19 国際遺産管理機構
「……で、つまるところ、国際遺産管理機構って何なの」
先のカーチェイスから数時間が経過した。現状、さなかと“黒”はふたりの目的地――その国際遺産管理機構の構内にある、来訪者用の宿泊施設の一室を宛がわれていた。宿泊施設とは言っても、今回のさなかのように、遺産相続で争いになった結果、逃げ込んでくる者もいるため、その避難シェルターとしての役割もあるらしい。
「いや、遺産相続で殺し合いになるとか、どういう世界なのよ」
「そういう世界なんですよ。あなたの生きてきた日常からは程遠いでしょうがね。この機構の取り扱う遺産とは、所謂世界遺産――史跡や無形文化遺産のようなものとは異なる、属人的な遺産のことです。とはいえまあ、勿論一般家庭で相続争いになるような規模の話ではありませんよ。民事訴訟で公正に裁定される次元の話ではなく、相続沙汰になった途端に暗殺者を差し向け合い、騙し合い、欺き合い、殺し合う、財界の中でも最も輝かしく最も煌やかで最も血に塗れた、そういう世界の話です」
「ヨハネス・グレゴールは、そういう次元の住人だったと?」
「ええ。それどころか筆頭も筆頭。誰もに知られ、誰もに恨まれている。何人を欺いたか知れず、何人を陥れたか知れず、何人を殺めたか知れない。それがゆえに、例え国家機関であっても遺産相続の監理を任せることはできず、国際機関へ委託していたわけです。あのエレオノールの当主も、ここへ登録しているはずですよ」
「血腥いのねえ………」
さなかは嫌そうな顔になるが、しかし自身もまたその血腥い世界に片足を踏み入れてしまっているらしいのは確かだ。何せ、さなかが名乗り、本人証明を示し、確認が取れた途端に銃口は下げられ、さながら国家の重鎮に対するかのように十人近い護衛に囲まれながら、機関の敷地内にある宿泊施設へ通されたのだから。それも五十階近い高さの建物の、最上階である。室内は、テレビで見たことがあるようなセレブのスイートルームか、それ以上に贅を尽くされた部屋だ。
「絵画やら花やら、あたしにすらわかるレベルでいちいち高級過ぎるのが鼻に付くわ……」
「あなたは庶民ですからね」「何だと」「この程度は、むしろ抑え目です」
何と言うこともないように”黒”は言う。“黒”も当然のように隣室を案内されていた。こういう部屋にはよく泊まるのだろうか。
「ヨハネス氏の護衛をしていた頃は、それなりに。まあベッドで寝たことはありませんがね。不寝番ですから」
「じゃあ、今夜からまたあんたは不寝番をやってくれるってわけね」
「実に寝心地のよさそうなベッドでした。今夜は夢も見ずに安眠できることでしょう」
「その隣室であたしが永眠することになったらどうしてくれるんだ」
ガルシアは、既に別れていた。さなかの身元確認が進む間に、“黒”がさっさとガルシアを送り出していた。
「報酬はすぐに送金しておくって言ってたけど、いつするの?」
「既に済ませましたよ。現代は、キャッシュを持ち歩く必要もなくなり手軽ですね。インターネットで数回スマホをタップするだけで数百万ドルもさくさく転がせます」
「そのドルはというと」「勿論、ヨハネス氏の遺産、あなたの資産からですよ」「……まあ、いいんだけどさ」
独占欲があるわけではない、ないが、そう我が物顔で右に左に転がされているのはやや面白くない。
「というか、そんなにあっさり送り出しちゃってよかったの? あの人、私を送り届けたってことで報復受けたりしないの?」
「彼もプロの運び屋であり、プレイヤーですから。仮に単身のところを襲撃されたとしても、簡単には死にませんよ。戦闘力ではなく、逃走力の点で、彼は業界随一です。それにそもそも、運び屋や暗殺者といったものは道具のようなもの。銃を撃った人間に復讐することはあっても、人間が撃った銃に復讐することはないでしょう」
