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未来視の少年と神託の神子  作者: 伊万里
第一章
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第1話 神託

 ―――永い眠りについていた私を暖かい光が包み込むのを感じた。誰かの驚いた声を聴くと同時に、私は()()()()()()()()


 大陸の東端に位置するこの村には過去の大文明の遺跡(と言われている)があるが、特に整備されるわけでもなく放置されているので、大人達には危険だから近づくなと言われている。とはいえ子供の好奇心がそんな忠告のみで抑えられるわけもなく、機会を伺っていた俺たちにようやくその機会が訪れたという訳だった。


「トロ君、そろそろ見えてきたよ」

「ああ、父さん達の目を盗むのは大変だったけど、ようやくここまで来れたな」 


 俺の隣を歩くのは幼馴染のラチラだ。結い上げたベージュのサイドテールが歩くのに合わせて揺れ、体に当たってくるのが少々鬱陶しい。

 目の前では森が開け、まるで周囲とはそぐわない古びた神殿が日差しに当たって輝いている、荘厳な様子が広がっている。


「初めて見たけど、大文明の遺跡っていうのは嘘じゃないかもなぁ」

「そうだね~ 中はどうなっているんだろ?って、あれ?」

「…これどこから入るんだ?」


 俺たちが困惑しているのは、その遺跡らしきものに入口が見つからないからである。前面に何かを嵌めるような窪みはあるが、それだけだ。また、遺跡の全景を改めて見ると塔の先端だけが地面から生えているように見えなくもない。


「入れないなら仕方ないよね…帰る?」


 そうラチラに尋ねられた時である。俺の頭にイメージが流れ込んできた。


 -「きゃっ」

 ラチラが何かに躓いて転び、可愛らしい声を上げる。

「まったく、お前は相変わらずドジだな…」

「ちょっとは心配して欲しいよ…もう…」


 頬をむくれされたラチラが答える。と、立ち上がろうとして地面に手をついたラチラが何かに気づいた。


「トロ君、この変な色の石、さっきの窪みにはまりそうじゃない?」


 どうやら転げた拍子に地面の土の一部がえぐれ、埋まっていた妙な形の石が露出したらしい-


 意識が現実に帰ってくると、呆れたような顔のラチラがこっちを向いていた。俺は思ったよりも長い間ぼーっとしていたらしい。


「急に立ち止まるなんて危ないよ。どうしたの?」

「ラチラ、俺はよそ見しながら歩く方が危ないと思うぞ。」

「えっ?…きゃっ!?」


 俺が注意したのとほぼ同時にラチラが何かに躓いて転げた。要するに、先ほど見た光景が再現されたわけだ。


 俺、トロファには未来視の能力があるが、この事は誰にも言っていない。というのも嘘つき呼ばわりされるであろう事が容易に想像できるし、何より任意に未来が見られる便利な能力という訳ではないからである。望む望まないに拘わらず、数秒先から数分先といった少し先の映像が突然頭に流れ込んでくるのだ。


 この世界には神子という普通の魔法では考えられないような理外の力を持った者たちがおり俺もそのうちの一人だと言いたいところだが、神子が生まれるときの特徴が俺には無かった。村の中という狭い世界の中では神子以外に特殊な力を持った存在というのは聞いたこともないが、もしかしたら広大な外の世界にはいるのかもしれないと思っている。 


 ラチラを見ると先ほど見つけた妙な形の石を手に持ち、壁に嵌まるかどうか興味津々なようだった。折角見つかった手がかりかもしれない物を見逃す訳もなく、俺はラチラに石が嵌るかどうか試すように促した。ラチラが頷いて、神妙な顔で妙な形の石を壁に嵌めた時である。鮮烈な光が迸った。視界が白く染まる。


「うわぁっ!?」「きゃっ!」


 俺とラチラは情けない声を上げると何かの圧力で吹き飛ばされたように尻もちをついた。しばらく経つと光は収まり、先ほどまでと同様の様子で神殿が佇んでいる。周囲を窺ってみるが壁が開いて中に入れるようになった、という訳ではなさそうだ。アテが外れて興が覚めてしまった俺は立ち上がると、ラチラに帰宅を促すことにした。


