表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよならハッピーエンド  作者: 水沢瑞樹
7/10

序章-7

王都へ出立の日。

セシルティアのお供として、アウローラも着いてきてくれることになったのは心強い。というか、いてくれなかったら今の私じゃ色々積む。

「わあーーーーーーーーーすっごい‼‼‼」

この身体になってからか、心までもが若返り、9歳になっているような気がする。でも、これはしょうがない。だって…。

 セシルティアの目の前には、まるで童話の世界に出てくるシンデレラが乗った!と言われても不思議ではない立派な白い馬車がある。なんだっけ…クラレンス…?とにかく初めて見た‼それに立派な毛並みの白いお馬さん。こんなに馬に近付いたのも初めてであった。この状況で興奮しない方が無理がある。

「それじゃ、留守は任せたよ」

「はい、いってらっしゃい…それと…」

エイラシアは、しゃがみ込み、馬の近くではしゃいでいたセシルティアを優しく抱擁する。

「気を付けて…元気で帰ってきてね…」

エイラシアの手が震えていることにセシルティアは気付いた。本当に心配しての言葉。

これは今は私だが、本来はセシルティアに言っている言葉なんだと思う。その言葉が私の心に深く刺さる。

だって、セシルティアは寝たきりで帰ってきたんだから…。

「はい、行ってきますお母様‼」

心配させまいと、お母様のほっぺにキスをする。

やっぱり、私がこれまでこの世界でやってこれた感謝の意味も込めた。

(これぐらいのスキンシップじゃないとは伝わらないよね)

「まあ!」

最初は驚いたエイラシアであったが、すぐにクスリと笑い、すぐにほっぺにお返しのキスをしてきた。

「行ってらっしゃい、私の可愛いセシルティア」

エイラシアは最後にセシルティアの頭を優しく撫で、別れ惜しそうに離れる。

「それじゃ、出発だ」

セシルティアとルーファスは真ん中に停まっていた立派な馬車に乗り込む。といっても、セシルティアはルーファスに抱かれ、中へ運ばれた。

アウローラを含む、従者の者は別の馬車で移動するようで、騎士が数名、外を警護しているが、どうやら…この馬車での移動はセシルティアとルーファスの二人きりの空間らしい。

(おっも………)

セシルティアはかつてないくらい、重い空気に耐え、じっと座っていた。

ルーファスは父親だが、物静かで口数が少ない。セシルティアのことを想っているのは知っているが、それでも、二人きりになると何を話していいか分からない。

「…………」

うん、私はお人形さんになるしかなかった。ちょこんとお座りセシルティアちゃんになりきるのだ。

(私は人形、私は人形、私は人形)

「セシルティア…」

「はい、私は人形です‼」

(ああーーーやってしまった。思わず思っていたことを言ってしまった)

「え…ああ、人形が欲しいんだね、分かった、王都に着いたらすぐに買ってあげるよ」

「あ、ありがとうございます」

なんか都合よく解釈してくれたみたいでよかった。

「君が何かをおねだりしてくれたのは初めてだね…嬉しいよ」

ルーファスが微笑みながら、セシルティアの頭を撫でる。

セシルティアはルーファスにこんな風に扱われたのは初めてだったので、少し戸惑いつつ、照れ臭さを隠せなかった。

「ああ、そういえば、その日記帳…大事に持っているが……その…」

ルーファスは言い淀みながら、今日ずっと持っていて、今はセシルティアの膝の上に置いてある日記帳に目をやる。

セシルティアは、何が聞きたいのか分かった。

「ごめんなさい。日記帳を見ても、記憶は戻りませんでした」

「……そうか」

ルーファスは一瞬ではあったが、表情が曇らせる。

「それに…」

セシルティア日記帳を日記帳のロックを外し、パラパラをめくり、見せる。

「ほら、何も書いてないんです」

それを眺めていたルーファスは、ふう、と一呼吸置いてから再びセシルティアの頭に手を置く。

「いや、勘違いさせてしまったな。勘違いでもないんだが…。とにかく、記憶は戻らなくてもいいんだ。セシルティア、君は君らしくしていてくれれば…」

ルーファスはセシルティアの頭を撫でる。

「はい‼」

(エイラシアお母様と同じこと言ってる)

それが微笑ましく、セシルティアは笑う。そして、開いていた白紙ページをゆっくりと閉じた。

「ん、今、何か書いてなかったかい?」

ルーファスがそれに気づき、指摘した。

「え、どこですか⁉」

セシルティアは気付いてなかったので、また、パラパラとページをめくる。

「一瞬だったから分からなかったが、おそらく最初の方だったと思うが…」

ルーファスが日記帳の表紙側を指さす。セシルティアは最初の方のページへ向かい、一気にページをめくった。

「あ!本当に何か書いてある!」

本の端、日記帳でいうと、まさしく1ページ目、そこに文字が書いてあった。

(でも、最初みたとき、何も書いてなかったと思うんだけど…見落としちゃったのかな)

セシルティアはそうは思いながらも、ようやく見つけた、セシルティアの過去の記憶への手掛かり。そう思い、開かれた日記帳へ目をやる。

セシルティアは固まった。その日記帳に思いも寄らないことが書いてあったから。

「そんなこと…」

セシルティアは呆然としていた。

「…これは…何て書いてあるんだい?見たこともない文字だが?」

「え?」

どうやらルーファスにはこの文字は読めないようだ。セシルティアには違和感がなかったが、言われてみれば確かにそう。はっきりと私の母国語、日本語で書いてあった。

私には確かに読める。でも、これは伝えることは出来なかった。この意味を理解してしまったから。

「せっかく昔の私の手掛かりだったのに…私にも何て書いてあるか…」

「そうか…知り合いの学者に解析を頼んでみようか…?」

「いえ、昔の私の思い出なので…大切にしたいです…」

セシルティアは開いていた日記帳を閉じ、両腕でぎゅっと抱きしめる。

「ああ、そうしよう」

まだ王都への旅は始まったばかりだったが、さっそく不安になってきた。

だって、日記帳には、実に短く、分かりやすく、こう書かれていたから。

『この本を手放したら 死ぬ』

これがセシルティアの過去と何か関係あるのか分からないけど、それでも…どうしてこんなに不安が収まらないのだろう…。セシルティアは王都での第二王子に会うのが…怖くなってきた。

とは、言ったものの、時間は進み、気付けば王都に到着していた。

かくいうセシルティアは…眠っていた。適度に揺れる馬車とお尻が痛くならない、ちゃんとクッション性のある椅子だったので、それが眠気を誘い、気付けば眠ってしまったようで…。座ったままの体勢では危ないと思ったのか、ルーファスが膝の上に頭を乗せ、眠らせていてくれた。

前世の私なら、イケオジの膝枕!と喜ぶシチュエーションなのかもしれない。今の状況で傍から見れば、仲睦まじい親子に見えると思う。でも、やってる私はそんなんじゃあなかった。

………頭を乗せていた太ももを思いっきり濡らしてしまっていたから…よだれで。

(ああああああああああ!)

起きたとき、恥ずかしくて死にそうだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