「道具って……」
少しだけ顔をしかめるが、少しだけだ。言い方こそ人道道徳に欠けるようだが、そのニュアンスには妙に納得のいくところがあった。
「それがゆえに生じるバランスというものもあるのですよ。もし自分の仕事の邪魔をした、相手方のプレイヤーに報復を行おうとすれば、その依頼主は業界から報復されます。プレイヤーは協同せず、結託しませんが、プレイヤー個人を攻撃しようとする依頼主は業界にとって害悪でしかありませんからね。――まあ、例外はありますが」
ともあれ、と“黒”は言う。
「金さえあればどちらにでも与する。運び屋にせよ、殺し屋にせよ、また奪い屋や護り屋、他のいずれにしても、傭兵とは本質的にそういうものです。今回は誰よりも先んじて私が彼に金を積み、雇いましたが、今後他の誰かがガルシアを雇えば、彼は一切の手を抜かず、情状なく、あなたを攫いに来るでしょう。次会うときは敵かもしれない。そういうものです」
「成程ねえ」
言ってみた。言ってみただけだ。ロクでもない世界だなあ、というのが正直な気持ちだ。
ともあれ、現状、今すぐ誰かに襲われることはない、ということだろう。さなかの家からここまで来て、ようやく一息つけるというわけだ。
……家、か。
襲撃者によって蜂の巣にされ、“黒”によって爆壊された我が家を思う。もうあそこに戻ることはないのだろう。父親との思い出はそれほど多くない。けれどあそこは、父と母との、大切な記憶がたくさん詰まった家だった。それが手酷く破壊され、遥か遠い異国の地にまで逃げ延びることになってしまったのはどういうわけか。もとはと言えば、何の因果か一切の縁も所縁もなさそうなさなかに、ヨハネスという大富豪が、それも財界最暗部を牛耳っていたような怪人が自身の国が買えるような遺産を相続させると決めたせいだろう。しかしヨハネスはもうこの世になく、その真意を知ることはできない。遺言にも、なぜさなかなのかは記されていなかった。ならば、誰を恨むべきだろうか。あの襲撃者たちも、“黒”も、“黒”の言葉を借りるなら道具に過ぎない。彼らはただ、依頼を達成するために、報酬のために、最適な行動をしただけなのだろう。銃が、引き金を引けば撃鉄が雷管を叩き、弾丸を発射することと同じことだ。ならば、その依頼主たちを恨めばいいのか。
……それも、何か違う気がする。
依頼主たち、つまりヨハネスの遺産を狙う連中は、別に誰かに命じられてそれを求めているわけではあるまい。言ってみれば、それは彼らにとって当然の行動なのだろう。より資産を蓄え、権力を身に着け、世界の裏で糸を引く。ヨハネスの後釜に座るのが、彼らの目的のはずだ。
それならば。
……あたしは、何に対して腹を立てればいいのかしらね。
燻る。そのこと自体に苛立ちを感じすらする。
あたしの敵は、誰だ?
「まあ、いいわ。あたしがここでどんな感情に苛まれたところで、当面の命の保証はされているわけでしょ。それで? この後あたしたちは、どうなるの? 何をすればいいの?」
「あなたの身元確認は済み、正規の相続者であることは受理されました。先に用意しておいた遺産相続の契約書も提出済み。機構側での準備さえ整えば、速やかに正式相続の調印です。エレオノールが間に合うかわかりませんが、立会に間に合わないようであれば、例の委任状を提出することになりますね」
「調印って、印鑑でも捺すの?」
「似たようなものですが……まあ、ロジ的な話も含めて、直接聞いた方が早いでしょう」
言って、“黒”は振り返った。え、とさなかも首を巡らせると、いつからそこにいたのか、初老の男性が立っていた。傍には細かな装飾の施されたワゴンがあり、ティーセットらしき一式が載っていた。ルームサービスだろうか。しかしノックもなしに、気配もなく?
