本物と偽物
「全然似てないなあ、この映画のハルカ。」
ケネスがそう言いながら3人で見ていたのは、ハルカのような人物が出演している映画。
目つきが鋭く、血色が悪く見えるようなメイクが子役に施されており、まさしく人間とはかけ離れた悪の存在のように描かれている。
『ヤハレルに抵抗する愚かな人間共、宇宙に堕ちよ、重力変換』
実物を見ていると凄まじい偏見をもとに脚色されていることがわかる。
「うひゃひゃ!ダサ過ぎるだろコレ!」
・・・身内にはウケてるな。
大笑いした後、ケネスは本物の方に目を輝かせる。
「ねえハルカ、さっきのセリフ言ってよ!」
「絶対ヤダ。」
ハルカはすぐに拒否した。
「お願いだよ〜。ちょっとだけだから!」
「自分でダサいって言ったセリフ言わせようとしないでくれ。」
無理強いをするのは良くない。俺はケネスを止めに入る。
「ケネス、相手が嫌がってるんだから諦めろ。」
「ええっダメ〜?」
ケネスは不満そうだが仕方ない。止めたのは間違いではないはず。
しかしハルカは何か考えているような素振をしていた。
「・・・一回だけね。」
「「「えっ?」」」
俺達3人は同時に驚いた。一回だけだったら良いのか?
「ただし、笑った奴はしばく。」
「「「えっ!!?」」」
何が条件かと思えば急に年末のバラエティ番組が始まった・・・いや、タイキックでは済まないかもしれない。
「ヤハレルに抵抗する愚かな人間共。宇宙に堕ちよ、重力変換!」
「・・・ッ!」
どうしよう、迫真の演技に笑いが抑えられない。こらえようと止めている息が次第に苦しくなってくる。
俺達は窒息寸前からなんとか落ち着かせ、うずくまっていた体を起きあげる。
「わ、わらってねぇぞ、ハルカ!」
勝利を確信し強気になるケネス。
「・・・グラビティ・トランス。」
「「「ぶフッ!!?」」」
完全に油断した。3人揃って確実に声が漏れた。
「真面目にやってる人を笑うなんて最低ね。覚悟はできているかな?」
ハルカは不敵な笑みを浮かべる。これはまずい。
やられる─────!
・・・ピロピロピロ、ピロピロピロ。
「おや、ユリさんから電話だ。」
これは助かった。ハルカは音のなる端末を手に取り、通信を始めた。
「もしもし、ユウトさんいます?」
立体映像で映し出されているユリは俺に用があるらしい。
俺は通話に応じた。
「はい居ますよ。」
「そっちにケネス居ますよね。本人から聞いてると思いますけど、彼の能力は絶対零度から10万度まで物体の温度を変えられる能力です。」
「10万度までできるんですか。」
「はい。ハルカもそうですが、クローンの能力をフル出力で使うと惑星一つ藻屑にできるので絶対にやらないように指示してます。地球上に10万度の物が現れたら一瞬で焦土になります。」
そんな相手に200年前の軍隊が太刀打ちできないのは当たり前の話だ。そんな相手と戦わなくてはいけなかった当時の軍隊は気の毒である。
「ところでユウトさん。つい最近マリューシャ東側のリュール地方にエルゼさん行きませんでしたか?」
リュール地方?普通に考えて、そんな農地しかないところにエルゼが行くはずがない。
「私、行ってないよ?というかここ2週間ぐらい外でてないし。」
エルゼの答えを聞いてユリが頭を抱える。
「そーですか・・・。なぜかこの地域『波動』が読み取れなくて、こんなことになるのはエルゼさんの能力使った時ぐらいなんですよ。」
「もしかして、敵の中にエルゼと同じ能力持ちが居るんですか?」
「それも考えづらくて、過去に数百種類クローンが居た中で、物質を変化させる能力はあっても、物質の存在そのものを消せるのはエルゼさんだけなんですよねぇ。」
「あの・・・ホントに今から来るのはケネスの偽物なんですか?」
珍しくユリは考え込み、即答はしなかった。
「・・・もしかしたら、来るのはケネスだけじゃないかも。」
「つまり敵は複数体?」
「・・・はい。」
明らかに今日のユリは余裕がない。未知の敵が迫っている可能性が高いらしい。
「リュールの方にクローン1体行かせてますが、もしかしたらのことがあるかもしれません。ユウトさんには、私やクローンのようなバックアップは無いので、自分の命を最優先に行動してください。」
「言われなくてもそうしますけど、エルゼのバックアップはあるんですか?」
「ないです。」
即答だった。バックアップがあるのはクローンとユリだけのようだ。
「エルゼさんは魔女の能力と言いますか、何も意識せずに危険な波動を消してるので、死にはしません。ただ、クローン以外の生物を能力で消すと異常な波動が急増するのを確認しているので、人工物以外はなるべく消さないことだけ気をつけてください。では。」
ここで通話は切られた。自分の予定にない事をして予定を狂わせたくない人なのは既に理解している。
しかし情報を引き出せれば、ただの日記になりかけている報告書のネタが増える。あとは学生の頃に身に着けた文章の水増し術を使えば所長、ビルさんのどちらに提出しても通過する文書が書ける。
そんなことを考えていると、ケネスはさっきの話を聞いて不安そうにしていた。
「まさかとは思うけど・・・エルゼの偽物だったりしないよね?」
「ユリさんの情報が漏洩したデータを使ってるなら可能性は低いよ。エルゼの能力は特殊だし複製は難しいと思う。」
ハルカはそう言っているが、何らかの策を講じてきているのは確実だ。その策が何か、全く想像付かないのが現状ではあるが。
「昔の僕がエルゼに消されてるらしいから、偽物だったら相手したくないぞ・・・」
ケネスがやけに弱気だ。エルゼの記憶の分厚い資料に書かれている人物と同一とは思えない。
様子のおかしいケネスにエルゼが話しかける。
「ケネス君、確か『この世界に必要とされているなら生きられる』みたいなこと言ってなかった?」
エルゼが言っている事も大体資料通り、消されたケネスの発言である。
「昔の僕が言ったことなんてわかんないよ。死んだ時の記憶のバックアップなんてないし、性格もちょっと違うんじゃない?」
どうやら、ユリのクローン製造技術は確実に同じ人物を作れるわけではないらしい。
彼女が言っていた「不良品」とは、性格があまりにも違っていて、記憶のバックアップが入れられない・・・ということかも。
ハルカは敵が来た時の作戦を話し始めた。
「仮にエルゼの偽物が来たときは、とにかく標的がエルゼとユウトさんに向かないように誘導する。ケネスの偽物は、ケネスの能力同士で相殺して、私が動きを止めてエルゼが消去する。」
話だけ聞けば、偽物のケネスに対しての作戦は良さそうだ。しかし、本物のケネスの顔が晴れない。
「えー・・・誘導って誰が?」
「エルゼとユウトさん以外の私達に決まってるでしょ。」
「だ、だよね~。ハハハ・・・」
もはや資料に書いているケネスとは別人だ。今から来るのが偽物のケネスだけだったらいいのだが。




