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さよならハッピーエンド  作者: 水沢瑞樹
2/10

序章-2

当日、急ぎの早馬で神殿から来た司祭により、私は診察を受けた。その診断結果はこうだ。

「頭に強い衝撃を受けたせいで、記憶に障害が発生したと思われる。時間が経てば自然に思い出すこともあるし、何かきっかけがあれば思い出せるかも知れないが、無理に思い出させようとすると、頭に負担がかかってしまう。そのため普段と変わらない生活を送るのが一番だ」

というものだった。



どうやら私はこの子、セシルティア・フィレオノールに憑依したということだ。初めは前世の私、石動麗奈の前世の記憶が戻ったか、宿ったのか、だと思ったが、そうではない…。

だって、セシルティア・フィレオノールは私がシナリオを考えた恋愛ゲーム、『聖女様のラブストーリー』の登場人物と同じ名前だったから!

しかも、最後に朧げに覚えているのは、確かこの作品、『聖女様のラブストーリー』をプレイ…していたはず…?あれ、プレイしてたんだっけ…?直前の記憶が曖昧ではあった。何か強いショックを受けたような…そんな気分になる。

あれ、私って、なんでゲームの世界に入り込んでいるのだろう…?もしかして、死んでしまった…?それとも長い夢を見ている…?

などと、考えたりもしたが、結論が出ないので、そのことについては考えることを辞めた。

ゲームの世界、というのは理解できたが、それでも、セシルティアの幼少期の頃の話なんて、ほとんど触れていないはず…。

なんと…年齢は9歳…若い!前世の記憶だと、私もうすぐ三十路って歳だったんだけど…。

白髪の男性が父親でルーファス。金髪エルフ美人さんが母親でエイラシア。エルフではなく、設定では長耳族という南の地域に住む部族の元お姫様。これも原作では触れてないが私は知っている…。

父親が公爵様、と呼ばれているのを聞いたので、公爵家ということも分かった。これは原作通り。セシルティア公爵令嬢ってセリフが何度もあったから。

 ちなみに公爵の方は、本編で後半に少しだけ登場する。母の方に至っては、全く登場しない…。公爵と長耳族とのハーフがセシルティア、という設定だけがある。

最初に私を見つけたメイドさんの名前はアウローラさん。私の専属侍女だったらしい。彼女のシナリオはほとんどなく、作中ではあまり登場しなかったが、ゲームでは端の方にチラホラいたような気がする…。

記憶が戻るかも、ということもあり、父に抱かれ、一度、お屋敷の中を回ったが、私…というより、元の体の持ち主、セシルティアの記憶が思い起こされることはなく、徒労に終わった。

それでも、知る必要があった。セシルティアの記憶を。

原作で、セシルティアの幼少期なんてほとんど触れていないから。

だって…、セシルティア・フィレオノールは、主人公やメインヒロインではない。恋愛ゲームの2人の主人公である、聖女の二人を邪魔する、悪役令嬢ポジションなのだから‼

王宮の前に立つ、学園・神殿・騎士団、それら3つの施設を統合した施設。

通称『アカデミア』

そこで物語は始まる。聖女である二人が騎士団長や神官長、王子などに恋をする物語。そしてそれを邪魔する聖女にして、悪女でもある私、セシルティアだ。

聖女の一人には王女様もいるが、立場が違い、いじめの対象となってしまう。まあ、それだけじゃないんだけど。

セシルティアは2歳年上で、先輩聖女とし、いわゆる指導する立場である教員側。主人公の二人は学生の立場ってとこ。

よくある学園者の同級生悪役令嬢にされる嫌がらせとはレベルが違う嫌がらせをしていた。

 そして最終的にはそれがバレて必ず死んでしまうのだ。

(なんで…よりによって、セシルティアなの………)

私はセシルティアの記憶、行動、そしてこれからについて、もっと知らなければならない。

死にたくないから‼

そして、何とかして元の体に戻れる手段を探さなければ…。


でも、なんで私がこの世界に…?

どうやったら戻れるんだろう…?

初日の夜、慣れない生活、そして見知らぬ世界、そして自分自身のこと、これからのこと。それらを考え出し、部屋で一人泣いた。


明くる日の朝、木製の立派なドアから聞こえるコンコン、というノックの音で眼を覚ます。

 ゆっくりと体を起こし、まだ視界が定まらない状態であったが、すぐに手を見る。

(ちっちゃいまま…)

やっぱり夢じゃなかった。

いつも使っている布団やベッドよりも、柔らかく、それでいて弾力があるので、その時点で夢じゃないのは、何となく察しがついていたが、それでも心のどこかで、夢であってほしい、と思っていた。

 それをはっきりと否定してくれるのが、小さくなってしまった体のサイズだった。

「おはようございます、お嬢様」

「おはようございます…えっと…」

この西洋美人メイドさんの名前、なんだっけ…。と言い淀んだのを見て、メイドさんが笑顔を向けてくれる。

「アウローラです。セシルティアお嬢様の専属侍女をしております」

察してくれるのが早かったのは、恐らく記憶に障害が出ていることが通達されていたからなのだと思う。それでも察してくれるのはありがたい。

「分かりました、アウローラさん、よろしくお願いします」

ベッドの上ではあったが、アウローラに頭を下げた。

「お、お嬢様‼お止めください、そのように畏まられると、私が困ってしまいます!それに私のことは呼び捨てで構いません!」

あ、そうだよね…前の記憶が強すぎて、営業トークみたいになっちゃった…。

「あ…うん、ごめん、アウローラさ……あ…」

「失礼しますね、お嬢様」

アウローラが軽く湿らせたタオルで顔を拭いてきた。主に目元を。

「支度しますので、少し、お待ちください」

そう言われ、支度…といっても化粧はしないので、顔を洗い、髪を整え、寝間着を脱がされ、着替えさせられる。

 なんていうか…早すぎて神業‼

「はい、出来ましたよ、お嬢様」

「おおー」

姿鏡に映る自分の姿をみて、思わず声を漏らす。

水色のフリルが付いたドレスと金色の長い髪は意外にマッチしていた。


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