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未来視の少年と神託の神子  作者: 伊万里
第一章
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第7話 ギルド

 ギルド前での俺たちと男の戦闘(とはいってもラチラからの一方的なものであったが)を聞きつけて、ギルドの職員らしき女性がこちらへ走ってきた。


「ルドウィグさんがまた新人に対してちょっかいをかけていると聞いて来ました!新人の方は無事ですか!?」

「ヘルミナ、いつもの調子で絡んだらこのざまだよ。無傷のそいつらよりも死にかけた俺の事を労わってくれ。」


 ルドウィグと呼ばれた男の視線を追うようにヘルミナもこちらを向く。かなり驚いた表情をしているが、先ほどの様子から考えるにルドウィグがあしらわれた事が信じられないのだろう。


「驚きました… 腐ってもCランクの実力はあるルドウィグさんがこの子たちに…」

「やめとけ、お前も嬢ちゃんに燃やされるぞ。」

「これは失礼しました。私はボーチのギルド職員をしているヘルミナという者です。以後お見知りおきを。」

「俺はトロファ、こっちはラチラだ。」

「ヘルミナ、こいつらはギルドの修練場が使いたいそうだから手ばやく登録してやってくれ。」

「いや、俺たちは修練場を借りたかっただけだからギルドに登録するつもりは…」


 元々は約束の灯火の効果を確かめたかっただけなので、先ほどの戦闘で十分なまでにその力を知ったことからももう修練場を借りる必要はないのだが、約束の灯火の事は伏せておきたかった。それにラチラも人を殺そうとしてしまったというショックからまだ完全には立ち直ってはいない様子のため、早く立ち去りたいと思ってはいたが、上手く断る口実も思いつかずにしどろもどろな答えになってしまった。


「修練場を借りるには冒険者登録が必須ですよ!また、それ以外にも様々な特典がありますので是非登録しましょう!ささ、こちらへどうぞ!」


 …どうやら俺たちを逃がす気はないようだ。ルドウィグを負かしたというのが効いているようだ。どうにも大人しく付いていった方が手短に済みそうなので彼女に従う事にする。そう決めるやいなやラチラに小声で話しかけた。


「冒険者登録ってやつを済ませたら今日はもう宿に帰ろう。観光を続けるって気分でもないだろ?」

「…うん。」


 やはりまだ普段の調子には戻ってないようだ。悪い事に相手を殺そうとした魔法の威力ゆえにこんなに勧誘されているのだから、嫌でも意識してしまうだろう。これ以上ラチラの罪の意識を重くさせないためにも、出来るだけ興味の矛先を向けさせない方が良さそうだ。


「それじゃ登録させて貰うよ。ヘルミナさんだっけ、案内してもらえるかな。」

「はい!ではギルドの中へどうぞ!」


 ヘルミナさんについてギルドの中に入ると、好奇の目が俺たちを包み込む。


「あいつらがルドウィグを倒したって本当か?」

「まだ成人したばかりに見えるぞ…」

「女の子の方に至ってはまだ成人してないんじゃないか?」

「不意打ちでもしたんじゃないのか?」

「…それはむしろルドウィグの専売特許だろ…」


 などと口々に好き勝手なことを言うので、どうにも居心地が悪い。そんな俺たちとは対照的に、ヘルミナは有力な新人が来たという様子で機嫌が良さそうだ。


「それではこの書類に年齢と名前を書いてください!それでFランクの冒険者としての登録が完了になります。お二方とも実力をお持ちのようなので、いくつかクエストをこなしていただければすぐにでも上のランクに上がれると思いますよ!」


 先ほどの戦闘に全く関与していない俺までもが暴走したラチラと同等程度には戦えると思われているらしい。ここで否定したところで別に利点もなさそうだし、黙っておくのが良いだろう。俺たちは書類に記入し、ヘルミナに渡した。


「これで登録完了です。お二人には冒険者の証としてこの腕輪をお渡しします。」


 そう言ってヘルミナは2つの銅色の腕輪を渡してきた。なるほど、この腕輪をしていなかったからルドウィグに新人だと看過されて絡まれてしまった訳か。


「この腕輪をつけていれば他の街のギルドでもクエストを受注できますし、同様に修練場を使う事も出来ます。逆にこの腕輪を無くしてしまうと再発行は出来かねますのでご注意ください。」

「質問なんだが、他人の腕輪を奪い取って成り済ます、みたいな事は起こらないのか?」

「今までにそのような事が起こった事例はありませんので。それに、冒険者ならばそんな相手を返り討ちにするくらい当然ですから。」

「…それもそうだな。」


 そう言ってにこやかな笑みを浮かべるヘルミナさんには言いようのない恐怖を感じた。実際、冒険者という荒くれどもを制御しなければならない仕事だ、かなりの場数は踏んでいるのだろう。


「登録も済んだし、今日はこの辺で帰らせて貰うよ。」

「え?クエストを受注していただく…まではいかなくとも修練場を利用されるのではなかったのですか?」

「見ての通りラチラの調子が良くないみたいだからさ、日を改めさせてもらおうかと思って、ね。」


 俺の言葉にラチラも静かに頷く。


「そうですか…。ではまた是非とも後日お越しください。」

「悪いね。そうさせて貰うよ。」


 受付でのやり取りを終えた俺たちは、相変わらずの好奇の目に晒されながらギルドを後にした。


 宿への帰り道、俺値はしばらく無言で歩いていたが、ラチラが急に立ち止まり静かに話し始めた。


「…トロ君、今日の事なんだけどさ。」

「急にどうしたんだ?」

約束の灯火(アリス・リング)の力だっていう事は分かっているんだけど、怒りを抑えきれなかったんだよ?それで、目の前が真っ赤になったと思ったら、知らないはずの魔法を使ってた。相手は魔物じゃなくて人間だっていうのにね…。」

「やっぱり、その指輪の力で強力な魔法が使えてたんだな。」

「…正確には約束の灯火(アリス・リング)は持ち主の感情が昂るに伴ってマナを増大させるそうなんだけど、そのマナに中てられると怒りが抑えきれなくなっちゃうみたいなの。アリスから細かい注意は聞いていたんだけど、私には制御出来なかったみたい……。」

「でもさ、結果的にはルドウィグは死ななかっただろ?俺の言う事は素直に聞いてくれたじゃないか。」

「それはだって、トロ君のいう事だから…」

「なら、俺がラチラを抑えればいいじゃないか。取り返せない過ちを犯す前にさ。だから、もう、気に病むなよ。」

「うん、ありがとう、トロ君。そうだよね、隣にトロ君がいてくれるなら大丈夫、なのかな。それじゃあさ、私が過ちを犯さないように、ずっと、私の隣にいてね。」

「ああ、勿論だ。」


 二度と約束の灯火(アリス・リング)を身につけなければ良いじゃないか、というのも一つの答えかもしれないが俺はそうは言わなかった。だってそれは、自分が抑えられないという恐怖から逃げているだけじゃないか。それでは何も乗り越えられない。二人だから、俺が支えているからこそできる解決策をラチラに示したかったのだ。


「それじゃあ山猫の休息亭まで帰ろう。暖かいご飯が俺たちを待ってる。」

「ふふ、そうだね。今日は何が出るか楽しみだね。」


 改めて旅の始まりを噛みしめるかのように、俺たちは再び宿に向かって歩きだした。


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