2.Good morning, Girl?
音そのものは、けたたましく打ち鳴らされる古式ゆかしい目覚まし時計のそれだったが、音を発しているのは目覚まし時計ではなく、ベッド横のサイドテーブルに放り出されたスマートフォンだ。画面いっぱいに時刻と『バカヤロー! 目を覚ませ!』を表示したスマートフォンは、音のみならず全身を激しく振動させて主を目覚めさせんと頑張っている。
しかし主の反応は鈍い。
鳴り始めて二分、ようやく布団がもぞもぞと動き始め、ぬ、と隙間から腕が生えた。腕は出てきて十秒ほど力なく垂れさがっていたが、やがて探るように宙を彷徨い始める。左右を不規則に往復する指先が偶然サイドテーブルに触れたところでようやく音源の所在にたどり着く。
どうやら狙いを定めたらしい手は拳となり、すっと上がったかと思うと勢いよく振り下ろされた――床が鳴るほどの殴打によってアラームが停止する。腕は力を失ってずるりと垂れ下がり、静寂、布団が再び規則的な上下を始める。
と、まるでそれを見越していたかのように五分後再度アラームが暴れ始めた。どうやら相当頑丈な作りのようで、先の殴打で壊れるようなことはないらしい。窓を隔てた外で合唱していた小鳥たちが驚いて飛び去るほどの勢いに、さすがに悠長にしていられなくなったらしい布団が先程よりも大きくもぞもぞし始め、そして、
「ぬあ――――! うるっさぁ――――!」
布団を弾き飛ばした少女が黒髪を振り乱してサイドテーブルに飛びつき、スマートフォンを取り上げるとアラームを切る。その勢いのまま抜け目なく仕込まれていた残りのスヌーズも全てキャンセルする。
そこまでしてようやく静寂が取り戻されたが、しかし少女の眠気はすっかり吹き飛ばされていた。
「…………」
ベッドに座り、半目で外を見やる。カーテンが開け放たれているため、朝日がさんさんと差し込んでくる。
「……はあ。起きよ」
ぼりぼりと寝ぐせの立った頭を掻きつつ、吐息した少女はのっそりと立ち上がった。