5. 桜
教室には、一人の女の子が座っていた。
霊界では見たことのない、顔立ち。
でも、私にはわかる。
彼女はすごく、すごく綺麗な人だということが。
容姿だけではない、仕草もお姫様のように……
訳もないのになぜかめちゃ緊張してる……それでも、私は自分の席を探してみた。
えーと、机の上に名前が書いてあるはずだから、探せば良いよね……?
「……」名前は無事に見つけましたけど……
あの女の子の前の席だ……
よし、とりあえず座ろうかな……?
「……」
なんか、空気が重く感じる……
ふと、後ろから声が聞こえた。
思わず振り向くと、その子はなぜか笑った。
「ϑͰ∐ Ἶæȵ❢⌥ ℰƤℵℽ」
な、何か言っているのが分からない……
とっさに私は一つのごとが思い浮かんだ。
霊界の人、じゃない……?
「あ、あの……私が言ってる言葉、わかりますか?」
「ἾæℵℽϑͰ」
言葉はまだ分からないけど、彼女は頷いたから、わかる……って事なのかな?
私はポケットからある物を渡した。
「これは翻訳効果のある飴だから、食べてください。」
翻訳効果の飴は、お母さんが持ったせてくれたもの。よかった……
「ℵℽæȵͰ」
ありがとう……って言ってる気がする。
「えーと、」名前は中原桜だから、「中原さん、話してみて。」
「ありがとう!」
お……!分かった!
「いえいえ、私はただ……」
「それでもありがとう!私、中原桜です!あなたの名前は?」
「ア、アヤメです。よろしくお願いします。」
「はあ〜やっと私の話が分かってくれる人が居たー」
え、え?!
「中原桜さんは、今まで他の人たちと話した事ないの?」
「うん、その通り!ここに来てからあんまり話してないのよねー」中原さんはちょっと怒ったフリして、「話しても、『君は話さない方が良いね』って言われた……あとさくらちゃんで良いよ!」
「さ、さくらちゃんは、この世界の人じゃないの?」
「そうだよ!」あっさりすごいこと言っちゃったけど……
「ここは、霊界っていうんだけ?お父さんからよると、私たちの世界は零域って呼ばれてるみたいだよ!」
零域の人間……!
零域の人間の人は、妖精みたいに苗字があるって聞いたけど、本当なんだ……
じゃあ中原は苗字ってこと?
「アヤメちゃん?どうしたの?」
「な、なんでもないです!ただ苗字のことで驚いただけです……」
「そういえばこっちの人間は苗字がないって先輩が言っていたわね。嘘だと思ったけど、本当なんだ。なんで苗字がないの?」
「私も分からないです……」
「でも私は呼び捨ての方が好きだから別に良いけどね。それより、先の飴は一体どうやって……?」
あ、先の翻訳効果のある飴のことかな……?
「私の母は予知の魔法が得意だから、私が家を出る時にに渡してくれたんです。」
「予知!未来が見えるってことだよね!なんかかっこいい!」
「うん。でも見れるのはせいぜい1日だけだから、重大なことの予知とかはできないみたいです。」でも、私にとってお母さんは凄い人なんです!
「それでも凄いだよ!うちのお父さんは戦う以外のこと、分からないから……」
戦う……?零域にも戦争があるんだ……
「実はね、アヤメちゃんにお願いがあるんだ!」
「な、なんでしょうか?」答えられると良いけど……
「こっちの言語、教えて欲しい!」
こっちの言語……あ、心語の事かも。
「うん、良いよ。」
「よろしくお願いします!!」
心語を教えるのって、初めてかも……
「霊界の遠い昔はね、妖精も人間も違う言語を使っていたんだよ。」
「でもある人が、心語っていう物を発見したの。」
「それは、心を込めて伝える事。」
「心を込めて伝えれば、どんな相手だろうと、分かるはずです。」
「心語の原理はわからないけど、今私がこうしてさくらちゃんと話してるのも心語のおかげです。」
上手く話せたのかな……?
「なんか、アヤメちゃんの声を聞くと落ち着くんだよね。使ってる言葉も難しくないから、理解したよ!ありがとう。」
「……どういたしまして。」こうして言われると、すごく嬉しい……!
「心を込めて、だね。なんか言霊みたい。」言霊……?
「そう言えばさくらちゃんは、どうやってここへ来たの?」思わず聞いちゃったけど、大丈夫かな……?
零域から霊界に来るには、凄い数の精霊が必要って、お母さんから聞いていた。
私も一度だけ行ったことあるけど、もう覚えてないんだよね。
「なんか、お父さんと知らない人が居て、よく分からない絵を書いて、ぽしゃーと来たよ!」
「ぽしゃーってなんなの?」私は、思わず笑った。
「もう、笑わないで!とにかく凄いことが起きて、私はここに来たんだよ!」
ど、どうしよう……笑いが止まらない……
それからさくらちゃんも私の笑い声につられて、大笑いしてた。
……え?私たちは、いつの間にかこんなに仲良くなれたの?
こうやって笑ってたの、いつぶりだったのかな……?
「……さくらちゃん。」
「なに?」
「今言うのも変だけど、その……ありがとう。」