二人の視線を受けた男性は、眉を上げ、肩をすくめた。
「あー、いいかな? すまないね、ノックはしたんだが、相談に夢中だったようで」
ルームサービスにしてはフランクだ。どうぞ、との促しに頷き、男性はワゴンをさなからのつくテーブル脇につけた。そして手慣れた様子でティーカップ、紅茶、茶請けのスコーンなどを配膳していく。
ちなみに、三人分だ。さなかと“黒”と、もうひとりは誰だ?
「さて。ではちょうど我々の話に至っていたようでもあるし、このまま話させてもらおうかな」
言いながら、ルームサービスの男性がそのまま三人目の席に着いた。え、とさなかが口を半開きにすると、男性はフレンドリーにウィンクなど寄越す。
「国際遺産管理機構本部長、ダヴィッド・ジェイストンだ。宜しく、レディ」
気さくに握手など求めてくる。は、と開いた口の塞がらないまま、さなかは握手で返した。
いや、いやいや。
「国際遺産管理機構なんて組織があること自体、知ったのが昨日今日の話だから、職階構成がどうなってるのかなんて知らないけど、本部長ってことはかなり偉いってことでしょ」
「総長の次、実務上のトップですね」
「そんな人間が、どうしてしれっとルームサービスを運んできてるのよ――運んできてるんですか」
驚きと呆れの綯い交ぜになった感情で口端をひくつかせるさなかに、ダヴィッドははっはっはと笑う。
「別に畏まる必要はない。私はヨハネス氏の遺産を管理する任にある者であり、貴君は適正に遺産を引き継がれるべき立場にある者だ。いわば業者と顧客。立場は対等であるとも」
「あなたがそう言うのなら、無理して畏まりはしないけれど……ええと、それで? 何の話だっけ?」
ふむ、とダヴィッドは口髭を一捻りしつつ、とりあえず、と席を勧めた。
「まあ座りたまえ。そして一口賞味いただきたい。これはなかなか良い紅茶でね。心も落ち着く」
どうも拍子を外されているようで腑に落ちないが、とにかくそうしなければ話も始まらないようだ。さなかは浮かせていた腰を下ろし、とりあえず紅茶を口に含む。
芳醇な香りが鼻孔までじんわりと抜けていった。普段は安物の麦茶ばかりで、紅茶の良し悪しなど全く門外漢なさなかだが、確かにこれが高級品であることはわかった。
それが紅茶の効果であるのかどうかはともかく、一息つくことで落ち着きを取り戻す。
「……それで、そう、正式調印の手続きだったわね。私には何が必要で、何をすればいいの?」
うむ、と自らも紅茶の香りを堪能していたダヴィッドは、ゆるりと視線をさなかに向ける。
その視線を受けて、さなかは反射的に居住まいを正していた。
気迫があるわけではない。鋭さや、圧があるわけでも。しかしそれは、そういう視線だった。
「難しいことは必要ない。大部分の手続きはヨハネス氏が既に終えている。従って貴君がすべきことは最後の一手、意志を示すこと。それだけだ」
つまり、とダヴィッドは言う。
「貴君の問いに答えるなら、貴君に必要なものは受け継ぐという意志であり、行うべきは調印であると、そういうことになる」
もって回った言い方は、余人が言えば鼻につくであろうが、しかしこの人物が言うと迫力を増大させた。不動の大山のような重厚さを、ダヴィッドはあまりに自然に纏っている。
詳細を詰めよう、と彼は続けた。
「日時は明日、午後13時を考えている」
「明日ね。急、と思わなくはないけど、悠長にしているような話でもないものね」
「その通りだ。一応、貴君が望むのならば前後することも容易だが、どうするかね?」
「構わないわ。予定通りで進めて頂戴」
「よろしい。場所は当機構の儀礼場で行う。当機構が遺産相続を行う通常の一室だが、警備は構内随一だ。そしてここで、貴君にはひとつ選択してもらいたい」
「何を?」
「メディアを入れるか、否かだ」
いいかね? とダヴィッドは言う。
「ヨハネス・グレゴール氏の遺産相続だ。世の人々は歴史的な瞬間であると捉えるであろうし、その瞬間を目にしたいと望むものも多かろう。言われずとも、メディアはその様を発信したがる。実際既に、当機構にはその手の取材依頼が世界中から殺到している」
メディア。つまりはテレビ局、新聞記者、パパラッチか。成程、とさなかは頷く。
「選択肢があるってことは、一切メディアを排除することもできるわけよね」
「無論だ。どれほど下世話で狡猾なパパラッチひとりであろうと、当機構の警備は決して通さない。自殺願望があれば別だが」
「命の惜しくない奴だけ、押し通れってこと?」
「実際、無謀なパパラッチは年に数人のペースで射殺されていますよ」
こともなげに、“黒”が口を挟む。へえ、と普通に応じてしまったが、一瞬後に、え、と“黒”を見返す。え、射殺? 年に数人のペースで?
