虚空からの声
「エルゼ!私の声聞こえる?」
音も景色も何もない暗黒の空間の中、この声だけがはっきり聞こえる。
「・・・私の偽物?」
私が返事をすると、さらに声が聞こえてきた。
「そうそう。私はあなたにも伝えたいことがあるの。今、あなたの味方のクローンに追われてるから手短に話すね。」
「え・・・う、うん。」
ユウト君や他の人がいないことが気になるけど、聞きそびれてしまった。
「エルゼ、まず人間を消したりは一切してないよね。そうじゃなかったらあなたもこの世界も既に存在してないし。」
「あー・・・うん。」
なんかすごい事言ってる。母親の二の舞いになりたくないから消してないだけなのに。
「実はね、あなたみたいな魔法使いはこの世界に定期的に生まれてくるの。」
「定期的に?」
「うん、そう。だけどみんな能力があることに気づく前に死ぬの。殆どの子は自分が気づかないうちに能力を使ってるか、死に際に使ってるかだから。」
私やクローン以外にも能力を持ってる人がいるのは初耳だ。なんでこの人はそんなこと知ってるんだろう。
「ちなみにあなたの母親は前者だったけど、父親に見つけられてから本人も気づけたレアケースよ。」
「へー・・・、ということは私もレアケース?」
「そうそう!能力を使ってないから寿命が無限にあるっていう過去に例のない特例の中の特例なの。」
そんなにレアなんだ私。ソシャゲのSSR一点狙いの何分の一ぐらいの確率なんだろ。
「じゃ、これからも人間だけは消さないように気をつけてね。でないと大変なことになるから。」
「あの、大変なことって?」
私がそう言うと、心なしか偽物の声が暗くなった。
「・・・魔法使いって、世の中を変えるために生まれてくるんです。その使命を果たす時、魔法使いは運命に殺されるんです。」
「運命?」
「神が決めたことです。あなたの使命は世界を消すこと。人間1人消せば、消えたところからほころびが連鎖して、あなたごと世界が消えます。」
1人でも消したら世界消えるの?別に消したい人もいないけど、そんな大変なことになるんだ・・・。
「本当にあなた、人間関係はラッキー続きでしたよ。外国の勤め先を用意できる宗教家の父親、女癖は終わってるけど生きていく方法を探してくれた夫、夫亡き後孤立していた所を引き取ってくれた1番目のユリさん。そしてネット環境完備でぐーたら生活させてくれてる研究所・・・。」
最後のは余計よ。別にネットだけじゃなくてテレビも見てるし。
「とにかく、使命を果たさないうちは運命が味方してくれます。絶対に人間は消さないで。」
今思い出したけどこの偽物、私に世界を消させるために来たはずだよね・・・。
「あの、なんで私に味方するんですか?」
私に偽物が答える声は段々と遠くなっていく。
「私は、あなたの味方のクローンだから。」
「えっ?」
「・・・なんでもない。今まで迷惑かけてごめんね。」
偽物の声が完全に聞こえなくなると、元の生い茂った草原の風景が戻ってきた。
「あっ、エルゼ!」
ユウト君の声が聞こえてきた方向を向くと、ユウト君とケネス君がいた。
私は二人に駆け寄り、声をかける。
「ユウト君、ケネス君、無事だったんだね。」
私を見つけて安心しているのか、ユウト君が話し始める。
「エルゼこそ無事で良かった。仕事的な意味と物理的な意味で俺の首が飛ぶところだった。」
言ってる意味はよくわからないけど、2人は大丈夫そう。
「ところで、ハルカちゃんと私の偽物は?」
そう言うとケネス君が私に答えた。
「うん、さっきユリさんのクローンの『ドロシー』が来て、ハルカと一緒に偽物と戦ってるよ。」
「えっ?どこで戦ってるの?」
「あっちだよ。今のところ二人が優勢。」
ケネス君が指さした方向を見ると、私の偽物とハルカちゃん、そして身長の高い女の人がいた。
「ドロシーの奴、もっと早く来てくれれば良かったのに。空気とか物質色々集めてビーム撃てる相性完璧の能力持ってんだからさぁ。」
戦っている3人の周りには、まばゆい無数の閃光が飛び交っている。
物質や概念に意志があっても大きいエネルギーで撃ち出されたら意味がないのか、偽物は防戦一方になっている。
さっきまで話してた事、本当だとしたら・・・。
「あれっ、エルゼどこ行くの?」
「エルゼ!そっち行ったら危ないぞ!」
もう少しだけ話したい。あの二人を止めないと。
「ハルカちゃん!ドロシーちゃん!ちょっと待って!」
偽物は足元をすくわれ、トドメをさされるところだった。
「おっとエルゼさん、さっきまでどこにいたんだ?」
長身の女の人を見てみると、私の記憶とはだいぶ外見が違った。
「あれ、ドロシーちゃんそんな見た目だったっけ?」
肌が黒いのは記憶通りだけど、服装や髪型がヤハレルの時とは全く違う。
「ああコレ?イケてるでしょ。ユリがキレてたけど私には関係ないし好き放題やってるの。」
ファッションの話になりそうな所に、偽物を抑えているハルカちゃんが話しかける。
「あのーエルゼ?何か用事があるんじゃないの?」
「そ、そうでした。」
私は偽物の横につく。
偽物はハルカちゃんに抑えられ、動ける気配はない。
「私の偽物さん。さっき、真っ暗な所で話しかけてきたのって、あなたなの?」
暗黒の中で声は聞こえていたが、顔が見えた訳では無いので確認した。
「・・・そうね。さっきあなたに色々言ったのは私よ。」
「じゃあ、『私の味方』ってどういうこと?」
偽物は微笑んだ。
「ふふっ、その言葉の真意はね・・・
・・・みすみす近づいてきたあなたをハメるためよ。」
「い゛ッ!?」
私の左手に何かが当たった。
「ドロシー!早くコイツを消し飛ばせ!」
眼の前が一瞬まばゆく光る。
ハルカちゃんの一声から、偽物は塵一つ残らず消し飛ばされた。
・・・少しでも信じかけた私がどうかしてた。
偽物がケネスだった時に処理装置で私達を消そうとしてたじゃん。そんな人の仲間に信じられる要素なんて全く無かった。
「エルゼ!大丈夫か?」
私のことを心配して、ユウト君がケネス君と一緒に駆け寄った。
「大丈夫だよ。私は少し指を切っただけだし・・・」
私は左手を見ると、視覚的な違和感があった。
左手に付けていた指輪。しかし、その表面には見慣れない刻印が増えている。
「だれも しんじるな」
これは私の偽物がやったの?随分とオシャレな伝達方法ね。
だけど、勢い余ったのか指輪周りの指に切り傷ができていた。こんな怪我したの使用人やってた時以来よ。
「どうした?そんなに指輪ジロジロ見て。新婚さんじゃあるまいし。」
ドロシーちゃんが冗談交じりに言う。
指輪を見ても、メッセージの意味は全くわからない。
今は放っておくことにする。
疑うような怪しい人なんていないしね。




