6.類は友を呼ぶ、はじめはそう思った
西の地方に、美しい色合いの染め物がある。
限られた地で育つ植物を原料に、地元の職人が伝統の技法でふたつとないものを造り出す。
そんな布を世に持ち出したのは、職人でも組合でもなく一人の商人だった。
彼はその色彩が広まるのと同じようにして店を広げ、今や子供から大人まで、庶民から富裕層まで、あらゆる人の美に関わる品を扱う大商会へと成長した。
フォルスの義妹メルは、そんな商会『ハルカ』の娘である。
お金を増やすのが三度の飯より大好きで、稼ぐためなら恋人すらも手足として使ってしまえる――素敵な性格の女性だ。
そしてその父ティエンは言わずもがな商会長で、フォルスの親になるわけだが。
(……中々独特な関係、なんですよね……)
義理とついている時点で察しはつくが、フォルスと彼らの間に血の繋がりはない。
昔々物心つく前に事故で両親を亡くした主は、偏屈な祖父の元で伸び伸びと育ったそうだ。
だがある日そのくそジジイが病に懸かり、彼は薬を求めてとある植物を探し始めた。
誰も知らない記憶をもとに、人にも文字にも尋ねて過ごす。そして日が経ち、フォルスは地元の染めの原料へと辿り着いた。
これでどうか――。
そう思った主だったが、今度は飯の種を守らんとする職人が彼の前に立ち塞がった。
まぁ聞いたこともない薬を作るとなれば、怪しさしか存在しないので当然といえるだろう。
ところがまだ若かった主は短気を起こし、職人の信頼厚い店の扉を蹴破ってこんな取引を持ちかけた。
『俺の頭にはお前等の知らないことが山程ある。教える代わりに望むものを今すぐ寄越せ』
――大概、生意気だ。
傍に自分が居れば、うっかり頭を叩くかもしれない。
だがそんな若干十歳程度の子供の戯言を、ティエンは怒りもせずによく聞いた。だからこそ成功したとも言えるのだが――何せこんな耳を疑うような始まりらしい。
因みに主から昔話を聞いた時は、間にもっと暴言が挟まっていた。
あまりの言い様に閉口したが、それだけ主が彼らを慕っているのだとも理解した。そうでなくては、薬が要らなくなった時にどの縁も切れ、親子関係に繋がったりしないはずだ。
「ティエン様は残念がるでしょうね」
王都にある娘の城は支部でしかない。商会主は西の本拠地に収まっていた。
「あんな奴、田舎に引きこもってればいいんだ」
素っ気なく言う主に、ニコは少しだけ笑った。
「分かりました。気を付けます」
明日の検証は延期だろう。全力で魔法を使えず、惜しい気持ちがなくはない。
だがそれは、主がいればいつだって出来ることだ。
眠り続け、久々の再会を妨げるような真似はしないようにしよう。
珍しく暖かな気持ちでそう決めた。
読んで頂き感謝です(。-人-。)
ほんと、ご無沙汰しております……!




