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さなかが滞在している場所は秘匿情報で、知っているのはさなかと“黒”を除けばダヴィッドと、実際に手配をした数人の機構のスタッフくらいだろう。だからハルカも勿論、知り得ようがなかった。にもかかわらずこうしてさなかの居室へ向かっているのは、単純に、さなかが連絡を取ってきた際、躊躇いなく教えてきたからだ。信用、と捉えればいいのだろうが、しかし、

 ……少し、無警戒すぎますわね。

 ハルカ自身にその気はなくとも、情報はどこから漏洩するかわからないのだ。さなかや、ハルカの端末がハッキングされ、データを盗まれる可能性もある。あるいは内通者が――ハルカの関係者、例えば護衛のシエルなどが盗み見て、漏らす危険だってある。さらに言えば、チャットアプリだけではなく、仮にこれを電話でやり取りしたとしても同様だ。盗聴など、だれがどこから仕掛けているのか知れたものではない。

 ……その辺り、余計なお世話だとしても言及しておく必要があるでしょう。

 そういった行動が、ひいては信用の獲得にも繋がるだろう。というか、

 ……あの護衛。

 さなかの護衛。何者なのかはわからない。ハルカは財界においてはトップレベルに位置するが、自身が闇稼業にまで精通しているわけではない。けれども、ひとつははっきりしていることがある。

 ……腕前は超一流。

 日本の病院、由乃を救出するための戦闘で、二十人弱を相手取って圧倒するほどの実力。あの戦闘の全てを見ていたわけではないが、最後の乱戦を見るだけでも充分にわかる。シエルもまた同じ見解だ。

 只者ではない。あるいは、その筋では有名な何者かなのかもしれない。しかしそれほどの人物が、こんな安易な連絡法を許すだろうか。

 ……いろいろと、もう少し踏み込んだお話がしてみたいものですわね。

 急がず焦らず、しかし着実に。

 肝要なのは機を見ることだ。他の何を誤っても、これだけは誤ってはならない。

「……さて、着きましたわ。ここですわね」

 エレベーターで長々と上がったフロア、その大部分を占める一室。いや、中は一室ではないのだろうが。

 シエルに目配せする。連れているハルカの護衛はシエルだけだ。目立たず、身軽に動くには、最も信頼のおける護衛ひとりのみを連れている方がよい。だが万が一ということもある。無警戒に扉を叩くようなことはしない。

「では、行きましょうか」

 にこやかに、ハルカは言う。頷いて、シエルは静かに三度、ノックした。

 数秒、ロックの解除される音が小さく鳴り、無造作に扉が開けられた。

「――お待ちしておりました。どうぞ」

 無表情なまま、部屋へ上がるよう不愛想に手で促したのはやはり“黒”だ。ありがとう、と会釈してシエルとともに部屋に入る。まずはリビングルームまでの短い廊下だ。数歩を歩き、顔を出す。

「――あら」

「おっと、もう30分経った? これは、無作法で失敬」

 ズゾゾゾゾ、と。

 上品なテーブルで、ちょっと上品とは言い難い勢いで白い太麺を啜るさなかが、そこにいた。


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