1.何事においても身体は資本
よく晴れた昼下がり、ある一室で一人の男が机に向かっていた。
年代物の家具のような深みのある焦茶色の髪を持ち、飴色の瞳は生き生きとして好奇心に満ちている。
一心不乱に書き物を続ける彼の様子に溜息をついたのは、室内を片付けていた少女だった。
湖を思わせる透き通った水色の瞳に長い睫毛、華奢な肢体は一級品の人形のようだ。そんな容姿に似合わず、薄い金色の髪はぞんざいに纏められていて、結い損なったらしい毛がその背で揺れた。
少女は改めて時計を見て、そろそろ限界だと感じた。
ワンピースの裾を翻し、部屋を出て別室で湯を沸かす。軽食と茶を淹れて戻っても相変わらず顔を上げることもしない男を見やり、彼女は茶器をテーブルに載せて息をついた。
そうして苦しげに零す。
「お師匠様、胸が熱いです」
少女の訴えに、男はようやく顔を上げた。
少し遅め昼食を用意する彼女を見て時刻を察し、笑みを浮かべて口を開く。
「この後もっと熱くなってもらう。今日は意識が飛ぶまでやるからな」
簡単に言ってくれる。
思わず苦い顔になりつつ、少女――ニコは楽し気な男を放置して先に腹ごしらえを始めた。
この後のことを思うと気が重いが、食べないと体力が持たない。
「……楽しそうで何よりです」
ニコが溜息をつきつつ返せば、男――フォルスは機嫌よく机の上を片付け始めた。
「当たり前だろ。分かってると思うが、剥かれたくなかったら自分で脱げよ」
「本当に、お師匠様はヘンタイだなって思います」
「それでもお前は離れる気がないと」
満足そうに言いつつ、フォルスは作業していた机を離れて、ニコが準備した軽食を摘まんだ。
その行動に彼女の眉間に皺が寄る。
「ちゃんと手を綺麗にしてください。身体に悪いですよ」
「へいへい」
適当な返事をし、フォルスは宙に指を滑らせた。
すると指先から淡く輝く軌跡が伸び、飴色の模様を描き出す。出来たそれを円で閉じ、軽く触れると薄い光が彼の手を包んで儚く消えた。
それと共に一瞬でインクの汚れが無くなる。浄化の魔法だ。
(……綺麗)
何だかんだ言いつつ、ニコは彼の使う力にずっと魅せられていた。
そのせいで、彼女はフォルスの言う通り彼から離れられない。ニコが求めるものを与えられるのは、彼だけだからだ。
手軽で栄養価の高い軽食は、興味あるもの以外は適当なフォルスのためにニコがわざわざ用意したものだ。
それを自身も齧りつつ、ニコは世の中の不条理さを呪った。
お読みいただき有難うございます。m(__)m
女子の胸を身体的に、そして心理的に焦がしたいというアレな希望で生まれたお話。
どうやら自分は拾われ系尽くし女子が好きなようです。