「命知らずというか、自分だけは大丈夫だと根拠なく確信する愚か者はどこにでもいるものです。ああ、勿論、事故として処理されていますよ」
“黒”は肩をすくめるが、いや、そういう問題ではない、というか事故として処理されているとか、聞きたくもない暗部だった。さりげなくダヴィッドを見るが、彼は柔和に微笑んでいる。それは、肯定ですか?
「……うーん」
思わぬところに気を取られたが、吐息をひとつして意識を戻す。
……率直なところだと、メディアなんて排除したい。
どのような形であれ、どんな書かれ方であれ、自身の存在を広く知られたい、などという願望はない。功名心もないが、何より今のさなかの状況においては、あまりに目立つことこそ避けるべきではないだろうか。
だが、即決でそうと決めることを躊躇わせる引っ掛かりが、内心にあった。それが何なのか、自分だけでは判然としないのだが。
十秒、逡巡し、しかしきっぱりと吐息した。
自分だけで考えても埒が明かないわ。
「クロ。教えなさい。メディアに映されることによるデメリットは?」
「あなたも思い当っているでしょうが、ふたつ。ひとつは、今後の危険度が増しますね。居場所、人相、背格好が全て明るみに出るわけですから。これまで曖昧な情報での手配であったものが、完全な指名手配となります」
「でも、そんなのはどのみち時間の問題でしょ。ここに入るときにあれだけ派手にやったんだから、私であることが断定できていないとしても、“洲崎・さなか”が入ったんだろうってことは火を見るよりも明らかってなもんだ。あとは、出てくる人間をあらゆる方向から監視していればいい。顔が割れていないということは、逆に、出てくる人間で知られた顔じゃない奴が洲崎・さなかだ」
「機構がメディア統制を行うのは、機構内部のみでしょうしね。外に一歩出れば、機構はもう関与しないでしょう」
“黒”の言に、ダヴィッドは悠然と頷く。とはいえ、
「人目をかい潜る抜け道ならば、複数用意されている。そこを使えば、誰にも気付かれることなく外へ出ることができるだろう」
ダヴィッドの提案に、いいえ、とさなかは首を振った。
「確かに、その通路を使えばこの場は乗り切れるんでしょうけれど。どうせ、人目を限界まで忍んで移動し続けたところで、あたしのプロフィールが割れるのは時間の問題よ。よくある名前でもないし、既に襲われているんだから、洲崎・さなかをあたしと同定している連中も少なからずいる。あたしの情報はいつまでも隠し通せるわけでもないから、遅かれ早かれどこかのメディアに報道されるんでしょうね。洲崎はともかく、さなかって名はよくある名前じゃないし、日本じゃもう特定されているかもしれない」
「宿泊室のテレビは日本のメディアにも接続できるが、観るかね?」
「遠慮しておくわ。どんなあることないこと下世話に報道されているか、少なくとも気分のいいものではないでしょうし。――ふたつめも、検討はついてる。立ち入っているメディア関係者の中に刺客がいる可能性でしょう」
ほう、とダヴィッドが眉を上げた。とはいえそれは不快を示すものではなく、面白がるような色だ。
「当機構の警備を疑うかね? 入構の際には厳正な身分チェックを行うが」
「身分証の偽造や経歴の詐称、果ては実在する別人になり替わることだって、その道の連中からしてみたらそれほど難しくはないんじゃないの?」
くっと顎を上げて、さなかはダヴィッドを真正面から見る。その視線を真っ向から揺らぎなく受けて、すぐにダヴィッドは破顔した。
