封じられた記憶
私の名前はエルゼ。都市部から少し離れた田舎でパパとママで暮らしている。ただ、パパとママはちょっと変わってる人だ。
パパは宗教家で、たくさんの人の前で説教をしたり、人の悩みを聞いたりする仕事をしている。そして真っ白なロングコートをいつも着ている。
ママは魔女で、今流行している人が消えちゃう黒霧病を流行らせた張本人。私が法律上の大人の年齢になったら自首するつもりらしい。
パパは色んな人から話を聞いて黒霧病の発生源だったママを突き止めたんだけど、出会ってみたら一目惚れして結婚したらしい。パパはもちろん、結婚しちゃうママもバカだよ。
そしてバカ二人から生まれたのが私。私はあと1週間で18歳になり、ママが自首する予定の日も1週間となっている。
パパは私の1週間後の勤め先について、こんな提案をした。
「エルゼ、ゼブスカにある資産家の家で使用人になってくれ。その資産家は信者の中で一番信用できる勤め先だ。」
「し、使用人?」
「家事とかは全部人並みにできるだろ?相手も全然来ていいって言ってるから大丈夫だ。」
掃除や簡単な料理はできる。だけどもっと大きな問題がある。
「魔女の娘で、物を完全に消す能力のことはどうするの?」
「そりゃあ隠して過ごすに決まってるだろう。ママは処刑されるんだから身内だってことは隠すんだ。」
「・・・本気で言ってるの?」
私はその言葉を疑ったがパパは揺るがなかった。
「一緒に処刑されるのは嫌だろう?僕も神の御言葉を伝える者として人に殺められるわけにはいかない。」
私が懐疑的になる中、ママも私の説得に加わる。
「人は死ぬべき時が来たら死ぬのよ。五体満足で生き残る方法を勧められたら聞いたほうが良いと思うわ。」
やっぱり両方とも何かおかしい。この親に巻き込まれて死ぬのは嫌。とはいえ私に何か策があるわけではない。
ここは一旦パパの提案に乗り、一週間後に私とパパは資産家のお屋敷に向かった。
「何があっても人は消しちゃダメよ。天罰が下るから。」
これがママが私にかけた最期の言葉。そりゃそうだろ。神の教えというか一般常識じゃねえか。心の中でそう思いつつ、ママの前では黙っていた。
私とパパは汽車に乗り、ゼブスカに向かう。
汽車はゼブスカの駅に到着。私とパパは汽車を降り、5、6分程歩いてお屋敷に着いた。
緑色の多い景色に囲まれた、郊外のお屋敷には全体的に曲面のスポーツカー、先端にエンブレムが立っている角ばった黒い車が停められており、その車が走り回れそうな庭がある。
宮殿のような建物の前に来ると、資産家のブラウンさんとその妻メアリーさんが歓迎してくれた。
ブラウン夫妻としばらく話し、私は屋敷の掃除をすることになった。仕事の説明が一通り終わり、パパは私に声をかけた。
「あとは頑張れ。」
この一言だけかけて、パパはお屋敷からどこかに行ってしまった。ブラウンさん曰く、パパは人の心を救う旅に出たと言っていた。
そして私がパパの顔を見た日もこれが最後だった。
その後、ブラウンさんは私の先輩になる人を紹介してくれた。
「彼女の名前はソフィア。君の先輩だから、わからないことはソフィアに聞いてね。」
「よろしくね、エルゼちゃん。」
ソフィアは私と1歳年上。見た目はほとんど同級生だった。
最初は仕事に手こずる事もあったが、ソフィアが親切で職場の雰囲気にはすぐに馴染めた。
仕事に慣れてきた頃、私とソフィアが廊下を歩いていると、すれ違いに男の人に呼び止められた。
「ソフィア、その子は?」
「新入りのエルゼちゃん。ペトロス様の娘さんです。」
ペトロスとはパパの名前。私達に話しかけた男の人は20代ぐらいで、とても爽やかな感じの好青年だった。
「そっか、じゃあ僕のことまだ知らないかな。僕の名前はフランク。ブラウンの息子で独身。お相手は募集中だよ。」
「あっはは・・・」
フランクの自虐気味な自己紹介にソフィアがやや引きつって笑う。
「エルゼ、これからも仕事よろしく。」
そう言ってフランクさんは自分の部屋に戻っていった。
フランクさんの姿が見えなくなったのを確認してソフィアは私に話しかけた。
「エルゼちゃん。あんなに顔が良くて優しそうなのに、なんで相手がいないか分かる?」
「えっ、な、なんででしょう?」
「・・・あの人ね、女癖が凄まじく悪いの。相手の女の子が縄とかで縛られてないと興奮しないとか言ってる変態サディストなの。」
「えっ・・・え?」
ソフィアから出てくるとは思わなかった数々の言葉に私は戸惑った。
「あっごめん。こういう話苦手?」
「いや、ちょっとビックリしただけ。」
この日のフランクさんの話はここで終わった。
しかしこの日以来、私は彼と毎日のようにすれ違うようになる。
「こんにちは、エルゼ。ここでの生活と仕事は慣れてきたかい?」
「あ、あの、最近よく会いますね?」
私と同じく違和感を抱いたのかソフィアが割り込む。
「フランクさん、最近出会い過ぎじゃないですか?この廊下通るのは普段、私ら使用人か警備員だけだと思うんですけど。」
ソフィアがきつく言っていても、彼の落ち着いた態度は全く変わらない。
「やだなあ、僕雇い主のご家族様だよ?仕事の様子見てたっていいでしょ。」
「まさかとは思いますがエルゼちゃん狙ってないでしょうね?絶対無理なんで早いこと変態のマゾ豚でも探して来てくださいよ。」
ソフィアの言葉選びも中々ひどい。多分こっちもサディストだと思う。
「僕、色々言われてるけど怪我とか絶対させてないし、本人の了承を得てからやってる。2度目が無理なだけ。」
「金積んで2度目NGの時点でおかしいですよ。ブラウンさんも孫が見たいと言ってるんですから、もう少し長続きする関係をですね・・・」
この日はソフィアとしばらく言い争い、仕事終わりは1時間遅くなった。
翌日、私は再びフランクと遭遇する。
ソフィアはその時いなかった。
「エルゼ、今は一人のようだね。」
明らかにタイミングを見計らってフランクは私に近付いてきていた。
「な、何のご用事でしょうか?」
とっさに返事したけど、今はこの人が怖い。
何を考えてるのか、何で私に寄ってくるのか、なんにもわからない。
「僕ね、エルゼが心配でよく見に来てるんだ。」
「はい・・・?」
長身の男はゆっくり歩み寄る。
「あと、興味もあるんだ、色々と。」
その男は私の真横で立ち止まる。
「あの、フランクさん・・・?」
「僕、わかっちゃったんだ。」
「な、何が?」
「・・・君、魔女なんだよね?」




