9. 初めてのおつかい 前編
貨幣レートを修正
大まかな街の地図を見せてもらったので、さっそく外出しようとしたら、ついでにパンや保存食を買ってきてくれと言われ、硬貨が入った袋を渡された。
国によって貨幣レートはまちまちのようだが、フィーン王国で流通する主な通貨は以下となってるとリクルから教えてもらった。
銅貨10枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
金貨100枚=白金貨1枚
渡された硬貨袋をチラ見すると、銀貨が数十数枚に銅貨が十数枚といったところか。
「よろしくね…あ。出来れば適当に服を買った方がいいよ。その服装はココだと変わってるからね」
確かに。未だにYシャツとスーツ姿だしな。
「了解。じゃ行ってくるわ」
◇◆◇
市場へと続く道を歩きながら、周りを見渡すと、しばらくは同じような豪華な家々が並んでいたが、賑わいや喧騒の声が聞こえてくるようになると、建物の材質や質感が明らかにチープになってきた。
広さも2部屋や3部屋くらいで、ここらの家々を見る限り、これが標準的な家屋なんだろう。
このまま大通りに出れば、屋台や市場があるようだが、その前に服装は何とかした方が良さそうだ。
…さっきから、すれ違う人達から変な目で見られてる。そこまで人通りは多くないのに、この状態じゃまずいよな…
が、出発前に見たおおざっぱな地図には、衣類を扱う店がどこにあるかは載っていなかったため、どこに行けばいいかわからない。
「リクルに服屋の場所、聞いとけばよかったな」
独り言を呟きつつキョロキョロしてると、少し先の路地で屈みながら、俺と同じくキョロキョロと何かを探す女性が視界に入った。
10代後半くらいだろうか、茶色でふわっとしたセミロングの髪、薄い青色でマキシ丈のスカート姿の美女だが、いったい何をしてるのかと気になって見たら、こちらを向いた女性と目があった。
「何かお探しですか?」
「えっと…」
目があったのに、声をかけずに無視するのも失礼かと思ったが、めっちゃ警戒されてる。まぁこんな格好だしな…
「突然で失礼しました。何かお困りのように見えたので、お声をかけたのですが、お邪魔のようですね。では…」
不審者扱いされないよう、出来るだけ優しく丁寧な口調で、この場から立ち去ろうとしたら、女性は慌てて立ち上がった。
「ああっ!こちらこそ、すみま…申し訳ありません!」
おぉ?そこまで謝られる事でもないんだけどな。
「先ほど、ここで人とぶつかった際、ブローチを落としてしまったので探しておりました。お貴族様の手を煩わす事ではごさいませんので。お声がけありがとうございました」
女性は説明し終わると、両手をお腹付近に添えて敬礼してきた。あまりにもへりくだった姿に、今度は俺が慌ててしまう。
「あ。いや、こちらこそ逆に申し訳……ん?貴族?私は貴族ではないのですが?」
「え?そのような上質なお召し物なので、てっきり貴族様だと…」
なるほどね。前世では格安スーツでも、こっちでは高級服なのか。そんな姿で路地をウロウロしてたから、周りからジロジロ見られてたのかもな…
「勘違いさせてすみません…服装は少し変わってますが一般市民です。ここで関わったのも縁ですし、探すのお手伝いしてもよろしいですか?」
ここまで会話して、立ち去るってのも気まずいしな。急ぐ用事もないし断られなければ一緒に探そうか。
そう思って声をかけたら、貴族じゃないとわかってホッとしたのか「すみません。花をモチーフにしたものです。お願いします」と言うので、二人で探し始める。
◇◆◇
……が、手分けして探しても、なかなか見つからない。20分くらいは探してたと思うが、結局見つからなかった。
「…これだけ探しても、見つからないなら仕方ないですね…ごめんなさい、せっかく手伝ってもらったのに…」
女性は、悲しそうな表情をしつつも、申し訳なさそうに頭を下げた。
…うーん…そんな顔されるとなぁ
なんとかならないものかと思案して、ふと気づいた。検索スキルで探せないか?ためしに“花モチーフのブローチ”でどれだけ数あるのか検索してみた。
◇count(*)◇
82,384
お!いけるな。全世界で8万個弱が多いのか少ないのかはわからんが…探せる数じゃないな。
でも、何を条件にして絞りこめばいいんだ?実物を見たことがあれば、細工や素材で絞れるんだが…エルニナーサの街全体?それでも、少なくとも数十はヒットしそうだし…
頬を指で撫でつつ模索してると、ふと感じた視線。見ると、女性が困惑した様子でたたずみ、視線が左右に泳いでいる。そんな瞳を見て不意に閃いた。
ーーそっか。簡単な方法があるじゃん
目の前の女性を検索した後、“所有者がライラ=アズール” かつ “花モチーフのブローチ” で検索する。
◇種別◇
ブローチ
◇名称◇
クリスタル・フラワーリーフ
◇素材◇
ミスリル、シルバー、クリスタル
◇座標◇
(78025 , 29438)
自分の座標と比較しながら徐々に近づいていくと、二人で探してた場所から少し離れた位置にある、樽が積み重なった隙間の先に落ちていた。
「あったあった。ライラさん、これですよね?」
「あ…!はいっ!それです!」
驚きつつも、安堵の表情で頷くライラさんに、ブローチを手渡す。
「素敵なブローチですね。破損も無いようですし、無事に見つかって良かったです」
「本当にありがとうございました。とても大切にしてた物だったので…あの…もし宜しければお名前を伺っても?私はライラ=アズ…あれ?私名乗りましたっけ?」
ライラさんは、既に名前を呼ばれていた事に気づき困惑する。
「あ…伺う前に、鑑定で勝手に見てすみませんでした。私はマサト=スガノと申します」
ブローチ探しに必要だったとはいえ、恐らく個人の情報を勝手に見るのは、あまり好ましい行為ではないと推察して謝罪する。
「いえいえ、謝る程の事でもないですよ。マサトさんは鑑定士の方でしたか。ぜひお礼をしたいのですが…ご一緒にお茶や食事など…」
おぉ!美女からお食事のお誘いとか、外出初日から、めっちゃツイてるんじゃ?!
もちろん行く…と思ったが、この目立つ服装で歩き続けるのは厳しいのと、既に結構な時間が経過してるのに、リクルの依頼が一つもこなせてない事に気づく。
泣く泣くお誘いを断り、立ち去ろうとして、ひとつ重要な事を思い出した。
最後にそれをライラさんに聞いてみた。
「すみません…服屋はどこでしょう…」