「違いない。それで身分を証明できるのは真っ当な人間だけで、締め出せるのは素人のみ。真に貴君を脅かそうという輩からしてみれば、その程度のチェックを抜けることは造作もないとも。――ああ、認めよう。当然、我々とてその上での対応策を常に講じてはいるが、結局のところ、多数の外部の人間を招き入れている時点で、絶対の安全は保障できない」
うん、とさなかは頷いた。わかっていたことで、今それ以上追及することではないのだ。だから、じゃあ、とさなかは続ける。
「あたしの思うメリット」
「聞きましょう」
「ヨハネス・グレゴールの遺産を継いだのはあたしだと、この美少女洲崎・さなかであると、全世界に知らしめる」
「顔が割れるのはデメリットだったはずでは?」
「先に美少女ってとこに突っ込んでくれない?」
「…………」
黙殺された。
「……さっきも言ったけど、顔が割れるのは時間の問題。そして、遺産を狙っている連中は、どうせそれを恐れてあたしが可能な限り先まで身を隠そうとすると考えているはず。だから、その逆を打つ」
いい? とさなかは言う。
「大々的に、あえてこちらから全世界にあたしの尊顔を知らしめる。あらゆる業界、遍く人々に最大限のファーストインプレッションを与える。そうすると、顔も知れない極東の小娘が、恐れを知らない紅顔の美少女にジョブチェンジするわけよ」
「興味深いので先を聞こう。何を目的にそうするのかね?」
頷いて、さなかは続けた。
「この国に来るまでに民間の旅客機を使ったのと近い発想なんだけどね。一般の社会にまで、あえてあたしという個人を認識させる。洲崎・さなかがあたしであると確立すると、そう単純にあたしを暗殺するような手段には出にくいと思うのよ」
「そうだろうか? むしろ、君の居場所が明らかになることによるリスクの方が大きいようにも思うが」
「実行されれば、ね。あたしが思っているのは、実行に踏み切ることへの抑止力。あたしを殺すこと自体は可能であっても、顔出しした直後のあたしが暗殺されれば、その直後に名乗り出た奴が容疑者ということになる。少なくともそういう名目で、あたしの資産を狙う奴らは牽制しあうことになるんじゃないかしら」
成程、とふたりは頷く。
「発想としては悪くない。確かに、組織力の大きな連中であれば、互いに牽制し合い、直接的な手段に出ることは控えるかもしれない。だがそれは、少なくとも財界に属するような大組織であれば、だ」
試すような口調で、ダヴィッドは足を組んだ。
「打算のないような人々には通じない。宗教的主義信条、テロリズム、功名心、善意、悪意、動力源が何であれ、目先しか考慮できないような連中は、言ってみれば君を排除することしか念頭に置かず行動に出るぞ。財界ほどの手段を持たないがゆえに短絡的、直接的な手段を取る。それこそ、爆弾を全身に巻いてここへ突撃することもあるかもしれん。その辺りは、どうするのかね?」
「自爆テロは、さすがに勘弁してほしいけど……ま、そこはそれ、クロとあなたたちに任せるわ。まずは侵入されないこと。次いで侵入された場合のこと。対処はよろしくお願いする。あなたたち、その辺はプロなんでしょ? 具体的な対処法は、いいように考えて頂戴」
決まりね、とさなかは不敵に口端を上げてみせた。
「明日の午後13時。メディアも入れる。それで行きましょう」
ふと自分の手を見下ろす。右手が微かに震えていた。そっと左手で包み込み、数瞬、瞳を閉じる。
そして次に目を見開いたとき、その双眸には常の、さなかの光が宿っている。
「狼煙を上げるわ。押し付けられた大迷惑だけど、あたしのだって言うのなら受け取ってやる。あたしが、どこの小国の田舎娘とも知れないこのあたしが継ぐってことを、まずは知らしめてやるのよ」




