていた。
「エルゼさん、例の話聞いてますか?」
私に話しかけて来たのは、今の資産の持ち主の息子。持ち主も息子も私の子孫にあたる。
でも、子孫とはいえ私が既に人の3倍近くの年数を生きている化け物なので、あまり親しくはない。
私みたいなのがこの家に居ることが使用人とかに知られたら大事になる。だから私は仕事もせず、部屋でテレビを見ているだけの居候だ。
「政府からの要請で家を一時的な避難所にさせてほしいと連絡が入ったんです。」
ヤハレルが2つ隣の国まで来てるのは聞いている。この周辺で一番大きい建物はこの家で、車が走り回れる庭があるので都合がいいのはよく分かる。
「明日には軍が来るので、それだけ知っておいてください。」
翌日、軍隊が家に到着した。もちろん軍人にも私の詳しいことは教えていない。
そのわずか2日後、ヤハレルは隣2つを降伏させてゼブスカに攻撃を開始した。
国境付近に住む人々は家に続々と集まり、軍は国境にあるシエル川に向かった。
国境にあるシエル川は流れが速いので、ボートでの横断は困難。陸上から行き来するには橋を渡らなくてはならない。
ヤハレルはこの川を渡るルートで侵攻。最前線となるシエル川の防衛には13ヶ国が参加した。
数だけ見ればこちらの圧勝。ヤハレルは愚直にも橋を渡って来るので負けようがないと思われた。
なお、これはゼブスカが降伏する一週間前のことである。




