7. ご褒美?
「……んぁ……ふぁぁ~」
寝ぼけた声が、あくびと一緒に漏れる。
ベッドから気だるい体を起こしつつ、手で髪の毛をクシャクシャしてると、寝ぼけた頭が昨日までの過酷な労働をフラッシュバックしてくる。
暫くは、本と本棚とお掃除ロボットは見たくないな…
本の色を元に戻すのは一瞬で終わったが、その後のデータ処理と、大量登録を処理するのに、24時間フル稼働というブラック企業もビックリな、某栄養ドリンクのCMをリアルに体験すること1ヶ月。
やっとこさ処理し、リクルと一緒にクレーム先の豊穣神セレースと鍛冶神ヘパイストス他、多数の神々に謝罪しまくって、ようやく異世界!に来たのが昨日の深夜だった。
どうやってこのベッドに来たのかも覚えてない…
そんな極限状態だったことに軽く戦慄したが、お腹が空腹を訴えてきたので、寝ぼけ眼をこすりつつ、とりあえず立ち上がろうとベッドの端に手をかけると、何か柔らかい感触が伝わってきた。
「ん?」
よく見ると、手を置いた先は毛布の一部が不自然に盛り上がっている。引っ剥がすと、中から猫のように丸まって眠るリクルがいた。
どうやら、リクルのお腹辺りに手をついてしまったようだが、目を覚ます気配はなく、静かな寝息が聞こえてくる。
「寝てるときは可愛いんだがな…」
セクシーなネグリジェ…ではもちろんないが、ノースリーブににショートパンツという姿や、サラサラの金髪や整った顔立ちに思わず見入っていると「…ぅ…」と小さく呟く。
起きたのかと思ったが「…ふふん…○※×…どぅょ…」とゴニョゴニョと寝言を呟いている。まだ寝てるようだ。
「どんな夢を見てるやら。若干ドヤ顔だから、意外と感謝された、神さま達への説明の時か?」
今回のトラブルは、信者からの嘆願?突き上げ?がキツかったのか神さま達も結構こたえたらしく、対応が遅れに遅れたのに感謝の言葉をかけてくれる方々も多かった。
あまりないことなのだろう。リクルはここぞとばかりに、胸を張ってドヤ顔で話していたのを思いだした。
「…だけど、そもそもはコイツのイケてない対応が原因なんだよな…」
そのせいで、俺も巻き込まれたのを思い出すと、まだ続いてるリクルのドヤ顔に、少しイラッとしてきた。
ちょっとしたイタズラ心が芽生えてきた俺は、リクルの耳元で「あぁ…また鑑定が真っ白に…」とか「前年比1000%の大豊作だってさ…」とかつぶやいてみた。すると、ドヤ顔から一転、みるみるうちに苦悶の表情に変わり「…ぅぅぅ…」とうなされだした。
「…ぷっ…くくくっ…」
予想以上に効果抜群だったため、堪えきれず笑い声が漏れてしまう。その声に気づいたのか、うなされるのに堪えきれなかったのか、リクルが目を覚ました。
「お。起きたか。良い夢みれたか?さすがに前年比1000%はキツいよなぁ」
とニヤニヤしながら声をかけると、先程までの悪夢の原因が俺だと感づいたのか、訝しげな顔をしつつ睨んできた…が、直ぐに俺を見てハッとした表情になる。
「な?!なんでマサトがいるの!?」
「なんでと言われてもな…先に行っててと言ったのリクルだろ?このベッドに最初に寝たのは俺だ」
「確かに言ったけど、ここ私の部屋なの!他にも部屋あるのに、なんでここなの?!」
お?そうなんだ。それは悪かったか。だけどさ…
「部屋間違えたのは悪かったけどさ、そう怒るなって。別に襲いかかった訳でもないし。そもそも、確認しないで寝たのはリクルだろ?」
ちゃんと服はきてるし。そもそも、何かしようという体力もなかったしな…
「ま、100年かかるって言われた作業を、1ヶ月で終わらせたんだ。美少女と添い寝くらいご褒美があってもいいだろ?」
美少女ではあるが残念感が強く、ご褒美とはあまり思えないのだが、とりあえずご機嫌をとってみたら「まぁ…美少女だけど…」とか、ゴニョゴニョ言いながら照れだした。
「…悪気もなかったようだし、次は気をつけてね」
…どちらかというと、リクルが気をつければ良いんだけどな。
「わかった。で、そろそろ状況説明をして欲しいんだけど。ここはどこなんだ?」
リクルに質問しつつ辺りを見回すと、部屋の広さは20畳くらいで、ベッド横には机やクローゼットがある。部屋中央には暖炉が設置され、壁には木製フレームにガラスがはめ込まれた窓があった。
「部屋の内装は全体的にアンティークな雰囲気だし、図書館では感じなかった空腹感もあるから、ここはリクルが管理するデータが実際に存在する“異世界”だと思うんだけど?」
「その通り。ここはフィーン王国のエルニナーサという地方都市よ。私もお腹減ってきたから、話の続きはご飯食べながらにしましょ」
◇◆◇
朝食はリクルが作ると言うので、その間に家を見て回ろうと思い、部屋をでたが建物内の広さに驚かされた。前世の感覚で言うと、お屋敷とか豪邸といった豪華な家で、少しテンションが上がる。
家は2階建てで、図書館を出た先は2階の書斎部屋、寝ていた部屋はその隣だった。
異世界ラノベ序盤の宿泊先といえば、新人冒険者用の安宿でチープなのが多いが…
他の住宅や街はみてないから、これが普通レベルなのかもしれないけど。ゆっくり休めそうな家で良かった。
前世より遥かに豪華な家に驚きつつ、1階のダイニングでまってると、リクルがパンとスープを持ってきてくれた。