人でなしの居場所
14ヶ国による協同軍事作戦は失敗したという噂がちらほら聞こえるようになった。
兵士は空へ落とされ、戦車は粉末になり、司令官は見えない力によって暗殺された・・・なんていう噂も。
これだけ聞いたところで何もわからない。だけど、国土内に空爆されてるし、この家の上空も見慣れない飛行機が飛んでいることが増えている。
こんな状況だけど、テレビをつければニュース番組が放送されている。テレビに出てる人とか、仕事がある人は大変だなあ。
私は子供ができてから子育てに専念してたけど、使用人がいない人は家事も兼業しないといけない。
更に今の時代では子供を保育園に預けて夫婦で仕事をし、帰ってきたら家事をして子育てするらしい。
・・・現代人いつ休んでるの?夜泣きで叩き起こされた日の朝から仕事とか無理では?
確か、この番組に出てるアナウンサーも子持ちよね。朝6時から生放送してるし、どんな生活してるんだろう、根性で頑張ってるのかな。
「・・・はい、速報が入りました。我が国を含む14ヶ国による防衛線が破られ、シエル川を突破されました。」
テレビで速報が流れてきた直後、部屋の外が騒がしくなった。
「更に、ヤハレル軍の生物兵器が国内に侵入したことを確認しました。派手な服装をしている不審な人物には絶対に近づかないでください。繰り返します・・・」
派手な服装ってどういうことだろうと思っていると、今度は窓の外が騒がしい。
「クローン1体がこちらに接近!絶対にこの地点を守れ!」
軍の人や戦車が家を囲い、1台のヘリコプターがかなり低空飛行している。
その先には一人の男の子がいた。派手・・・というかコスプレイヤーだろうか。
「止まれ!動いた瞬間一斉射撃するぞ!」
あの子供一人に一斉射撃するのは流石にオーバーすぎるでしょ。一体あの子がなんだって言うのよ。
・・・あれ?急に風が強くなったような。
「あっ、熱っ!何だこれは!?」
兵士は突然武器を投げ捨て、戦車から人が慌てて出てきた。更にヘリコプターの挙動がおかしい。
ヘリコプターは家から大きく離れ、人が飛び降りた後そのまま墜落した。
誰もが慌てふためいている中、男の子は悠々と家に歩いて来る。
「僕の能力でこの広場にある武器とか車を3000度ぐらいに加熱したよ。もうすぐで蒸発するから絶対使えない。」
能力、まさか魔法使い!?
私は部屋を出て、大急ぎで玄関に向かう。
「おい、どこに行くんだ!!」
「外は危険だ!止まれ!!」
廊下で何度も呼び止められたが構ってる暇はない。
ドアを開けた瞬間オーブンのような風が吹いてくる。私は外に出て、すぐにドアを締めた。
ドアを締めても中から声が聞こえてくる。
「バカ女が外に出て行っちまった。アイツはもう助からねえ。」
女扱いしてくれるだけ嬉しいよ。特別に化け物の私がこの状況どうにかしてあげる。
「おやあ?女の子が出てきたね。もしかして生贄にでもされた?」
この男はおそらく200年前の母親と同じ生き物。このままにしたら確実に危害が出る。
「1万度と絶対零度どっちが良い?僕のオススメは絶対零度。死んだあともしばらくきれいに体が残るから、かわいい女の子にオススメしてるよ。」
コイツが人間じゃないことを確認して、久しぶりに能力を使う。
とりあえず腕から優先的に消していく。
男は異変に気づいた。
「な・・・何、この黒いの?僕の腕は?」
次に足を消し始めると、男はよろけて尻もちをついた。しかし慌てていた男は突如冷静になった。
「そうか、理解したぞ。君は不良品なんだね。生物を作ると一定の確率で変な奴が生まれるらしい。人の子も可哀想だね。」
・・・なんなのよコイツ。分かってることわざわざ言ってきて。私が邪魔者なのは分かってるよ。生きたくて生きてるわけじゃないんだよ。
「この能力・・・もしかして黒霧病の魔女?」
構わず彼は質問を続けてきたので、私は答える。
「そう、私の母親と一緒。信じられないだろうけど。」
もうすぐで首だけになりそうな男に、全く焦りはなかった。
