5.×共同研究者 ○実験動物
フォルスがニコを引き取ると言い出したときは、当然だが揉めた。
今思えば機関側は必死で保護しようとしてくれていたのだが、当時やさぐれていたニコはあっさりと彼の手を取ってしまった。
結果フォルスは名実共に彼女を手に入れ、ニコの帰る場所は彼になった。
そしてその後は貰うとの言葉通り、一度自身を投げ出した相手を、彼はそれはそれはよく使った。
ニコもそれなりに彼の手伝いをしていたものの、フォルスが求めるのは基本的には彼女の身体だった。
深い意味は全くなく、研究の上で貴重な個体として。
研究開始当初、フォルスはニコの現状把握から開始した。
身体的特徴や健康状態を記録することは勿論、彼女の生活習慣や嗜好、心理状態に至るまで。共に暮らしているという利点を最大限に生かし、フォルスは数か月に渡りニコを観察し記録し続けた。
これにより、彼は彼女の異常に関していくつか気になる点を見つけたらしいのだが、変質者になれる勢いで自身のことを知っていくフォルスを見て、ニコは冷静にやばい人だと理解した。
検証や実験に移ってみれば、彼の仕様は他の研究者達が採った方法よりも遥かに細かく――もっと言えばしつこかった。
今までとは比にならない扱いもあったが、一切の妥協をしないフォルスに従い、ニコはその全てに応えた。
そしてそれを五年も続けるうち――――気づけばニコは対フォルス限定で、露出に対する抵抗感を完全に消失してしまっていた。
年頃の女子として、重大な副作用だ。
ニコを『欠陥品の子』や『実験動物』と揶揄を交えて呼んでいた周囲は、あまりの扱いに激しく同情し、いつの間にやらきちんと名前を呼ぶようになっていた。
未だに当時の呼称で呼ばれることもあるが、ニコとしては呼び方で周囲の人間を分類できるのでむしろ助かるくらいである。
あからさまな敵意より、潜む悪意の方が何倍も面倒なのだ。
話は逸れるが、ニコの方も実験動物らしくフォルスの事をご主人様と呼んだのだが、なぜか彼からは師匠と呼べと返ってきた。
魔法使いに徒弟制度はない。
フォルスの思考は測るだけ無駄だとニコは諦めた。
「おい、そろそろ行くぞ」
回想に耽っていたニコに、フォルスの焦れたような声が掛かる。
時計を見ればそろそろ部屋を出るべき時刻になっていた。
「分かりました」
元々自分のためだ。
ニコは溜息をついて重い腰を上げ、茶器を盆にのせて部屋を出た。
片付けて戻れば、フォルスが魔法で部屋を施錠し終わったところで、ニコはそのまま歩き出した彼の後ろへと続く。
その途中で、フォルスは思い出したようにニコを振り返って口を開いた。
「あぁ、お前が気絶してる間も身体使うから」
当然というべきか、フォルスは気になった事を解決する上でも大いにニコを活用する。
ニコの身体は、魔素の取り込みを阻害している子供でも魔法が問題なく作動するか試すのに良い素材だ。
誰かの助けになるような魔法を考えてくれるのは良いのだが――。
「……せめて誰かが入って来ても問題ない格好にして扱って下さいね」
無駄かもしれないと思いつつも、彼女は自称師匠に念押しした。
ニコの成長に伴い本人も度々外野から注意されているのだが、フォルスは没頭するとすぐに周りが見えなくなる。
魔法を描くのに邪魔であれば、ニコを剥いておくくらいは普通にする。
そんな調子だからヘンタイだと言われるのだと、ニコはまた溜息をついた。
お読みいただき有難うございます。
多分、倫理的配慮とか同意書とか煩くない世界。




