開発者からの連絡
「全部思い出した。この状況も私の力で対処できる。研究所にはもう居られないけど。」
これを見て偽物のハルカは微笑んでいる。やはり偽物の都合よく事が進められているらしい。
「ふふっ。これでようやくエルゼも、この宇宙も、終末の時が近付き始めたよ。早速その能力を私に向けてお披露目するかい?」
エルゼは偽物に手のひらを向けると、偽物の体に黒い霧がかかり始めた。
「ハルカ、一体これは?」
「あれはこの世のあらゆるものを完全に消滅させる力。対象はどんなものでもこの世に残らない。」
偽物の体は徐々に色が薄くなっていき、後ろの空がうっすらと見えるようになった。
「消滅って、何も残らず?」
「うん。消せる対象は物から概念までなんでも。偽物の狙いはエルゼに宇宙そのものを消してもらうことだ。」
消えゆく偽物はハルカの話に付け加えるように捨て台詞を残す。
「宇宙を構成する概念が大量に失われば、物質が宇宙に存在できる条件に従えず崩壊する。宇宙規模で考えれば指輪を持ってきたことは失策だったね、ハルカ。」
偽物は最期までほくそ笑みながら消えていった。何を言っているのか理解できないが、ハルカはひどく落ち込んでいた。
「エルゼ、本当にごめん。結局助けられなかった。」
「心配しないで。いつかバレることだったし、研究所の人達は助けられた。」
あの指輪によって、能力の他に何を思い出したのか。ネット廃人がここまで変わる程過酷な人生の記憶なのだろうか。
記憶を取り戻したエルゼをハルカはとても心配している。
「エルゼ、あの能力が人目についた以上、研究所から監獄に戻されるかもしれない。わかってるよね・・・。」
エルゼの管理が現在、研究所の一室で行われていたのは安全性が確認できたと思われていたためだ。
危険な能力を持っているとなれば、200年前の殺処分計画の時に使用した監獄に移されるかもしれない。
俺はエルゼに話しかける。
「エルゼ、なんでここに来て指輪を付けたんだ?」
「・・・私は監獄行きになるとしても、被害を抑える方法はこれしか無かった。」
「監獄にインターネットは無いんだぞ、ホントに良かったのか?」
「あっ・・・」
エルゼは一瞬で元に戻ったが、可哀想なタイミングになってしまった。
事は収まり、監獄行きかどうかは政府の方針で決められるだろう。エルゼが監獄行きになると俺の仕事はどうなるだろうか。あわよくば円満退職できるかもしれない。
落ち込むエルゼをよそに、俺はそんなことを考えていると階段の方から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「ハ、ハルカさん、この音の鳴ってる機械はなんですか?」
足音の主は所長だった。ハルカの持ち物から音が鳴り、対処法が分からず持ってきたらしい。
「ユリさんかも。真ん中のボタン押して。」
「え~と・・・これ?」
所長がボタンを押すと、機械が光り始めた。
「えっ、なにこれ?えっ?」
「ハルカー?やらかしてくれましたねぇ・・・ってあなた誰?」
突然のことにおどおどするなか、気がつくと白衣を着た女性が目の前に立っていた。
「ああ!分かりました、マリューシャの研究所の人ですね。そこに鉄パイプ持ってる危なっかしい小学生みたいなの居ません?」
「ここにいるよユリさん。その人は研究所のマリー所長。」
ハルカはこの白衣を着た女性をユリさんと呼んだ。この人がヤハレルでクローンを開発、製造した張本人らしい。
「ハルカ〜?指輪つけて能力も使わせて何もかも失敗しましたねえ?どうしてくれましょうか?」
ハルカが責められているようだ。ハルカはビルさんを助けたり、敵の攻撃から守ってくれた。
「あ、あの、ハルカは我々を助けてくれて・・・」
「というのは冗談で、私はこのような結果になることはわかっていました。私の優れた科学力によって運命など容易く観測できますから。」
運命を観測するとはどういうことだろうか。失敗するのもわかってて彼女はハルカを送ったのか?
「例えば、あそこにいるカラスは30秒後に鳴きます。」
「えっ?」
「原始人の方には未来予知と言ったほうがわかりやすいでしょうか?未来は既に決められていて、誰がどのようにどんなタイミングで何が起きるかも決められています!」
原始人とは所長や俺のことだろうか。一方的に喋っていると思えば、ナチュラルに罵倒までしてきた。
「ちなみに、エルゼが監獄行きか否かについて、危険性の科学的証明ができないとして先送り、ついでにハルカも研究所で管理することが政府によって決定しまーす。」
・・・カァーカァー
この科学者、胡散臭さは満載だがカラスの鳴いた時間は30秒きっちりだった。
ちょっと待て、さっき言った事は本当なのか?エルゼもハルカも研究所?俺は思い切ってユリという人物に質問した。
「あの、ユリさん・・・ですよね。エルゼどころかハルカまで研究所で管理って本当ですか?」
「ハイ、本当です!いやあ、時代は変わったんですねぇ。200年前はどんな手を使ってでも殺そうとしてたのに、ヤハレルが滅んで長い間戦争がなかったおかげで、人々の心が穏やかになりました。」
「エルゼもハルカも、あなたが作った危険な生物兵器ですよね。政府が無警戒でハルカまで研究所に管理させると思ってるんですか?」
「世の中は誰かにとって都合良く動くんです。今は人を導く運命が都合良く動いているんですよ。」
この女は何を言われても、人を小馬鹿にしたような態度が全く変わらない。
「あと、エルゼさん作ったの私じゃないです。」
「・・・えっ?」
衝撃の事実に場が静まり返る。
「単刀直入に言いますと、エルゼはクローンを作る元になった魔女の実の娘です。」
魔女というと400年前に処刑された、クローンの元になった人物を示す。実の娘であれば約400歳ということになるが・・・
「信じられないって反応ですねぇ。400年前に起きた災いといえば、体から黒い霧がでて消えていく『黒霧病』じゃないですか。全く同じでしょう?」
「一緒だと言われても見たことないんですからわかりませんよ。そんな知ってて当然みたいな・・・」
ユリは俺のこの発言にひどく呆れた様子で、ため息をつく。
そして再び饒舌に話し始めた。
「あなたユウトさんでしたか、エルゼを保管してた責任者の。魔女のことぐらい履修しといてくださいよ。こんな人が研究者になれるなんてどういう選出方法してるんですか。」
俺はこの人が口答えしてはいけない人だと察した。何を言っても罵倒されるが、情報は勝手に喋ってくれるので質問だけすればいい。
「すいませんでした。ちなみに父親は誰なんですか?」
ユリはまだ何か言いたいことがありそうだったが、次の言葉を言う前に割り込めた。ユリは不満そうな顔で話を進める。
「・・・色々言いましたが、関心があるなら良いです。エルゼの父親は新興宗教の宗教家。彼は誰よりも早く黒霧病の原因となった魔女を突き止めた人物です。」
ユリは指輪によって封じられていたエルゼの記憶について話し始めた。




