表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夏雲のスイートピー

作者: 兎藤うと

アクセスありがとうございます。


 夏――


 ただただ暑いそんな夏。


 騒々しく鳴き続ける命火はより世界を厚く感じさせる。


 だけどどこか、鬱陶しくも切ない気持ちになる。寂しさと言っても過言ではない。


 そんな炎天下の世界を歩く俺は、終わりの見えない小道を進んでいく。


 汗が湧き水のように出てくる。


 のどの渇きを感じた俺は水を飲む。


 のどを鳴らす間、俺の視界は上を向く。


 向いた先には広い空が広がっていた。


 蒼天まるで海のようで、見ているとなぜか涼しく感じる。


 分厚い雲が流れ、空の果てへと進んでいく。


 まるで川のように、海へ向かうように。


 ふと、口に水が流れていないことに気づく。


 確認すると、水はなくなっていた。


 気づかないうちに全部飲んでしまっていた。


 俺は溜息を吐きながら、カバンから新しい水を取り出して、また果てのない道を歩き始める。


 歩いているうちに誰かが僕の隣を一緒になって歩く者が現れた。


 俺の友人だった。


 話しているうちに、また一人、また一人と増えていく。


 ある友人の一人は撮影を始め、俺たちのくだらない会話を取り始める。


 俺たちはいつもの光景だったのでとくに気にせず、話を続けた。


 やがて僕たちは小道を反れて、べつの道を歩き、墓地にやってきた。


 途中で小柄な女性と合流し、俺たちは友の目の前に立った。


「久しぶり」と俺たちは目の前の少女に声をかけた。


 今日は彼女の命日。ともに夏を過ごした者たちと久々に顔を合わせる日。


 今はもう遠くいってしまった彼女だけど、今はもう冷たい彼女だけど。


 二度と会えなくなってしまっても、俺たちが過ごした日々は今も暖かく鮮明に残り続けている。


 彼女が大好きだった食べ物をお供えし、好きだったぬいぐるみを一時的に置き、線香を立てた。


 俺たちはひとしきり墓参りを終わらせると、彼女との約束を果たすべく行動を開始する。


 友人は撮影を継続していたカメラを彼女の真正面に設置し、俺たちは彼女の両隣に並ぶ。


 墓地で撮影するのはとても不謹慎だけど、俺たちには関係のないこと。


 これは俺たちと彼女との約束なのだ。誰がなんと言おうとも約束を果たす。


 大切な友との約束なのだから。


 配置が完了すると、リーダーである俺が合図を出す。


 せーの――


『〝夏雲のスイートピー〟! 全員集合ォォォォォォォォ!」


『『『『『『『『イエェェェェェェーイッ』』』』』』』』 


 俺たちは盛大に盛り上がった。


 思い出を語り、彼女がいかに凄かったかをカメラに向けて語った。


 泣く友人もいたし、俺も泣きそうになった。


 満足するまで語り合った俺たちは一枚の記念写真を撮った。


 撮影を終わらせ、小柄な少女……彼女の妹にお礼を言った。


 撤退しようと後片付けをしていると、写真を撮っていた友人が大声で叫んだ。


 びっくりして駆け寄ると、友人は慌てて俺たちに一枚の写真を見せてくる。


 先程の集合写真だった。だけどそこには、いるはずのない彼女の姿があった。


 俺たちの間、墓の真ん中に座って、笑顔を見える彼女の姿があった。


 「まったく、相変わらず目立ちたがり屋だな」


 と呆れて笑う俺に続いて、友人たちも笑った。


 墓地を立ち去る際、別れを惜しむかのように彼女に振り返る俺たち。


「また来る」と言い、自分たちの日常に戻っていく。


 いつか、俺たちにも別れがやってくるだろう。


 それは唐突かもしれないし、緩々としているかもしれない。


 いつかその日が来るまで、俺たちは変わらずに馬鹿をやっていくだろう。


 彼女とともにしてきたように、ずっと、ずっと――


 まあ、先のことを考えても仕方がない。


 その日が来るまで、俺たちは何度だって会いにくるさ。


 俺たち〝夏雲のスイートピー〟は君が俺たちをまた一つにしてくれた英雄なのだから。


 たとえ、約束でもなくともな。


 瞬間、後ろから彼女のくすり笑いが聞えた気がした。


 振り返ってみるも、そこには誰もいない。


 呆然と立ち尽くす俺に、友人たちは声をかけてきた。


 我に返った俺は彼女に軽く手を振り、友人の元へ走っていくのだった。

 



読んでくださりありがとうございます。



いつかこの作品が日の出を浴びる時が来たら、少年少女たちのひと夏の思い出を語ろうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