「なるほど、どうやら君はまだこの世界に必要とされてるみたいだ。」
何いってんだコイツ。私はもう宗教の話は聞き飽きてるぞ。
「君に興味を持っている人が知り合いにいるんだ。今日の夜は起きてて。」
そう言って男は完全に消滅した。好き放題言いやがって、無様な死に様で清々した。
・・・なんだっけ、「今日の夜起きてて」って言ってた?ピー○ーパンでも来るのかしら。どうせ暇だし、今日は徹夜してやるか。
私が家に戻ると周りからは明らかに懐疑の目を向けられている。
「む、よく生きてたな。あのやばそうなクローンはどうにかなったのか?」
話しかけてきた軍人は、家で一般人を地下室に避難させていたらしい。ここは適当な理由を言って誤魔化す。
「男の子は用事が済んだから帰っていった。外にいた人がどうなったかは見てない。」
私が来た時には戦車もヘリコプターもなかった。太陽みたいな温度で何もかも蒸発したのかも。
今日の夕方のニュースでは、正式にシエル川とその周辺地域の陥落、さらにゼブスカ政府が降伏宣言し、ゼブスカはヤハレル連邦の属国となったことが報道された。
そして今は、避難していた人々がこの戦いによって亡くなった人の慰霊祭を予定しているらしい。まぁ私には関係ない。
ピーター○ンか、サンタクロースかは知らないけど、何か来るらしいので今日の晩は眠らずに待つことにした。
深夜1時、廊下を徘徊する警備員に聞こえないぐらいの音量で深夜ドラマを見ていると、窓を叩く音が聞こえてきた。
「えっ・・・?」
思わず声が漏れた。窓の外にいたのはスケッチブックとペンを持った毛深いサルだった。
恐る恐る窓を開けると、サルはゆっくりと中に入ってきた。野生でないことは明らかに分かる。
サルがスケッチブックを開くと、このサルの飼い主と思われる人物からの伝言があった。
「えーと・・・『こんばんは、ヤハレルのエルリーン研究所に勤務している”ユリ”という者です』。」
私が1ページ読み終えるたびに、サルは自らページをめくっていく。
『先程、私の研究所で製造された生物がご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません。』
『私は研究所で新しい生体を形成し、脳の記憶を移植して実質無限の人生を歩む方法を研究しています。』
『よろしければ、先程の件も含め貴女とお話する時間を頂けますでしょうか。』
スケッチブックには1ページごとに1文書かれている。
「・・・ってか、何よその物騒な研究は。サルで伝達してきたりろくな人物じゃないわね。」
すると猿はペンのフタを開け、スケッチブックの新しいページに文字を書き始めた。
『研究内容に興味がお有りですか?』
「えっ?」
猿はページをめくり新しいページに文字を書く。
『研究所に来ていただければお見せできます。』
・・・マジで?
確かに興味がそそられなくはない。明らかにヤバい研究が直で見られる。テレビでは絶対特集しない内容だし、何より暇だから見に行きたいかも。
「ど、どうやって研究所に行くの?」
猿はペンを走らせる。
『片道3分なんで、行くなら今すぐ行きましょう。』
「えっ、今?」
猿は部屋の扉を開け、自分についてこいと言いたげに手招きした。
「廊下出たら警備員に気づかれるよ・・・?」
しかし不思議なことに、猿と私は誰とも遭遇せず玄関に着いた。
正面玄関を開けても誰も来ない。何事もなく私は外に出て、猿についていく。
しばらく歩くと、道端に不自然な機械のような物があった。猿は機械に近づき、スイッチを押した。
その瞬間、緑色の多い郊外の風景が見知らぬ部屋の中になった。
「え・・・どこ?」
私が状況を理解できないでいると、どこからか女性の声が聞こえてきた。
「エルゼさん、ここまではるばる来て頂きありがとうございます!」
声がした方向を見ると、さっきの猿と白衣を着た研究者のような女性がいた。
「私はエルリーン研究所所属の『ユリ』と申します。研究の紹介をしながら色々お話しましょう。」




