8 END1
ねばり強くしりとりを続ける。
それしか活路は無い。
根気よくチャンスを待ち、しりとりを続けた。
やりとりが200を超えた頃、生活に必要なものはほとんど揃っていた。
500を超えると、むしろ快適にすら感じてきた。
1000を超えると、それが当たり前だと感じるようになった。
いまやトーク履歴をスクロールしても、いつまでたってもスタート地点まで辿り着かないほどになった。
心配していた猛獣の件だが、『けんじゅう』で実弾入りの拳銃が手に入ったので、アリゲーターなども問題なく射殺できる。
死体は『ごみばこ』に放り込んでおけば勝手に消えるし、食料もずいぶん溜まっている。
しばらくは食うに困ることはないだろう。
『おかね』でアタッシュケース一杯の万札が出てきたが、そちらのほうが使い道がなくて困るくらいだ。
イスやソファー、机にランプと、ちょっとした書斎気分で、殺風景を気にする必要もない。
せっかくなら観葉植物がほしいところだが、これはうまく行っていない。
マチコのボキャブラリーにない言葉なのかもしれないが。
バレーボールやバスケットボールなどスポーツ用品もあるが、こちらはそんなに使わない。
趣味はもっぱらしりとりとなっていた。
もはやしりとりは、呼吸に近い存在だった。
ところが、終焉は唐突に訪れる。
マチコからの返答が急に途絶えたのだ。
なんてことだ。
オレの唯一のコミュニケーション相手(猫を除けば)であり、しりとりはライフワークだというのに、それが途絶えてしまった。
数分すら持たなかった。
心臓がバクバクと鳴る。
指先が震える。
汗が噴き出る。
過呼吸になる。
まるで空気を奪われたように不安になる。
だが、画面をいくら見返しても、マチコからのトークはない。
なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
机や椅子を叩きつけても何も変わらない。
気が狂ったように暴れ回ったあと、ふとあることを思いついた。
マチコ以外に、しりとりしてくれる人はいるんじゃないか?
新しいトークグループを作れるんじゃないだろうか?
そう思ってグループを作成してみると、あっけなくそれが出来た。
しかし、空のグループだけあっても仕方ない。
どうするか?
その答えは知っていた。
『いのち』。
そう書き込むと、反応する人が現れた。
ああよかった。
そういうことか。
マチコは、オレだ。
待ち子だ。
ははははははは。
さぁ、しりとりをしよう。
マチコEND