「…中には入れないみたいだな、ラチラ、帰ろうぜ。」


 しかし返事はない。ラチラに目を向けると何故か俯いて耳を塞ぎ震えている。何やら様子がおかしい。


「…誰!?誰なの!?私に話しかけるのはやめて!!!」

「ラチラ!落ち着け!ここには俺しかいない!ラチラ!!」

「嫌!!話しかけないで!嫌ぁ!!!」


 何とかラチラを落ち着かせようと肩を揺さぶってみるが余計に錯乱するばかりだったが、ラチラを抱きしめ背中を撫でるとようやく落ち着いてきたようだった。


「……トロ? この暖かくて落ち着く感じ、トロだよね?今はもう大丈夫みたいだけど、私、さっきの光が消えてから急に誰かの話し声が聞こえるようになって何だか気持ち悪いの…」

「どういうことだ?俺には何も聞こえないのに…」


 俺たちが話していると、遠くから父さんたちが慌てて走ってくる様子が見えた。やばい、逃げないと、とは思うがラチラを置いていくわけにはいかないのでおとなしく叱られることにしようと、観念したのだった。


「トロファ!ラチラ!さっきの光はお前たちが!?」

「…そうだよ。ダメって言われていたのに遺跡に行ってごめんなさい…」

「ただ遺跡に辿りついただけなら良かったんだがなぁ… あの天に昇る光は”神光”と言って新たな神子が誕生する時に現れる現象なんだが、遺跡で何があったんだ?」


 どうやらラチラは父さん達に話せるほど落ち着いていないようなので、俺が答える。


「ラチラが遺跡の壁の窪みに嵌まりそうな形の石を見つけたから、それを嵌めてみたんだ。そうしたら視界が真っ白になった。あの光が神子が生まれる時の特徴って事なんだな…」

「そうだ。そして、新たな神子が生まれたならば王都の協会まで洗礼を受けに行かねばならん。お前たち、今までと変わった事はないか?」


 父さんにそう尋ねられると、俺は俯いて黙っているラチラに目を向けてしまった。


「…そうか、ラチラには思い当たることがあるんだな。」


 ラチラはびくっと肩を震わせると顔を上げ、恐る恐る話し始めた。


「…あの光が収まった後からいないはずの人の声が聞こえてくるようになったの。大勢に囲まれて一斉に話しかけられているみたいで気持ち悪くて…」

「いないはずの人の声が聞こえる?具体的な事は分からないがそれがラチラが授かった神託(ギフト)という訳か。」

「そうなんだ…そんな力、私は欲しくないのに… でも、王都に行かないといけないんだよね?」

「そうだ。王都で受ける洗礼っていうのは特別な儀式を行う訳ではなくて、こういう能力を持った神子がいるっていう登録の事なんだ。なんでも大昔に”傾国の神子”っていう一国を滅ぼしかねない力を持った神子が存在したために生まれた制度だそうだ。まさか”いないはずの人の声が聞こえる力”だけで国が滅びるなんて事はないだろうし、そんな深刻そうな顔をしなくても大丈夫だろう。ただ王都に行って帰ってくるだけさ。」


 途中から不安そうな表情になったラチラを安心させるためか、父さんは表情を柔らかくしていた。しかし、傾国の神子とはまた大層な名前の神子がいたものだ。王都へ行くのもここの村のような僻地から向かうと時間がかなり取られてしまうし、その一人のためにわざわざこのような手間がかかる制度が生まれてしまったと考えると実に迷惑なものである。と、俺はここで良い事を思いついたので父さんに顔を向けた。


「父さん、俺がラチラを王都まで連れて行くよ。ラチラが神子になったのは俺が遺跡まで連れて行ったせいでもあるし、それに王都まで行く機会なんて滅多にないから興味あるしね。」

「……全くお前は、せめて本音は心の中だけに留めておけ。とはいえラチラを一人で行かせる訳にはいかんし仕方ないか。」

「それじゃあ決まりって事でいいよね。出発は早い方がいいだろうし明日とかかな」


 父さんは呆れたような顔で俺の方を見る。


「お前はそれでいいかもしれないが、ラチラは準備もあるだろうしそうもいかんだろう。」

「いいえ、私も明日出発で大丈夫です。トロ君が一緒に行ってくれるなら両親も納得してくれると思います。」


 ラチラは先ほどとは異なって落ち着いた様子だ。しかし、俺が一緒なら大丈夫とは嬉しい事を言ってくれるものだ。ただそんなに信頼があるというのは本当なのか、と疑わしい気持ちもある。昔から大人のいう事を聞かず悪ガキとして好き放題していたし、仕方のない事ではあるが。


 俺たちが父さんに連れられるようにして村に帰ると、心配そうな表情をしたラチラの両親とは対照的に、母さんが鬼のような形相で俺を待ち構えていた…

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