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私とお師匠様との研究記録  作者: やなぎ いつみ
研究成果報告書
18/64

3.そういう種も蒔いていた

 

 疲れきった上司を満足そうに眺め、フォルスはさて、と背凭れから身を起こした。


「ご用がそれだけでしたら、もう帰りますね」

「ちょっと待ちなさい。本題がまだだから」

「何ですか? 印の公開ならお断りですよ」


 用件を聞く前から切り捨てる部下に、ディレクが額に手を当てた。


「少しはこちらに話させる気はないのかい……」

「何度も言いましたから。もう一人くらい同じ症例があれば、登録を検討するという約束でした。その理由も……忘れたとは言わせませんが」


 退路を絶つのは主の常套手段だが、否定を封じる物言いは少し強い。

 人を食ったような笑みは変わらないものの――。


(……、機嫌が、悪いですね……)


 印のことを尋ねられた時から、本題は分かっていたのだろう。


 欠陥品が存在することは、箝口令により機関と一部の人間しか知らない。

 だがフォルスが作った魔法が広まれば、ニコの背景を察する人間が増え、また面倒なことになる。


 その事態を、主は欠陥品が憂う以上に不愉快に思っているらしい。


 漂い始めた冷気を受けて、ディレクが渋い顔をしつつも口を開いた。


「分かっているよ……。だが上の考えが変わってね。対応策に大きな問題がないのなら、公表して情報を集めた方が()()()なのではないか、と」

「……ふぅん、成程。つまり新たな魔法で余所に見栄を張りつつ、そろそろ俺には別な研究もさせようと」

「……そういう考えも、なくはないだろうが……」


 得るものもあるはずだから、と食い下がる彼は、その利と対価が釣り合わない可能性も十分理解しているのだ。

 その証拠に浮かぬ顔つきがより一層、曇りを見せる。


 だがフォルスは、そんな上司を逃したりはしなかった。

 軽く笑い、ええ、と頷く。


「そうかもしれませんね。それで貴方がたの期待通り、これは立派な見世物として活躍するわけだ」



 ――その瞬間、ニコは主の裾を摘まんで引いた。


 今のは流石に辛辣すぎて、ディレクに申し訳ない。

 恐らくこれは、彼が折衝しようにも――もう『上』の間で決定していたことなのだ。

 

 

 機関に幾らの予算を投じるかを決める偉い方々は、研究者達の造り上げた魔法に対し、有用性に応じた対価を払って運用していくのが仕事だ。

 大衆に普及させるか、有事の際の切り札として保管するか等、判断は情勢によって変わるが、何せ優れた魔法が多くあるほど他国との関係で有利に立てる。


 普通を超える研究者に期待をかけるのも、やむを得ない事だろう。


「……申し訳ない。不利益が起こらないよう、被験者の保護は徹底する」


 約束と共に告げられた、深い謝罪。

 やはりこれが、覆せない『命令』なのだと知らされる。


 自由な研究者からすれば、こんな気に食わないしがらみなど捨て去りたいところだろうが――。

 

 そっと、主の横顔を伺う。

 飴色の見つめる先を思い、ニコは大人しく瞬いた。

 

 すると一呼吸の後、主の口から、はぁぁ、という大きな溜息が吐き出される。


「……何をどうするのかと詳しく抉ってやりたいところですが……分かりました」


 そう言って、顔をあげた彼は無駄に爽やかに微笑んだ。


「代わりに希望を聞いてくれますよね」

「……何を、すればいいんだい」

「そうですね……いくつか候補があるんですが、また今度お願いにきます。今から最優先でやることが出来ましたので」


 なんだと瞬く上司に、フォルスはそれはそれは楽しそうな表情を見せた。


「弟子が構って欲しがっていたのを失念していました。早々にこの場を辞して、満足するまで相手をしてやろうと思います」


 咄嗟に、服を掴んでいた手を引いた。

 ニコのその行動が遅すぎたのは、言うまでもなかった。








お越し頂きありがとうございます!

状況説明回が続く癖に、忘れた頃に現れるという申し訳なさです(´`;)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです! フォルスさまと上司さんのドキドキの会話から別のドキドキ?展開になりそうな予感でにやにやしております!
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